事前指示書をご存じですか? 医学博士に聞いた「延命治療をしない」選択とは

誰にでも最期は訪れます。本人だけではなく、家族もあらかじめ心の準備ができるよう、治療方針などを書面に残しておくことが必要です。その大切さを考えます。医学博士の高林克日己(たかばやし・かつひこ)先生に、延命治療についての自分の意思を明確にするための「事前指示書」について教えてもらいました。

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最期を迎えるとき自分はどうしたいか

ある日、普通に生活していたのに急に倒れ、気が付いたら病院のベッドの上で、体中にチューブがつながれていた――。

こんなことが起きてしまったら、どうすればいいのでしょうか? 

体が動かせない、話すこともできないというようなことが、脳梗塞や脳出血ではありえます。

回復の見込みがないまま「延命治療」が続けられることも。

「『延命治療』には明確な定義はありませんが、一般的には『病気の回復の見込みがなく、死期が迫った人に、生命を維持するためにだけ行う治療』と捉えられています」と高林先生。

例えば、自分の口から食事が取れなくなったとき、栄養を補給するために「胃ろう」や「中心静脈栄養」などの延命措置を行います。

そのまま栄養を摂らなければ、死んでしまうからです。

家族が「延命治療」を希望しても、本人は生命を維持するためだけの治療を望んでいないかもしれません。

「意識がなくなったり、話せなくなったときのために、『延命治療』についての自分の意思を明確にします。そのための書面として『事前指示書』があります」と高林先生。

「事前指示書」は、医療行為などのさまざまな項目が書かれています。

一つ一つについて、希望するかどうかが明記できます。

[人生の最終段階における意思表示を書面に残すことをどう思う?]

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「事前指示書」などを用意している人は少ない

上のグラフは「自分の意思を事前指示書やエンディングノートのような書面に残すことをどう思いますか?」という質問の回答です。

7割近くの人が「賛成」と答えています。

しかし、下のグラフを見ると、実際は9割以上の人が何も準備していないことが分かります。

[賛成の人のうち、実際に意思表示の書面を作成している人は少ない]事前指示書をご存じですか? 医学博士に聞いた「延命治療をしない」選択とは 2004p064_02.jpg

出典:厚生労働省「人生の最終段階における医療に関する意識調査報告書」(2018年)を基に作成。

「病気で倒れたり、認知症が進んだりしてからでは、自分の最期についての希望を周りの人に伝えることは難しくなります。そうなる前に、事前指示書のような書面に残しておくことが大事です」と高林先生。

「事前指示書」に「延命治療をしない」という本人の希望が書かれていても法的な効力は認められません。

医師は患者の命を救うことが使命。

「事前指示書」は死が避けられない状態においてのみ有効です。

「事前指示書があれば多くの場合は、治療方針に対する本人の希望として配慮すると思います」(高林先生)

家族と相談しながら「事前指示書」を作成する

それでは、事前指示書を書くタイミングは、いつがいいでしょうか。

「自分が病気やけがで死を意識したとき、脳卒中を起こすリスクが気になったとき、あるいは還暦などの節目に作っておくと安心です」と高林先生。

書く前に家族や医師と話し合いましょう。

相談せずに書いて、家族が見つけにくいところに保管しても、いざというときに役に立ちません。

自分から話し合いを提案するとスムーズです。

「事前指示書」の医療用語は難しい場合があります。

記入する場合、下図を参考にするといいでしょう。

「事前指示書で」知っておきたい言葉

<蘇生処置について>

1.心臓や呼吸が停止したときに救急蘇生処置をしないでください。

2.救急蘇生処置はしても人工呼吸器にはつながないでください。

3.積極的に蘇生処置をしてください。

4.判断は家族(      )に任せます。

5.判断は医師(    医師)に任せます。

6.その他(      )

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●救急蘇生処置
心臓を手で押して動かす心臓マッサージや、口や鼻などから肺に管を入れて人工呼吸をすること。

人工呼吸器
肺に空気を送る器械。自分の呼吸が停止しても、自動的に呼吸を続けることができます。一度装着すると呼吸が回復しない限り器械を外せません。

<注射について>

1.食事の代わりの点滴(中心静脈栄養、高カロリー輸液)をしないでください。

2.必要なら中心静脈栄養、高カロリー輸液をしてください。

3.判断は家族(      )に任せます。

4.判断は医師(    医師)に任せます。

5.その他(      )

事前指示書をご存じですか? 医学博士に聞いた「延命治療をしない」選択とは 2004p065_02.jpg●中心静脈栄養、高カロリー輸液

首や股の太い血管から濃度の高い点滴を入れます。食事を取らなくても長期間、生きられます。

<栄養について>

1.栄養が口から入らなくなったり、のどがむせて食事を取れなくなったとき、鼻から管を入れる胃管やおなかに穴を開けて管を通す胃ろうを作らないでください。そのために生きられなくなってもかまいません。

2.栄養を摂るために必要なら鼻から胃管を入れてください。 胃ろうは作らないでください。 必要ならば胃管、胃ろうを作ってください。

3.判断は家族(      )に任せます。

4.判断は医師(    医師)に任せます。

5.その他(      )

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●胃管
鼻から細いチューブを胃まで差し込み栄養を入れます。食事を取らなくても長期間、生きられます。

●胃ろう
おなかに穴を開け細いチューブを通して、外から胃に直接、栄養を入れます。食事を取らなくても長期間、生きられます。

<臓器提供・献体について>

1.臓器提供意思表示カードを持っています。
 ・保管場所 (      )

2.角膜提供のためアイバンクに登録しています。 ・保管場所 (      )

3.献体の登録をしています。
 ・登録した団体 (      )
 ・連絡先 (       )

4.臓器提供や献体はしたくありません。

5.特に考えていません。

6.その他(      )

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●臓器提供 
自分の死後に心臓、肝臓などの臓器を提供して、臓器移植を待つ人に役立ててもらいます。 

●献体
事前に、自分の遺体を医学部の解剖学教室などに提供するための登録をしておき、自分の死後、遺族が登録した大学に連絡します。

取材・文/松澤ゆかり イラスト/伊藤絵里子

「自分らしく最期を迎える準備の仕方」その他の記事はこちら!

 

<教えてくれた人>

高林克日己(たかばやし・かつひこ)先生

三和病院顧問、千葉大学名誉教授 。医学博士。東松戸病院、千葉大学医学部附属病院などを経て現職。著書に『高齢者終末医療最良の選択』(扶桑社)。

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この記事は『毎日が発見』2020年4月号に掲載の情報です。

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