仕事で転勤や異動、自分や家族が病気を患うなど、人生の転機を迎える可能性が高い中年期。急な報せに焦るかもしれませんが、うまく乗り越えれば残りの人生を有意義に過ごすチャンスにもなります。そこで、『自分らしく生きる! 40代からはじめるキャリアのつくり方:「人生の転機」を乗り越えるために』(石川邦子/方丈社)から、女性が抱えるライフキャリアの悩みとその解決方法について、連載形式でお届けします。
いくつになっても自分を育てる
ここで、尊敬する宮城まり子先生(歌手、女優、映画監督、福祉事業家)がよく言われる「育自」という言葉をご紹介します。
「自分を育て成長させるのは自分だ」という意味の言葉です。
環境のせいにして立ち止まってしまっては、自分の可能性の芽を摘んでしまいます。
中年期は人生の折り返し地点です。
自分を取り巻く環境に問題があるのなら、その環境をどのようにして変えていくことができるのかを考えてみましょう。
急いで自分を取り巻く環境を変える必要はありません。
たとえば、お子さんが高校1年生だからあと7年は今の収入を確保しなければならない。
では、10年先にキャリアビジョンに向けたアクションを起こそう。
それまでは、現状維持と10年先のビジョンに向けた準備を少しずつしていけば良いのです。
自分の人生に関心を持って、可能性を拡げていきましょう。
40代からでも、50代からでも遅くはありません。
むしろ、中年期だからこそできることがあります。
自律的に自分らしい人生を選択していきましょう。
私の選択のひとつ、学び直しについてもお伝えしておきます。
色々な方から大学で勉強してみたい、学び直しをしてみたいと相談を受けます。
みなさん、大変そうとか、続かないのではという不安をお持ちです。
日本では欧米諸国と比較して、リカレント教育が遅れているといわれていますが、2017年には国からの予算も増え、推奨されています。
学生のときに習ったことだけでは通用しない、生涯にわたって学び続ける必要性もあってのことだと思います。
とはいえ、中年になってから未知の世界へ一歩、踏み出すことがなかなかできない人は多いでしょう。
私も、勢いで大学への入学を決めたまでは良かったのですが、入学金振込みの期日ギリギリまで迷っていたくらいです。
しかし、迷ったら一歩を踏み出すこと。
学び直しは、水車と同じです。
最初、回りはじめるときは、大きな力が必要ですが、一度回りはじめると勢いがついて、どんどん意欲や好奇心に後押しされていきます。
もちろん、時間的な拘束や経済的な問題もありますが、目的を持って学ぶことは、心の豊かさにつながるように思います。
若い世代とのふれあいや教授陣との関わりが良い刺激になるのです。進む学部や専攻によっても違いますが、専門科目や基礎科目など自分が学びたい科目を選んでいけば良いのです。
いきなり、学部や大学院に行くのは勇気がいるようなら、科目履修などで様子を見ることもできます。
大学によって差はあるものの、どこも少子高齢化の影響を受けており、社会人の学び直しには積極的に門戸を開いていますので、ぜひ調べてみてください。
「ワーク・ライフ・バランス」という言葉は一般的になってきましたが、私の恩師である、桐村晋次先生は「ワーク・ライフ・スタディ・バランス」が必要だとおっしゃっています。
学ぶことで新しい知識だけでなく、人脈や視野を拡げていけるのです。
そしてそれが直接的に何か外的キャリアに影響するというよりは(人脈をつくって営業に結びつけるというのではなく)、内的キャリアに影響を与えるのです。
たとえば、自己肯定感が高まったり、心が豊かになったりと。
その内的キャリアがまた外的キャリアを方向づけていくのではないでしょうか。
44歳からの学び直し
結果的に私は、44歳から大学で過ごした4年間と大学院での2年間であらゆる基礎的な知識を身につけることができました。
独立の5ヶ月前に、たまたま読んでいた雑誌に出ていた「社会人大学生」の文字に興味をひかれます。
そのとき募集をしていたいくつかの大学の中で、英語の試験がなかったのが法政大学のキャリアデザイン学部でした。
当時私はメンタルヘルスの予防的なカウンセリングを目指していましたので、キャリアについて学びたい、と明確な目標があったわけではありません。
しかし、高校を卒業して働いていく中で、「一度大学で学びたい」、「大学生を経験してみたい」と思い続けていたので、挑戦してみようと思ったのです。
新設の学部だったため、社会人の倍率はかなり高いようでしたが、なんとか合格。
ところが、入学手続きに入ったときに体育の授業が必須だと気づきました。
「44歳で体育の授業? 何をふざけたことを」と、学務に電話までかけて抵抗しましたが、結局受け入れるしかなく、夏季集中授業という4日間連続の体育授業を多摩校舎まで受けにいきました。
無駄な抵抗をやめると、「こんな経験、そうそうできるものではない」と楽しむ気持ちが、自分をどんどん解放させていくようでした。
3年生からスタートするゼミで25歳年下の友だちができました。
私が結婚した年に生まれた彼らと一緒に日々を過ごす。世代を超えたネットワークが拡がっていく。他では得られない経験です。
大学生活は私の第2のキャリアに大きな影響をおよぼす経験が詰まった4年間でした。
まさにこれこそが、スタンフォード大学のクランボルツ教授が提唱された「計画された偶発性」だと思います。
20世紀末に発表されたこの理論では、個人のキャリアは、予期しない偶然の出来事によってその8割が形成されるとしました。
その偶然の出来事を、主体性や努力によって最大限に活用し、キャリアを歩む力に発展させることができるという考え方です。
偶然の出来事をただ待つのではなく、それを意図的に生み出すように積極的に行動したり、周囲の出来事にアンテナを立てたりして、自らのキャリアを創造する機会を増やしていくことが大事だとしています。
積極的に行動して偶然を必然化する行動・思考のパターンとして次の5つを示しています。
- 好奇心 たえず新しい学習機会を模索すること
- 持続性 持続しなければ、成長できる機会は出現しない。失敗に屈せず努力し続けること
- 柔軟性 柔軟でなければ、成長できる機会を受け入れられない。こだわりを捨てること
- 楽観性 楽観的に前へ進む。新しい機会を実現可能と捉えること
- リスク・テーキング 不確実でリスクがあっても、行動を起こすこと
思いもよらぬラッキーを「棚からぼた餅」と言いますが、棚の下に行くという行動がなければ、ぼた餅が落ちるのをただ眺めるだけ。
まずは、棚の下に行くという積極的な行動が偶然を引き寄せます。
私はその後、大学院へ進みますが、心理学、社会学、教育学、経営学と幅広く学ぶことができました。
研究法も質的研究や量的研究、統計学などを学ぶことで、客観的な思考を養うことにつながりました。
論文を作成して投稿し、ふたつの学会で査読つき学会誌に掲載されたのは、大きな自信となりました。
前職では実力より常に肩書きが先行していて、心もとない状態でどこか不安を持ち続けていました。
そんな自分から、「中年期の危機」を節目に、変わることができたのです。
学び直しをしていくことで一歩ずつ積み重ねていく手応えを感じられるようになり、やっと最近少し自信が持てるようになってきました。
自信とは、字のごとく自分を信じること。
私がようやく自分を信じられるようになったのは、学問的な学びと実践経験の両面から自己研鑽してきたからです。
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