独りよがりの遺言書にしないための「請願」とは?/法律のプロと相続を考える

独りよがりの遺言書にしないための「請願」とは?/法律のプロと相続を考える pixta_18695284_S.jpg平成27年に相続税の改正がされて以降、相続に関するセミナーがとても盛況です。その中でも、遺言書作成に関するセミナーはとても人気があります。しかし、ただ遺言書を作成すればいいのでしょうか。何も考えずに作成した遺言書があったばかりに、泥沼の相続争いに発展してしまうこともあり得ます。

そんな相続の現場で起きていること、考えなければならないことを、相続、遺言、家族信託支援を専門にする司法書士・青木郷が、実際に事務所で経験した事例も交えながら、全13回にわたって解説していきます。

第8回目の今回は、「遺言書を作る前にオススメしたい、請願と家族会議」についてご紹介します。

第7回目の記事はこちら→「公平に思える「相続人平等」のルールがかえって争いを招く!?

その遺言書、子供は本当に喜びますか?

遺言書作成の希望を持っているお客様と面談をしていると、「それで本当にいいの?」と思うような遺言書を作成しようとされるケースがけっこうあります。とあるお父様が、こんな遺言書を作ろうとしました。

「よし!実家の土地建物は長男。アパートは二男。自分の会社の株式と預貯金はみんな平等になるように長男、次男、三男に3分の1ずつ、分けてやろう」

しかし、長男は遠隔地にすでに自分で家を購入しており、実家に戻るつもりはありませんでした。逆に二男は実家で同居して、父親と母親の介護を行っていました。自分の家はなく、アパートよりも住む家が欲しいと思っていました。会社については長男、三男は全く興味を持っておらず、二男が継ぐ予定で、経営権を二男に集中させてあげる必要がありました。

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このような子供たちの事情があるのに、父親が考える遺言書を実際に作成してしまうと、長男はいらない土地建物をもらうことになります。二男は必要な家や会社の権利を、完全な形で承継できません。三男は興味がない会社の権利の一部をもらうことになります。

これでは、父親の死後、遺言書があったばかりに争いになる可能性がとても高くなってしまいます。このケースでは、遺言書を作ろうとしていた父親に、長男が「俺たち兄弟の関係を壊すような、遺言書の作成なんかしないでくれ」とお願いする事態になりました。

独りよがりの遺言書ではなく、双方向の遺言書作成を

上の事例のお父様も、自分なりに子供のことを思って遺言書を作成しようとしていました。

しかし、遺言書で大切なことは、本人の希望と子供たちの現状や希望を極力合致させることです。独りよがりな遺言書は、子供たちにとっては「迷惑な遺言書、争いの火種となる遺言書」となってしまいます。

請願・家族会議のススメ

すでに独立している子供の、現状を把握することは難しいことです。子供の方も大変であったとしても、なかなか言えないかもしれません。それに加えて、相続にどのような考えをもっているかを直接聞くことは、さらにハードルが高いかもしれません。子供の側から親へ、相続について自分の考えを言うことも、かなり抵抗があるのではないでしょうか。

こうしたハードルを乗り越えるため、私の事務所では、遺言書を作成しようとしているお客様に「請願受付と家族会議」を提案しています。

まず、自分が遺言書を作成しようと思っていることを子供に伝える。そのうえで、子供たちがどんな希望をもっているか、手紙を書いてもらう。その手紙は自分だけがみる、決して他の子供たちには内容を明かさないことを約束する。子供側は、どうしてそのような相続の希望をもっているか、手紙で伝えるようにする。そして、最後に家族会議をする。

こうすることで、子供側は親が相続のことを考えていることを知ります。そして、自分の現状を伝えたうえで、相続の希望を親に伝えられます。遺言書を作成する親の側は、自分が思っていた子供たちの「希望」と、子供たち本人が思っていた「希望」が、全然違うことに驚くと思います。

子どもたちはこんなことを思っていたのか、こんな現状だったのかと、愕然とするかもしれません。それがわかったうえで、家族会議にてお互いの希望や今思っている不安や不満を伝え、解消していく。そのうえで遺言書を作成すれば、家族全員が納得できる遺言書になります。

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生きていれば子供の不安、不満は解消できる

「家族会議なんてうちはできないよ」「そんなことしたらそこで大揉めしてしまうかもしれない」と、思う人もいるかもしれません。でも、亡くなってしまってからでは、子供たちの不安や不満を解消できません。希望を知ることもできません。どうしてその内容の遺言書にしたのか、伝えることもできなくなってしまうのです。

こうなると家族間で揉めるだけでは終わらず、完全に縁が切れる可能性もあります。作成した遺言書がきっかけで、子供たちの縁が切れてしまったら、あまりに悲しくはありませんか? ぜひ、子供たちの希望を聞いてみてください。そして相続を題材にした家族会議を開いてみてください。

きっとこれまでより、強い結びつきが生まれることでしょう。

独りよがりの遺言書にしないための「請願」とは?/法律のプロと相続を考える プロフィール写真.jpg青木郷(あおき・ごう)

司法書士・行政書士・家族信託専門士・家族信託コーディネーター。開業当初より、相続、遺言、家族信託に特化した業務展開を行ってきており家族信託組成支援を含む相続・承継の支援を行った家族は300世帯を超える。複雑で難解な相続手続きを明快に整理したうえで支援、またそのご家族に合った相続・承継対策を一緒に作り上げている。遺言書作成や家族信託組成支援については、お客様の希望や想いを丁寧にヒアリングしたうえで、税理士、不動産コンサルタント等と連携して支援を行っている。共著に『ファイナンシャルプランナーのための相続⼊⾨』(近代セールス社)、執筆・監修に『わかさ11⽉号 保存版別冊付録【⽼い⽀度⼿帳】』(わかさ出版)がある。

 

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