お勧めはスマホ2台持ち。災害時にはテレカが役立つ。森永卓郎さんが考える「通信障害への備え」

定期誌『毎日が発見』の森永卓郎さんの人気連載「人生を楽しむ経済学」。今回は、「通信障害に備える」についてお聞きしました。

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改めて分かった
携帯電話網の脆弱さ

KDDIの携帯電話が7月2日から3日間にわたって使えなくなった大規模通信障害は、社会に大きな混乱をもたらしました。

読者のなかにも、通信ができなくなって困った方が多いと思います。

KDDIは、利用者との契約で24時間以上使えなくなった場合は、日割り計算で使用料を返還するとしています。

KDDIは、2013年にも一部の地域で3日間の通信障害を起こしていますが、そのときは被害を受けた利用者に一律700円の返金をしています。

KDDIによると、今回は、全契約者3589万人に、一律200円を返金するということで、補償の総額は約73億円になります。

ただ、被害はそうした補償の金額だけにとどまりません。

通信できなかったのは個人だけでなく、ATM用に回線を利用していた銀行、ドライバーとの連絡用に使っていた宅配業者、アメダスの情報収集に使っていた気象庁など、多くの事業者の業務に深刻な影響を与えました。

そうしたことを考えると、今回の通信障害の経済的被害の総額は、補償額の数倍にのぼるものとみられます。

ただ、今回の通信障害の教訓は、経済的被害の問題にとどまりません。

最大の教訓は、携帯電話の通信網がとても脆弱なものだということが、改めて分かったということなのです。

携帯電話網というのは、大規模障害を起こしやすいシステムで、KDDI以外にもNTTドコモやソフトバンクといった大手各社も過去に通信障害を起こしています。

そのため、金子総務大臣は、7月12日の会見で、通信障害復旧までは、他社の通信網に乗り入れる「ローミング」の実現を検討するという方針を明らかにしています。

しかし、今回の大規模通信障害を含めて、多くの通信障害が設備能力を超える通信が集中したときに発生しているので、ローミングの実施は、乗り入れをした相手方の通信会社に障害を広げることにもなりかねず、実現は容易ではありません。

災害時に役立つテレホンカード

すでに携帯電話は、通話だけでなく、キャッシュレス決済やポイントカード、ネット検索など、生活に不可欠の道具になっているので、通信障害が起きると本当に困ってしまいます。

私は、通信障害から生活を守る方策として、いま一番必要なことは、2台目のスマホを持つことだと考えています。

2台もスマホを持ち歩くのは大変だと思われるかもしれません。

そうした方は、デュアルSIM(シム)スマホの利用がお勧めです。

デュアルSIMとは、一台のスマホに2枚のSIMカードを挿入して、異なる携帯電話会社の通信サービスを使い分けることができる仕組みのことです。

着信はどちらの番号からでもかかってきますし、発信やデータ通信は、使いたい会社をそのつど選んで利用できます。

ただ、私は2台持ちの方をお勧めします。

スマホの故障に対応するためです。

私は、数年前に手が滑ってスマホを落として、壊してしまいました。

その結果、仕事先への電話連絡もできなくなり、修理を依頼する携帯ショップへの連絡もできなくなってしまったのです。

それ以降、私は2台目のスマホを持ち歩くようになりました。

サブ機の費用はさほど大きくありません。

私は楽天モバイルを使っているのですが、サブ機なので通信量は少なく、月額費用は1078円です。

もっと安い会社も、複数あります。

例えばIIJmioは850円から、OCNモバイルONEなら550円からとなっています。

通話をせず、データ通信だけなら500円以下のプランもあります。

気を付けておかなければならないのは、格安スマホは大手から回線を借りていることが多いので、メイン機と回線が重ならないようにすることです。

同じ回線を使っていたらリスク分散にならないからです。

また、サブ機を持ったからといって安心はできません。

地震や台風などで大規模災害が起きたときには、基地局の故障や通信の集中によって、一斉に通信障害が発生します。

東日本大震災の直後は、大部分の携帯電話会社が通信できなくなったことがありました。

その結果、多くの人が公衆電話に殺到することになったのですが、そこで問題になったのは十円玉を持っていなかった人が多かったことです。

私はカードケースに数枚のテレホンカードを入れていたので、それを貸してあげることで、とても感謝されました。

最近は、使う機会がほとんどないので、テレホンカードを持ち歩いている人が少なくなっていますが、かさばるわけではないので、少なくとも1枚は、持ち歩いた方がよいと思います。

災害が発生したときに一番不安になるのは、情報が得られないことです。

万が一のために電池でつくラジオを用意しておく人はずいぶん増えてきましたが、ラジオは情報を受け取るだけで、発信はできません。

そのため、情報のやり取りができる通信手段を確保しておくことは、とても大切なことなのです。

 

森永卓郎(もりなが・たくろう)

1957年生まれ。経済アナリスト、獨協大学経済学部教授。東京大学卒業。日本専売公社、経済企画庁などを経て現職。50年間集めてきたコレクションを展示するB宝館が話題。近著に、『長生き地獄にならないための 老後のお金大全』(KADOKAWA)がある。

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『なぜ日本経済は後手に回るのか』

(森永 卓郎 森永 康平/KADOKAWA)

新型コロナウイルス感染症によって生じた日本経済の失速。その原因は長年続いている「官僚主義と東京中心主義」にあると、森永さんは分析します。では今後どうすれば感染拡大を抑え、経済的苦境を脱することができるのか――。豊富な統計やデータを基に導き出された、未来への提言が記された一冊です。

この記事は『毎日が発見』2022年9月号に掲載の情報です。

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