法律や税務上の対策よりも大事!相続で絶対にやっておくべきこと/法律のプロと相続を考える

pixta_12446032_S.jpg超高齢社会に突入した日本は、「相続対策」に関する情報にあふれています。書籍やネット、専門家や金融機関、不動産会社などが主催するセミナー。遺言書作成、遺産分割、相続税の節税、納税対策、認知症対策などなど......。

しかし、相続で最も重要なことは、法律上の対策でも節税対策でもありません。

そんな相続の現場で起きていること、考えなければならないことを、相続、遺言、家族信託支援を専門にする司法書士・青木郷が、実際に事務所で経験した事例も交えながら解説してきました。

最終回となる第13回は、相続でもっとも重要な「家族間のコミュニケーション」についてお伝えします。

第12回目の記事「飼い主亡きあとのペットを幸せに生かす新手法「ペット信託®」とは?」


コミュニケーション不全が「もっとも危険な状態」を生み出す

相続において法的な対策よりもしておくべきことは、「関係者が相続対策を受け入れる関係を丁寧に構築すること」です。「相続対策を受け入れる関係」とは、深いコミュニケーションが取れる状態を言います。これさえできていれば、相続対策はほぼ終わったと言っても過言ではありません。

しかし、この状態を構築するにはとても時間がかかります。そもそも家族との関係が断絶しており、そのようなコミュニケーションが取れない人もいるかもしれません。それでも、こういった関係を築く努力は必ずしておくべきです。

コミュニケーションを取る過程で思いっきりぶつかるかもしれませんし、盛大な兄弟喧嘩が起こるかもしれません。それでも相続をする側の人間が生きてさえいれば、関係を修復することも、長年の誤解を解くことも、相手の本当の想いを理解することもできます。相続開始=亡くなってしまってからでは、その機会は永遠に失われてしまうのです。

これまでの連載でも何度か取り上げたように、残された側は各自が思う「亡くなった人の想いや希望」、または「自分や自分の家族にとって都合の良い希望」に沿った相続を主張しがちです。これが相続における、もっとも危険な状態と言えます。相続対策を受け入れられない相続人は、思いもよらない行動をするものです。

●父の死亡後、認知症で判断能力を失いかけた母を長男が自らの家に連れ去り、日夜「いう通りにしないと、介護を放棄する」と言い続け、その恐怖によって母を洗脳する。

●相続人の一人である長男から一方的な要求を受け続け、長女がノイローゼになってしまう。

●相続人が相続したい土地建物の出入り口を、勝手に大きな鎖でぐるぐる巻きにして封鎖してしまう。

このような例は、挙げればきりがありません。それだけ、コミュニケーションが成立していない家族には、相続でトラブルが起きやすいということです。

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その相続で本当によかったのか? 独りよがりな「平等」の落とし穴

とある資産家が、長男、銀行、不動産会社、税理士とだけ打ち合わせをして、長男以外の子どもに相続対策の内容を教えていなかったことがありました。資産家もその長男も、遺産を相続する全員のために、不要だと思う不動産を売却して価値がある不動産と組み換え、なるべく平等に財産を取得できるように公正証書遺言まで作成しました。

しかし、いざ相続が開始すると、長男以外の子どもたちが一斉に文句を言い始めました。「自分たちが知らないあいだに、長男が父親をダマして不動産の売却や購入を進めた。そもそも高齢だった父親が、このような不動産の売却や購入を希望していたかも怪しい。公正証書遺言も、長男と銀行がグルになって、父親に作成させたのではないか?」と

この感情的なもつれはほどかれることなく、訴訟にまで発展しました。長男とほかの兄弟は、全面対決に突き進んでいきます。

亡くなった資産家は、専門家としっかりとコミュニケーションを取ったうえで入念に相続対策をしてきました。しかし、相続させる肝心の子どもたちとほとんどコミュニケーションを取っていなかったため、最愛の子どもたちがお互いを罵り合うような、関係を崩壊させる紛争にまで発展しました。

「財産を平等に相続させる」という点では、この資産家がとった行動は正しかったのかもしれません。しかし、このような悲しい結末を生み出した相続対策は、これで本当によかったのでしょうか?


お互いに譲り合うような最良の相続実現のためにできること

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例に挙げた資産家とは逆に、法律・税務においてほとんど対策をしていない代わりに、子どもたちやその配偶者、さらに自分の兄弟姉妹たちと良好な関係を築いてきた方もいました。相続や介護など、話題にしづらいことも、フラットに共有していました。こちらの資産家が亡くなった後は、残された相続人たちは、さらに絆を深めながら、お互いに譲り合い、専門家のアドバイスのもと、全員が納得できるような遺産分割協議を成立させました。

最良の相続になるかどうかは、相続に関わる当事者たちが、何を残したいのか、残してもらいたいのか、そこにはどんな想いがあるのか、それをしっかりと伝えることにかかっています。これができていないと、専門家がどんなにしっかりした対策をしたところで、すべて「絵に描いた餅」になってしまいます。

そして、このことは、専門家を選ぶ際のポイントにもなります。ただ法律や税務上の対策を考えてくれるだけではなく、相続に関わる人間の思いにしっかり耳を傾け、コミュニケーションを取ってくれる人物を選ぶほうが、先述のような理想的な相続につながるのです。

最良の相続実現のためには、時間がかかります。「まだ早い!」と思わずに、いまから始めてみてください。あなたの大切な家族と、少しずつ相続のこと、何より残したい思い、伝えたい気持ちについて話し合ってみてください。

プロフィール写真.jpg青木郷(あおき・ごう)

司法書士・行政書士・家族信託専門士・家族信託コーディネーター。開業当初より、相続、遺言、家族信託に特化した業務展開を行ってきており家族信託組成支援を含む相続・承継の支援を行った家族は300世帯を超える。複雑で難解な相続手続きを明快に整理したうえで支援、またそのご家族に合った相続・承継対策を一緒に作り上げている。遺言書作成や家族信託組成支援については、お客様の希望や想いを丁寧にヒアリングしたうえで、税理士、不動産コンサルタント等と連携して支援を行っている。共著に『ファイナンシャルプランナーのための相続⼊⾨』(近代セールス社)、執筆・監修に『わかさ11⽉号 保存版別冊付録【⽼い⽀度⼿帳】』(わかさ出版)がある。

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