「相続税対策で不動産を買え!」という話をよく聞きますが、これはどうしてでしょうか? 税理士の坂本 剛先生にお話を聞いてみました。
【相談】
相続税対策で不動産を買え!とよく言われますが、なぜ不動産を買うと、相続税が安くなるのですか?(女性 58歳)
坂本先生の【お答え】
相続対策の不動産の活用は売却する際のことも考えましょう。
相続税は、亡くなった方の財産から債務(借金)を差し引いた財産に対してかかる税金で、その財産を受け取った遺族が支払わなくてはなりません。相続税率は金額が大きくなるに従い段階的に上がる累進税率です。1000万円以下は10%ですが、段階的に上がって6億円を超えると55%にもなります。
なぜ不動産を買うと、相続税が安くなるかというと、一般的に相続財産の評価額は、現金や預金より不動産の方が低くなるルールになっているからです。
現金を1億円持っている方が亡くなった場合、1億円が相続税の課税対象です(ただし、相続人の人数によって決まる「基礎控除」など一定の金額が差し引かれた後に課税されます)。
しかし、亡くなる前に1億円のお金を使い1億円の不動産を購入したとしましょう。その場合、土地の形状など不動産の状況により評価は異なるものの、土地はおよそ80%、建物はおよそ60%で評価されます。1億円で土地6000万円と建物4000万円を購入した場合には、土地4800万円+建物2400万円=不動産7200万円が評価額となります(下記・計算式1参照)。
例えば、相続人が1人の場合の基礎控除額は、3600万円です。現金1億円を持って亡くなった場合の相続税額は、1220万円(下記・計算式2参照)。
一方、土地6000万円と建物4000万円を購入した場合の相続税額は、520万円です(下記・計算式3参照)。差額分700万円の相続税を節税できることになります。
さらに、不動産を賃貸した場合には、相続財産の評価がもっと下がります。賃貸物件の場合は、上記に加え土地は79%、建物は70%とさらに減額されて評価されます。このように、相続税の計算では不動産の評価が低いため、税理士や金融機関などから相続対策として、不動産を活用した節税をすすめられることが多いのです。
しかし、相続税さえ安くなれば必ずしも良いとは限りません。相続人が複数いる場合に相続財産を分ける場合には、不動産を売却しなければならないかもしれません。また、その場合、地域やタイミングによっては、買った金額より安く売却しなければならないケースもあります。相続対策は節税以外のことも考えて行いましょう。
坂本 剛(さかもと・つよし)先生
税理士 坂本会計事務所代表。個人・企業の税務相談に応じる傍ら、講演活動も多数行っている。著書は『知識ゼロから決算書が30分でわかる本』(角川新書)他。