家族の介護を理由に仕事を辞める介護者は年間10万人/介護破産(14)

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介護のために資産を失う「介護破産」が最近話題となっています。実は介護破産の原因には、単に資産の多寡だけでなく、介護に関する「情報量」も大きく関わってくるのです。
本書「介護破産」で、介護で将来破綻するような悲劇を防ぐための方法を学んでいきましょう。

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前の記事「「認知症かも...」と思ったときにまず家族がするべきこと/介護破産(13)」はこちら。

仕事を辞めざるを得ないそれぞれの事情

都内に住む渡辺紀夫さん(52歳)は仕事場に向かうため、いつものように車を走らせていた。行き慣れている道なのに、出会い頭で自転車とぶつかってしまった。
「ゴツン」
鈍い音がしたときふと我に返った。親の介護と長時間労働が重なり、ぼんやりしていた。罰金と2か月の免許停止。自転車に乗っていた相手は命に別状はなかったが、後遺症が残り2年近く通院した。「治療代や車の修理代は全部、自動車保険でカバーできたので助かりましたが、70万円の罰金は痛かった」
退職について会社と話し合いをするために、ここ数日、眠れない日が続いていた。

渡辺さんは10年以上、福島県のスキーリゾートのホテルの厨房で働いていたが、2010年、認知症が進んだ父の介護をするため仕事を辞めて実家に戻った。「実家の近くに兄が住んでいましたが、口は出すけど手は出さない。母一人で父の面倒を看ることができないので、遠距離介護をはじめましたが、繰り返される東京と自宅の往復に体力が続かず、上司に相談して退職を決意しました」(渡辺さん)
失業保険をすぐ受け取れるように、会社は退職の理由を「自己都合」の扱いにせず、「会社都合」にしてくれた。

調理師の免許を持つ渡辺さんは、東京の実家に戻ってから、介護施設の調理場で働きはじめた。ところが、残業が多く父の介護のため定時で帰宅しようとする渡辺さんに、「やる気がない」と上司はとがめた。「介護施設の調理場なので、介護について少しは理解があると思っていたのですが、間違いでした。『帰りたがっている』と散々いわれて精神的にもまいってしまいました」(渡辺さん)
介護についての相談窓口は自治体や介護者の会などがある。しかし、仕事のことについて相談する場所は思いつかなかったという。

日本政府や大手企業のあいだでは、家族の介護で離職する人を食い止めようと制度を整えたり、組織ぐるみで取り組みをはじめている。安倍政権が掲げる「一億総活躍社会」を実現する〝新三本の矢″の一つが、2020年代初頭までに介護離職者をゼロにすること。その対策の一つとして2017年1月から「改正育児・介護休業法」が施行された。

介護休業とは、対象の家族が2週間以上「常時介護」を要する状態になったとき、企業に申請すると、家族一人につき最大93日取得できる休みのことである。厚生労働省によると「今後、仕事と介護を両立させるための体制を整えるための期間」とされているが、総務省の調査(2012年)によると、介護しながら働く人239万9000人のうち、介護休業の利用者は3.2%。まだ広がっていないのが実態だ。

改正後は、93日を3回まで分割して取得できるようになり、さらに同居していない祖父母や兄弟姉妹などの介護でも使える。2016年8月からは雇用保険の枠組みで、休業中の給付金が休業前賃金の40%から67%まで引き上げられている。介護を理由に離職する人は、企業内でも中堅社員が多い。働き盛りの社員が大量に離職することになれば、経営を揺るがしかねないからだ。

しかし、慢性的な人手不足の中小企業では依然として即戦力が求められる。その結果、家族の介護を理由に辞める介護者は年間10万人にもなる。

 

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結城 康博(ゆうき・やすひろ)
淑徳大学総合福祉学部教授。1969年生まれ。社会福祉士、介護福祉士、ケアマネジャー。地域包括支援センターおよび民間居宅介護支援事業所への勤務経験がある。おもな著書に『在宅介護――「自分で選ぶ」視点から 』(岩波新書)、『孤独死のリアル』(講談社現代新書)、『介護入門 親の老後にいくらかかるか? 』(ちくま新書)など。

村田くみ(むらた・くみ)
ジャーナリスト。1969年生まれ。会社員を経て1995年毎日新聞社入社。「サンデー毎日」編集部所属。2011年よりフリーに。2016年1月一般社団法人介護離職防止対策促進機構(KABS)のアドバイザーに就任。おもな著書に『書き込み式! 親の入院・介護・亡くなった時に備えておく情報ノート』(翔泳社)、『おひとりさま介護』(河出書房新社)など。

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『介護破産』
(結城 康博、村田 くみ/ KADOKAWA)

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