亡き父の家業を長男が相続。しかし弟たちは現金を要求し.../法律のプロと相続を考える

pixta_33905237_S.jpg「あの人なら言葉にしなくてもわかってくれる」
「あの人がそんなことを言うわけがない」

自分にとって近しい人であればあるほど、こんなふうに思ってしまうものです。親や兄弟ともなればなおさらです。しかし、この考え方が相続では大惨事を招くことになります。

そんな相続の現場で起きていること、考えなければならないことを、相続、遺言、家族信託支援を専門にする司法書士・青木郷が、実際に事務所で経験した事例も交えながら、全13回にわたって解説していきます。

第10回目の今回は、コミュニケーション不足で想いが伝わらず、関係が完全崩壊した事例についてご紹介します。

第9回目の記事はこちら→「正月の恒例行事にいかがですか?「遺言書発表会」

とある雑貨屋さんの相続

都内某所に昔から雑貨屋を営んでいる主人がいました。この方のおじい様の代から続いており、駅からも近く、とても良い場所にあるお店でした。3階建ての建物の1階部分がお店、2階部分が長男夫婦が住む住居スペース、そして3階は主人と奥様が住むスペースになっていました。

この主人には、同居している長男以外に4人の子どもがいました。それぞれ家庭を持ち、特に経済的に困ることもなく、それぞれの暮らしを営んでいます。

雑貨屋の主人は、同居もしてくれて、さらに他所で働くこともなく雑貨屋を手伝ってくれている長男に、この先祖代々の土地と雑貨屋を継がせるつもりでいました。また長男も、家業である雑貨屋をきちんと継ぎ、土地建物も相続したうえで、父親と母親の面倒を看るつもりでいました。

ただ、このことは他の兄弟達にちゃんと伝えることはしていませんでした。当然、遺言書作成等の相続の対策も特に取ることはありませんでした。

主人は「うちの子どもたちに限ってもめることはない。ちゃんと兄を支えるに違いない」
長男も「弟たちは生活に困っていない。自分は親の介護もするつもりだし、この家を継げないと行く先もない。そのくらい、弟たちもわかってくれるだろう」

こんなふうに思っていたのでした。
そうこうしているうちに、雑貨屋の主人が亡くなりました。

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主人の死によって吹き上がる兄弟たちの本音

主人が亡くなったため、雑貨屋を含めて継ぐつもりの長男は、母親と弟達に、自分の名義に相続させるための手続きに協力してほしいとお願いしました。

母親は当然、了解しましたが、弟達から伝えられたのは、「土地建物については兄貴が相続してもいい。ただし、自分たちには法定相続分相当の現金を用意してもらいたい」ということでした。

主人が遺した主だった財産は、土地と建物くらいです。ただ、土地が都内の良い場所にあったため、評価としてはだいたい2億円くらいの価値がありました。

その法定相続分相当の現金となると、兄弟一人当たり約2,000万円という、非常に高額なものとなりました。

当然、長男はすぐにそんな大金を用意できません。そもそも、雑貨屋を含めた土地建物を相続できないと、長男は行く先も働く場所もないのです。そのことを弟たちに訴えましたが、

「だから、土地建物は兄貴が相続していいって。でも、俺たちに何もないというのはあんまりじゃないか。それは不公平すぎるだろう。だから、せめてお金はもらう。もらえないなら相続に協力するつもりもない」

という答えが返ってくるばかりでした。

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納得ができない長男、納得ができない弟たち

いつまでも平行線をたどる相続の話し合いに業を煮やした弟の一人が、家庭裁判所に遺産分割調停の申し立てをしました。これにより、舞台は当事者同士の話し合いから裁判所に移ることになりました。

長男としては、弟たちの言っていることにまったく納得できません。調停ではまとまらず、審判にまで進むことになりました。この審判では、相続に関して出せる結論がほぼ決まっています。遺言書等で相続に対する指定がされていない限り、原則的に法定相続分で分けるという結論しか出せないのです。

今回のケースでも、家庭裁判所が出した結論は、「土地建物を兄弟で共有にしてしまうのはあまりに長男に酷であるが、長男は弟たちに法定相続分相当の金銭を支払うように」というものでした。

全面的に弟たちの主張が認められたことになります。

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離散

この家は、相続をきっかけにして完全に崩壊することになります。

長男は相続した土地建物を担保に、金融機関から多額の資金の借入をして、弟たちに法定相続分相当の現金を支払いました。

裁判所で最後まで争った兄弟たちは、昔のように年間のイベントで顔を合すことはなくなり、お互いに憎み合う存在となってしまいました。そして、その様子をみてもっとも悲しんだのが残されたお母様でした。

どのような相続を思い描いているのか、しっかりと子どもたちに伝えなかった主人。弟たちは分かってくれるに違いないと、思い込んでいた長男。ご先祖様が大切にしてきた雑貨屋という家業を、引き継ぐ長男の大変さが分からなかった弟たち。

この一件は、「相続の問題は、大半がコミュニケーション不足」という典型的な例と言えます。

このような想いが伝わらない、悲しい相続を起こさないためにも、自分の相続をいまからでもお子さんたちに伝えていきませんか。

プロフィール写真.jpg青木郷(あおき・ごう)

司法書士・行政書士・家族信託専門士・家族信託コーディネーター。開業当初より、相続、遺言、家族信託に特化した業務展開を行ってきており家族信託組成支援を含む相続・承継の支援を行った家族は300世帯を超える。複雑で難解な相続手続きを明快に整理したうえで支援、またそのご家族に合った相続・承継対策を一緒に作り上げている。遺言書作成や家族信託組成支援については、お客様の希望や想いを丁寧にヒアリングしたうえで、税理士、不動産コンサルタント等と連携して支援を行っている。共著に『ファイナンシャルプランナーのための相続⼊⾨』(近代セールス社)、執筆・監修に『わかさ11⽉号 保存版別冊付録【⽼い⽀度⼿帳】』(わかさ出版)がある。

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