家族が亡くなった父のお金を使い込んでいたことがわかりました。相続のときはどうしたらいいのでしょう。弁護士の林 友宏先生にアドバイスしてもらいました。
【相談】
亡くなった父と同居していた実の兄が、父の生前、父の銀行口座から多額のお金を引き出して、使い込んでいたようです。相続の際、使い込んだ分のお金の扱いはどうなりますか。(女性62歳)
林先生の【お答え】
お兄さまが使い込んだ分のお金も相続の対象ですから、請求することができます。
まず、最初に確認しておきたいことは、お兄さまがお父さま名義の銀行口座から引き出したお金の使い道です。もし、お兄さまがお父さまの了承を得てお金を引き出していたり、引き出したお金をお父さまのために使用したということであれば、お父さまの財産をお父さまのために使用したことになるので、問題になる可能性は低いと考えられます。
これに対し、お兄さまがお父さまに無断で自分のためにお父さまの預金を使っていたということになると問題になります。例えば、お兄さまが事業を営んでおり、その事業に必要な支払いのために、お父さまの許可を得ることなくお父さまの預金を使ってしまったような場合です。他人の財産を侵害する行為は、不法行為に該当し、被害者であるお父さまは加害者であるお兄さまに対して、損害賠償の請求をすることができます。
また、お兄さまの財産取得について、正当化する理由(法律上の原因)がないことから、お兄さまの利得によって損失を受けたお父さまは、お兄さまに対して、利得を返還するよう請求することができます(これを不当利得返還請求といいます)。
そのため、本来であれば、お父さまは、不法行為または不当利得を理由に、お兄さまに対して、無断で使ったお金を返すよう請求することができます。ただ今回は、お父さまがすでに亡くなっており、お父さまがお兄さまに対してお金を返すように直接請求することができません。ここで、お父さまがお兄さまに対して有していた権利(不法行為に基づく損害賠償請求権、または、不当利得返還請求権)は、相続の対象となることから、この権利は、法定相続分にしたがって、相続人に相続されることになります。
例えば、あなたのご家族が父、母、兄の4人家族であった場合、お父さまが亡くなったときの法定相続分は、お母さまが2分の1、お兄さまとあなたがそれぞれ4分の1となります。分かりやすくするために、お兄さまがお父さまに無断で使った金額が400万円であったとすると、あなたは、この4分の1である100万円の請求権を相続することになります。したがって、あなたは、お兄さまに対して、100万円を支払うよう請求することができます(ただ、現実にお金のやり取りをするのではなく、遺産分割におけるお兄さまの取得財産について、無断で使用した預金額を反映〈減額〉させることで調整することもあり得るところです)。
相続は親族間での対立が生じやすいことから「争続」といわれることがありますが、お兄さまとお金の使い道を含め、よく話し合うことをおすすめします。
林 友宏(はやし・ともひろ)先生
弁護士法人梅ヶ枝中央法律事務所東京事務所所属。企業法務をはじめ、個人から依頼を受けて相続、交通事故、離婚、刑事事件など幅広い案件を担当している。