【森永卓郎さんコラム】「膵臓がんステージⅣ」と言われて身をもって知った、がん治療とお金の話

大人世代で心配になってくるのが老後。生活費などの資金や健康に対して不安はつきものです。そんな不安に立ち向かえるヒントを与えてくれる、森永卓郎さんの人気連載「人生を楽しむ経済学」をお届けします。今回は、「癌と戦う」がテーマです。

この記事は月刊誌『毎日が発見』2024年3月号に掲載の情報です。

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発生箇所が分からないケース

報道を通じてご存じの方もいらっしゃると思いますが、私は昨年末に癌に罹患(りかん)していることを宣告されました。

膵臓(すいぞう)がんのステージⅣということになっています。

ただ、正確に言うと少々違っています。

昨年11月の人間ドックで、冠動脈の周りに癌の浸潤とみられるモヤモヤがみつかりました。

そこでPET検査をすると、反応したのは胃と膵臓だけでした。

つまり、どちらかに原発(最初に発生した病変)があるということです。

ただ、胃のほうはどれだけ生体検査を繰り返しても癌がみつからず、膵臓も超音波内視鏡で観察する限り、病変はありませんでした。

ただ、モヤモヤから腺癌がみつかったので、おそらく膵臓のどこかに原発があるのではないかというのが、医師の見立てでした。

私は納得できませんでしたが、セカンドオピニオンも同じだったので、とりあえず膵臓癌という判断に従ったのです。

そして、膵臓がんに効果のある抗がん剤を打ちました。12月27日のことです。

ところが、その抗がん剤と私の相性が最悪で、それまで普通に暮らして、電車にも乗れていたのが、翌日から急速に体調が悪化し、意識は朦朧(もうろう)とし、何も食べられない、動くこともできない状況になってしまいました。

私は困ってしまいました。

実は、10万部を超えるベストセラーになった『ザイム真理教』と双璧をなすもう一つの著作が9割方完成していたのですが、この体の状態で一歩も前に進まなくなってしまったのです。

私のところには、全国から何百通も「この名医にみてもらえ」、「この食品を食べろ」、「この治療法が有効だ」というメールが届いていました。

それを私のマネージャーと妻が読んで、そのなかで「これは信憑(しんぴょう)性が高い」と思ったある病院からの情報に賭けてみることにしたのです。

それは抗がん剤ではないのですが、再び抗がん剤治療に向かえるように体を元気にする新薬でした。

この薬との相性は抜群でした。

私は、たった半日で意識を取り戻し、少し動けるようになったのです。

IT技術者をしている次男が、私の口述筆記を手伝ってくれたこともあり、書きかけの新著も完成し、3月発売に向けて、いま猛スピードで作業が進行中です。

これで当面の目標が達成され、あとはゆっくりと治療と向き合おうかとも思ったのですが、事態はそうは進みませんでした。

一つはラジオリスナーからの猛烈なラブコールでした。

私はいま5本のラジオレギュラー番組を持っているのですが、ラジオのリスナーは家族のような存在で、早く戻ってきて欲しいとの思いが伝わってきました。

もう一つ、仕事にかまけて同じ時間を共有できてこなかった妻と、もう少し一緒の時間を続けたいという欲がでてきたのです。

癌治療は標準治療が圧倒的に有利

そこで私は保険適用が認められていない新しい治療にチャレンジする決意をしました。

血液免疫療法といって、自分の血液を採取して培養し、癌と闘う免疫力を大量に作り出して、自分の体に戻すのです。

ただこの方法はお金がかかります。これだけで400万円くらいだと言われています。

しかも全額自己負担です。

医療費控除の対象にはなりますが、私は他の治療費で医療費控除の上限額の200万円を使い切っていますので、完全に自腹です。

いままでお金の専門家として話をしてきたので、とても恥ずかしいのですが、私は自分の収入に無頓着でした。

テレビの出演料や本の印税はすべて私の会社に入れており、会社にはお金があるのですが、個人としては大したお金を持っていませんでした。

それでもやりくりをすれば、資金は何とかなるというのが、いまのところの判断です。

ただ、みなさんにお伝えしたいのは、癌治療のように高額の費用がかかる病気の治療は、保険のきく標準治療が圧倒的に有利だということです。

例えば、協会けんぽで70歳未満、標準報酬月額53万〜79万円の人の場合、1カ月の負担上限は16万7400円+(総医療費-55万8000円)×1%となっています。

1000万円の治療費がかかった場合の負担上限は、26万1820円ということになります。

しかも、この金額は医療費控除の対象になりますから、実質的な負担は、10万円台でしょう。

1000万円がまるまる負担としてかかってくる自由診療と10万円台でとどまる保険診療、その差はとてつもなく大きいのです。

保険診療だけで癌に打ち勝った人はたくさんいます。

だから、個人的には保険診療をお勧めしますが、私のような原発不明という極めて特殊なケースが起きた場合や、無理をしてでも社会復帰をしなければならないことが想定される場合は、お金をある程度貯めておくか、がん保険の加入を検討しておくことが必要になるでしょう。

私の今回のチャレンジが成功するかは、まだ分かりません。

ただ、あきらめることなく闘いたいと思っています。

※記事に使用している画像はイメージです。

 

森永卓郎(もりなが・たくろう)

1957年生まれ。経済アナリスト、獨協大学経済学部教授。東京大学卒業。日本専売公社、経済企画庁などを経て現職。50年間集めてきたコレクションを展示するB宝館が話題。近著に、『増税地獄 増負担時代を生き抜く経済学』(角川新書)がある。

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