相続の現場で起きていること、考えなければならないことを、相続、遺言、家族信託支援を専門にする司法書士・青木郷が、実際に事務所で経験した事例も交えながら、全13回にわたって解説していきます。
第12回目の今回は、いまや家族の一員のようにあつかわれる「ペット」の行く末を保障する「ペット信託®」についてです。
第11回目の記事はこちら→「認知症になっても財産管理ができる!「家族信託®」とは?」
法律上はモノあつかい!?ペット相続の難しさ
平成22年の内閣府による「動物愛護に関する世論調査」によると、犬や猫などのペットを飼っていると回答者は34.3%でした。その7年前に実施された同じ世論調査と比較しても、大きな変化が見られなかったことから、現在も約3人(または世帯)に1人(または世帯)はペットを飼っていると見られます。このように、日本の家庭ではたくさんのペットが飼われていますが、当のペットたちは、飼い主の保護がなければ生きていくことさえ難しいのが現状です。
子どもたちが独立している高齢者たちにとって、ペットは新しい家族も同然です。日本が急速に超高齢化社会を迎える中、「ペットより先に飼い主である自分が先に死んでしまうかもしれない、そうなったらこのペットはどうなるんだ?」という悩みを抱える人が増えてきています。
ペットはどれだけ家族のようにしていても、法律上は「モノ」としてあつかわれます。飼い主が亡くなると、ペットは「動産(モノ)」として相続財産の一部となり、相続人に相続されます。このとき、相続人がペットを引き取れる状態ではなかったり、引き取ったけれど放棄したりした場合、もし次の飼い主が見つからなければ、そのペットは殺処分の対象になってしまうのです。
遺言書では守り切れない!ペット相続の問題点
当然ながら飼い主は、自分が亡くなったあとも、大切にしてきたペットが幸せに天寿をまっとうすることを願っています。それを満たすため、これまでは飼い主が特定の人に、ペットの面倒をみてもらう代わりに、一定の財産を相続(遺贈)させるという遺言をすることが一般的でした。しかし、この方法では、託された人がペットを最後まで面倒をみてくれるかまでは監督できず、財産だけもらわれてペットは殺処分される懸念がありました。
このケースで、ペットの面倒を見ないなど、相続人が遺言で定めた義務をおこたっている場合は、周囲が「義務をまっとうせよ」と催告したうえで、それでも改善されない場合は遺言の取り消しを請求できます。しかし、そもそも飼い主に相続人がいなかったり、ペットと財産を相続した人が唯一の相続人だったりする場合は、こういった催告や請求がされることは限りなく0に近いのが実情です。
ペットを守る新たな手法「ペット信託®」
そこで登場したのが、「ペット信託®」です。これは、飼い主が元気なうちに、あらかじめ信頼できる人にペットおよび、それを飼育・管理するために必要となる資金を「信託」という形で管理を依頼する手法です。
例えば、高齢のAさんが、1匹の猫と暮らしているケース。長男のBさんが近くに住んでいますが、そこはペットを飼えないマンションで、猫のお世話をお願いすることは難しい状況です。Aさんは自分で猫の世話ができなくなったときは、なるべくBさんの手間をかけず、信頼できる動物愛護施設に預けて、次の里親に引き取ってもらいたいと希望しています。そのために、自分が持っている財産(預金など)を、猫の世話や動物愛護施設への支払いに使ってもらいたいと考えています。
このような場合、Aさんを委託者(管理をお願いする人)、Bさんを受託者(管理を引き受ける人)、Aさんを最初の受益者(利益を受ける人)、管理をお願いする財産を「猫およびそれを世話するための現金」として、信託契約をします。その内容は、「Aさんが元気なうちはAさんが猫の世話を行う。認知症等で世話ができない状態になったら、Bさんが管理を行う」としました。Bさんに管理が移ったら、あらかじめ決めておいた動物愛護施設等に猫を預ける。猫の世話や動物愛護施設に預ける費用も、Aさんから管理を依頼された財産(現金)から、Bさんが支払います。
このとき、Bさんを監督するために、ペットの生態や法律に詳しい専門職を監督人として付けることも可能です。さらに、猫が里親に引き取られた段階で、残っている財産をAさんに戻す。Aさんがすでに亡くなっている場合は、管理をしてくれたBさんにすべての財産を渡すという約束もできます。
このような信託契約を締結しておくことで、Aさんは自分で猫の世話ができなくなっても、契約に基づいてBさんに安心して管理を任せられます。Bさんは猫が里親に引き取られるまではしっかりと管理をする義務があり、信託内容にもよりますが、猫が無事に里親に引き取られるか、天寿をまっとうすれば、Aさんからの財産をもらえることになります。遺言書と違って、信託契約はその内容に基づいて財産を管理処分する権限しかないので、「財産だけもらってペットは処分」のようなことはできません。
こうした仕組みを使えば、愛するペットの行く末も心配しなくて済むようになりました。家族のように大切なペットがいる方は、ぜひ検討してみてはいかがでしょうか。
※「ペット信託®」は河合保弘氏の登録商標です。