テレビなどでおなじみの経済アナリスト・森永卓郎さん。長男の康平さんも同じく経済アナリストとして活躍中です。
そのおふたりが初の共著『親子ゼニ問答』(角川新書)を刊行。60代と30代の経済アナリスト親子が、豊富な経験と、的確なデータ分析、そしてそれぞれの世代の視点を生かして、令和時代の経済状況を解説されています。
そこで、今回は長男・森永康平さんに、高齢者の単身世帯における貧困リスクについて教えていただきました。
『年収300万円がリッチに見えるとんでもない時代』(森永康平さん)
いまから16年前の2003年、『年収300万円時代を生き抜く経済学』(森永卓郎著、光文社)が発刊され大ヒットとなった。書籍の出版にはタイミングが非常に重要なようで、その前から父(卓郎)は似たような内容を主張していたが、そんな時代来るわけないだろ、と相手にされなかったようだ。
あれから6年がたった。国税庁が発表した『民間給与実態統計調査結果』によれば、2017年の平均給料(手当込み。賞与は含まない金額)は約364万円となっている。
でも、まだ300万円を超えているじゃないかと思われるかもしれないが、この数値はあくまで平均値だ。平均というのは年収1億円の人も100万円の人も合わせて計算しているため、実感よりも高く出る性質がある。
(出所):国税庁『民間給与実態統計調査結果』のデータを基に株式会社マネネ作成
それでは、違うデータを用いて、より実態に近い数字を見ていこうと思う。
総務省統計局が発表した『労働力調査(詳細集計)平成30年平均(速報)』によれば、雇用者の37.9%は非正規雇用であることが分かる。世の中で働いている人の4割近くは非正規雇用ということだ。
それでは非正規雇用の平均給与はどれぐらいなのだろうか。
国税庁が発表した「民間給与実態統計調査結果」によれば、2017年の非正規雇用の給与は175.1万円だ。
このデータを見て、どう感じるだろうか。
もはや年収300万円は人々を不安にさせる言葉ではなく、むしろリッチな人にすら見えてしまうのが現状なのだ。
(出所):2015 年までは総務省『国勢調査』による人数、20年以降は国立社会保障・人口問題研究所『日本の世帯数の将来推計 (全国推計) 2018年推計』による世帯数を基に株式会社マネネ作成。(注) 「一人暮らし」とは、上記の調査・推計における「単独世帯」または「一般世帯(1人)」のことを指す。
そして既に高齢者の貧困は毎年、現象として大きくなってきている。
高齢者の貧困リスクが高まりつつある理由の一つとして、高齢者世帯の単身化が挙げられるだろう。
我が国における一人暮らしをする人の推移を5年おきに時系列で見ると、高齢者が占める割合が右肩上がりとなっており、その傾向は今後も継続すると推計されている。
厚生労働省が発表した『年金制度基礎調査平成28年』によれば、65歳以上の収入に占める公的年金の割合の平均は70%を超えており、生活費の大半を年金に依存しているわけだが、ボリュームゾーンである65歳以上70歳未満における世帯の公的年金の平均額を見てみると、単身世帯は136.9万円に対し、夫の年齢が65歳以上70歳未満の夫婦世帯は241.1万円と単身世帯よりも5%以上多く受給していることが分かる。
つまり、高齢者世帯の貧困リスクが全体的に高まっているなかで、特に単身世帯の貧困リスクが突出して高いことがデータからは読み解ける。