認知症の人も働ける! 洗車や事務、昼食準備など社会とつながる環境を用意するデイサービス

「働く」ことには、生活のためにお金を稼ぐため、生きがいのため、人との関わりのため......といろいろな意義がありますよね。でもふと不安になることはありませんか?
「私っていつまで働けるんだろう?」
近年は高齢になっても介護が必要になっても働ける仕組み作りが進んでいます。そんな取り組みを取材しました。

 
できるだけ長く働ける環境づくりが大切

内閣府が18歳以上の男女1万人に行った世論調査では、「働く目的」について下記グラフの結果が出ています。60歳以上では働く目的を「生きがいを見つける」「社会的意義」とする人が多い傾向にあり、私たち世代の社会参加への意識の高さがうかがえます。

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■"働く目的"はお金だけじゃない!

しかし、私たちはいつまで働き続けられるのでしょう。国は65歳以上の雇用対策を進めていますが、では、認知症や介護が必要になったら......? 働くことはできないのでしょうか。

難しいと思われる状況の中、イキイキと働く人たちがいます。働ける環境をつくり、仕事をすることで社会参加を促しているデイサービス「DAYS BLG!」と、有料老人ホーム「クロスハート石名坂・藤沢」です。

介護が必要でも不要でも、社会とつながっていたい皆さんはイキイキと輝いているように見えます。仕事をする、社会で何らかの役割を果たすという行為は人にとって大切であると取材を通して痛感しました。仕事を通して社会や仲間とつながることが、自信になるのです。

「認知症があるのは事実だけれど、日常の中でいつも認知症だと感じながら生活しているわけではないことも事実なんです」とはDAYS BLG!の前田さんの言葉です。

日本は要介護になったり病があると、仕事ができず社会とつながりが保ちにくくなります。メンバーと共に働く環境を開拓するDAYS BLG!、入居者の生きがい創出のために働く環境を整えるクロスハート石名坂・藤沢。報酬はまだ少ないかもしれません。課題も多いかもしれません。しかし私たちの未来の生活や社会を、私たち自身が考える糸口になるのではないでしょうか。

 
お金を稼ぐだけでなく社会や仲間とのつながりを

東京都町田市にある「DAYS BLG!」は、働きたいという認知症の方をサポートするデイサービスです。DAYS BLG!では利用者を"メンバー"と呼び、メンバーは有償ボランティアとして仕事をします。仕事の内容は流動的で、毎朝ミーティングを開いてどんな仕事があるか、メンバー各々がどの仕事をしたいかを確認。その日に何を選択するかはメンバーの意思を尊重します。取材当日はカーディーラーの展示車の洗車、デイサービスの事務処理や昼食準備などがありました。

洗車を担当するメンバーは赤い作業着を着て車で出発。カーディーラーに到着すると水をかける人、洗う人、拭く人などに分かれテキパキと作業していきます。

認知症の人も働ける! 洗車や事務、昼食準備など社会とつながる環境を用意するデイサービス 1903_p091_01.jpg展示車を手際良くピカピカに仕上げていく様は見事。

「お互いの症状によってできる作業が分かっているから、自然と分担しているんですよ」とメンバーの一人。

 

認知症の人も働ける! 洗車や事務、昼食準備など社会とつながる環境を用意するデイサービス 1903_p091_02.jpgホイールやドアの内側など、細かな部分の汚れも見落としません。

 

時折、笑顔を交えながら、8人で4台をチームワークよく洗っていきます。台数により毎回30~60分の作業をして報酬は月2万円ほど。「みんなでやると楽しいし気持ちいい。やりがいがありますね」「家の車はこんなにきちんと洗車しないけど、仕事だから細かいところまでやるんですよ(笑)」とメンバーの皆さん。

DAYS BLG!がこの仕事を始めて5年がたちます。理事長の前田隆行さんが同店に何度も足を運び、心を動かされた同店の営業主任の方が会社と交渉し、1年半かけて実現。無償ボランティアとしてスタートし、関係を深めていく中で信頼を得て、有償ボランティアといういまの形になったそう。

お店側としては、初めは安全面やお客さまからの印象など不安に思う部分があったそう。しかし実際はそんな不安は必要なく、仕事は丁寧で仕上がりは毎回ピカピカ。会社の中では認知症に対する理解が深まり、近隣の方からの評判もいいといいます。

 

仕事を終えたら施設に戻り、昼食タイム。ゆっくりしたい人は施設で、大空の下で味わいたい人は公園などへ出かけます。昼食後は各々の意思でまた仕事をし、一日を終えます。

「日本のデイサービスは、要介護者が社会とつながりたくてもつながっていることがほとんどありません。ここでは、仲間や企業、社会、地域とつながることを目標に取り組んでいます。

認知症の人も働ける! 洗車や事務、昼食準備など社会とつながる環境を用意するデイサービス 1903_p091_04.jpg努力と活動が認められて、「認知症の私と輝く」の大賞を受賞。

 

作業も大切ですが仕事を通じてチームワークが芽生え、仲間と気持ちが通じ合えることも重要。認知症の方でも普通に仕事していますから、うまく認知症と付き合えばいいだけなんですね。介護されるのではなく自らが主役となれるよう、今後も推進していきたいです」(前田さん)

DAYS BLG!ではこの他に、社員研修の講演に呼ばれたり、企業の新商品開発のモニターに協力したりするなど活動の場が徐々に広がっています。

◆ある日のスケジュール
9:30 ミーティング
10:00 出発
10:30 作業開始
11:30 片付け、施設へ戻る
~ランチ休憩~
午後も各々の仕事へ

洗車の報酬:全員で月2万円前後(実労働時間は週6日ほど、1回30~60分)


■ NPO法人町田市つながりの開 DAYS BLG!
住所:東京都町田市成瀬台3-15-19
電話:042-860-6469


 

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取材・文/中沢文子

 

 
この記事は『毎日が発見』2019年3月号に掲載の情報です。

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