「病気の名前は、肺がんです」。医師からの突然の告知。しかも一番深刻なステージ4で、抗がん剤治療をしても1年生存率は約30%だった...。2016年9月、50歳でがんの告知を受けた刀根 健さん。残酷な現実を突きつけられても「絶対に生き残る」と決意し、あらゆる治療法を試して必死で生きようとする姿に...感動と賛否が巻き起こった話題の著書『僕は、死なない。』(SBクリエイティブ)より抜粋。過去の掲載で大きな反響があった本連載を、今回特別に再掲載します。
※本記事は刀根 健著の書籍『僕は、死なない。』から一部抜粋・編集しました。
※この記事はセンシティブな内容を含みます。ご了承の上、お読みください。
【前回】思わず言葉を失った...。冷たい声で医師に告げられた「恐ろしい予言」
ついに来た、痛み
あの掛川医師に会った日から、明らかに体調がおかしくなった。
再び頭の中に掛川医師の声が響き渡るようになった。
「胸が、痛ーくなります」
「咳が止まらなくなります」
「痰に血が混じります」
「水が飲めなくなります」
「だるくなります」
「寝たきりになります」
うわーっ、黙ってくれ!!!
ふと気づくと、頭の中が掛川医師に占領されてしまっていた。
その都度頭を振って掛川医師を追い出そうとしたが、すぐに彼は例の眉間にシワを寄せた表情で、再び僕に向かって語りかけてきた。
「胸が、痛ーくなります」
「咳が止まらなくなります」
「痰に血が混じります」
「水が飲めなくなります」
「だるくなります」
「寝たきりになります」
僕は彼に取り憑かれてしまっていた。
そのうち、研修で話している最中に咳が頻繁に出るようになった。
喉に痰が絡むようになった。
まずい、ヤツの言った通りになるのか?
不安が胸に押し寄せてきた。
そんなある日、11年飼っていた犬が死んだ。
夏に少し具合が悪くなり、しばらく体調不良が続いていたので、妻が病院に連れて行ったら、その日の夜にあっけなく逝ってしまった。
連絡を受け病院に到着し、亡き骸を抱きしめると涙が出てきた。
彼の顔、彼の声、彼の姿、全てが愛おしい。
しかし目の前の彼はもうピクリとも動かない。
まだ温かさが残る身体は、不思議と命のエネルギーが去って行ったことを示すように生気がなかった。
「僕の代わりに逝ってくれたのかもしれない......」
ポツリとつぶやいた。
「そうかもね......」
妻が目を伏せた。
僕も死んだら、こうなるのか......。
僕は彼の亡き骸を抱きしめながら、自分の死体がまぶたに浮かんできた。
いや、僕は死なない。
死ぬもんか!
すぐに頭を振って打ち消したが、青白く生気のない自分の顔が消えることはなかった。