「遺産を相続したくない」という相談です。実はこのような相談は多くあるようです。方法は大きく分けて2つ。必要な手続きの方法などを、司法書士の小脇 盛先生に詳しく教えてもらいました。
【相談】
父が亡くなった場合の話ですが、父の遺産は、母と、父の事業を継いだ兄に相続してもらい、私は何ももらわないつもりです。この場合、私はどういった手続きをすればよいのでしょうか?(女性57歳)
小脇先生の【お答え】
思わぬ請求を受けぬよう、安全策として家庭裁判所で相続放棄することも検討しましょう。
今回の場合には、
1 「お母さまとお兄さまが遺産を相続し、相談者は遺産の取得をしない」旨の遺産分割協議(遺産の具体的な分配を決める、相続人同士の話し合い)をする。
2 家庭裁判所で相続放棄の手続きをする。
という二つの方法が考えられます。それぞれ違いがありますので、ご説明します。
【1の方法について】
相談者の家族構成ですと、お父さまが亡くなった場合の相続人は、お母さま・お兄さまと相談者の3名になります。法定の相続分(遺産を相続する割合)は、お母さまが2分の1、お兄さまと相談者が各4分の1になります。
しかし相続は、絶対に相続分のとおりに遺産を分配しなければならないというわけではありません。相続人の皆さんで行う遺産分割協議で、相談者は「遺産を取得しない」とする内容の協議をすることは自由です。
実際、配偶者が全財産を相続するといった遺産分割の結果をよく目にします。このような遺産分割協議を行い、遺産を取得しなかったことを「放棄した」としてお聞きすることもよくあります。
【2の方法について】
相続の開始から(原則として)3カ月以内であれば、家庭裁判所で手続きを行うことで、「相続放棄」をすることが可能です。相続放棄をすると、「その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす(民法939条)」ということになります。つまり、相続人としての地位を失うのです。相続人ではないため、当然遺産を相続する権利はなくなります。遺産分割協議に参加することもありません。もろもろの手続きに関与することもありません。
どちらの方法を採っても、相談者がお父さまの遺産を相続せず、お母さまとお兄さまが相続するという点では変わりませんが、一つ大きな違いがあります。それは、お父さまの債権者に対抗できるか否かです。
お父さまが債務(借金など)を残して亡くなった場合、遺産分割において何も相続しないことを協議(例えば借金はお兄さまが相続すると協議)したとしても債権者には対抗できません。
債権者が認めない限り、相続分に従って相続人が相続するものとなるため、借金の請求だけ受けてしまう可能性があります。
一方、家庭裁判所で相続放棄を行えば、相続人ではなくなるため、仮に債務があった場合でも、債権者から請求を受けることはありません。
プラスの遺産を相続するかどうかという視点だけであれば、わざわざ家庭裁判所で相続放棄までする必要はありませんが、実は債務の存在も考えて判断をした方がよいのです。