「病気の名前は、肺がんです」。突然の医師からの宣告。しかもいきなりステージ4......。2016年9月、50歳でがんの告知を受けた刀根 健さん。「絶対に生き残る」「完治する」と決意し、あらゆる治療法を試してもがき続ける姿に......感動と賛否が巻き起こった話題の著書『僕は、死なない。』(SBクリエイティブ)より抜粋。21章(全38章)までを全35回(予定)にわたってお届けします。
前回のエピソード:「肺がんです。ステージ4の」50歳の僕への...あまりに生々しい「宣告」/僕は、死なない。(1)
「じゃ、何をするかというと手術、放射線という局所療法ではなくて抗がん剤の治療が必要になると思います」
「なるほど」
「はい。今の段階ですと、保険診療の範囲内で行なうようなお薬は、大きな塊のカテゴライズでいうと抗がん剤と分子標的治療薬の2通りあります。その中には、治療の初期段階で使うお薬もあるし、何回か治療薬剤の変更を余儀なくされたときに初めて使うお薬とか、あとは治験って言ってね、臨床試験。いろいろあります」
「そうなんですか」
「はい、えー、同時進行なんですけれど、今の段階で行くと、遺伝子を調べる検査を追加していただきます」
「遺伝子ですか?」
「まずは私たちのところで、あなたの遺伝子の変異に合った薬剤の選定を行なうことを始めさせてください。遺伝子っていうのは、人に固有のものなんです。お父さんお母さんからもらった世界に一つしかないものなので、勝手に調べちゃいけないことになっているんです。個人情報なんで、それを調べると悪用ができる。あなたの病気は何がどうとか、そういった専門的な部分がわかっちゃう」
「なるほど」
「なので、刀根さんの了解を得て、私たちはこれから遺伝子を調べさせてもらうわけです」 「わかりました」
「じゃあ、この書類に目を通してからサインをお願いします」
僕は彼の差し出した書類にサインをした。
「僕の場合、進行が早いんですか?」
「それはわかんない。わかんないです。ただ、えー、偶然の機会に見つかったもので既にリンパに入り込んでいると考えますと、進行がんではあります」
「5年生存率は?」
「4期として考えますと、3割」
「3割......」
「ということになろうかな。ただもうそれはお薬によって全然変わってくる。どのお薬が 使えるかによって」
「手術はしなくても大丈夫なんですか? これを取るとか?」
「しない」
掛川医師は断固として言った。
「してもしょうがない?」
「しょうがないんじゃなくて、しないほうがいい」
「それはどうして? 身体に負担がかかるから?」
「そうです。私たちは取れるもの、取りきれるものが手術の対象なんです。リンパの流れに入っているということは、全身に、見えないとこに、顕微鏡でしか見えないようながん細胞が血管、もしくはリンパの流れに入り込んでいると考えます。ですから病期によって手術の終わった後に抗がん剤の治療をね、追加するということもあります」
「んー」
僕は父から手術をしたほうがいいと言われていた。
父は何度も手術ができないか確認してくるように僕に釘を刺していた。
手術をすることが一番安心だと思っていたのだろう。
掛川医師は話を続けた。
「最初からわかっている場合には、手術はしないほうがいい」
「最初から抗がん剤でやったほうがいいということですね?」
「そう」
「このまま何にもしなかったら、どうなっちゃうんですか?」
「今、想像できることはですね。症状として現れるものの一つとして、骨のところが痛く なってくると思います」
「それとリンパに入り込んでいる場所が空気の通り道の脇なので、咳が出ると思います
「咳は時々出ていますね」
「病気による咳の場合は止まりません。時々ってレベルじゃなくなってきちゃうと思いま す」
「......」
「進行するとね。胸に水がたまってきます。そうすると息苦しくなってくる、というようなことが出ると思います。だから治療はしたほうがいいと思います」
「治療しなかったら、どのくらいで死んじゃうと思います?」
「んー、どんぐらいでって言ってもね......。それは神様しかわからないです。ただ、最初に発見されたのがひと月前なので、なんとも申し上げられないんだけど、最初の月を入れて三カ月以内になんらかの症状が出ると思われます」
「ということは、 11月くらいまでに何かしら体調がおかしくなるということですね。咳が止まらなくなるとか、胸が苦しくなるとか」
「何がしかの症状が出ると思われます。だからまあ、治療はしたほうがいいですね。なるべく早く」
「しかし......最悪ですね......」
僕は思わずつぶやいた。