誰かが儲けると自分が損したと感じてしまう――精神科医が説く「SNSの投資情報は話半分以下で」

投資のもうけ話には要注意

しかし、ここまで聞いても、「投資をして退職金を増やそう」と考える人は少なくないでしょう。これはおそらく、SNSなどで「退職金が3倍に増えた」「投資素人の主婦なのに、大金を手にできました!」などという自慢話を目にするようになったことが影響していると思います。

人間は悲しいもので、誰かが儲けると自分が損したと感じてしまうのです。実際には誰が何億円儲けようと、その誰かがあなたのお金を奪ったわけではありませんから、「損した」と感じるのはおかしなことです。

しかし、私たちは冷静に考えられず、「損をしたくない!」という気持ちで危険な投資に走り、虎の子のお金を失ってしまうことになるのです。

そんな気持ちにならないためには、SNSなどの情報を話半分以下とみなして読むことです。人には「成功談は口にしたがるが、失敗談は伏せておく」という傾向があります。儲かった人はひと握りで、たとえそれが事実であっても、話を"盛っている"可能性も高いはずです。だから、「〇〇万円儲けた」という書き込みがあったら、それを10倍にして「それまでに、〇〇〇万円損しているのだな。投資というのは難しいのだな」と読み解くといいでしょう。

「なんとかして持ち金を増やしたい......」

そんな思いが、あせりにつながり、被害に遭ってしまうケースも増えているようです。

その典型的な例として「未公開株購入の勧誘」があります。

ある日突然、知らない業者から電話連絡があり、「証券取引所に上場していない株を特別に譲渡します。上場すれば数倍の値がついて儲かります」などと購入を勧めてきます。

ところが、上場予定時期を過ぎても上場しなかったり、業者と連絡が取れなくなったりするケースが増えているそうです。

騙(だま)したほうに非があるのは明らかですが、こんなケースでは騙されたほうにも落ち度があると言わざるを得ません。被害に遭う人には「未公開株を手に入れたら儲かる」という欲があるからです。

詐欺師たちは、その欲につけ込んでくるわけです。「うまい話は見ざる、聞かざる」にしておきましょう。

投資よりも大切なシニアの心得

それでもどうしても心が動いてしまう場合は、最低限、その会社が実在するか確認すべきです。もし実在していたら、その会社に電話して未公開株を譲渡する予定があるかたしかめてみましょう。

あるいは電話の主に「幹事証券会社はどこですか?」と尋ねるのもいいかもしれません。相手が答えに詰まったら、怪しいと判断してもいいでしょう。

シニアはむしろ、持ち金を増やそうと考えるのではなく、減らさないように心がけるべきだと思います。

そもそも、お金というのはいくらあっても安心できませんし、あればあったで無駄遣いしてしまうものでしょう。

仮に投資で退職金を2倍に増やすことができたとしても、あっという間に散財してしまう可能性も高いのです。しかも、散財に歯止めはききにくいものですから、もともとの退職金まで失いかねません。

まずは「今あるお金でやりくりしていこう」という考えを基本方針にするのが賢明だと思います。

 

保坂 隆
1952年山梨県生まれ。保坂サイコオンコロジー・クリニック院長。慶應義塾大学医学部卒業後、同大学精神神経科入局。1990年より2年間、米国カリフォルニア大学へ留学。東海大学医学部教授(精神医学)、聖路加国際病院リエゾンセンター長・精神腫瘍科部長、聖路加国際大学臨床教授を経て、現職。また実際に仏門に入るなど仏教に造詣が深い。著書に『精神科医が教える 心が軽くなる「老後の整理術」』『精神科医が教える お金をかけない「老後の楽しみ方」』(以上、PHP研究所)、『人間、60歳からが一番おもしろい !』『ちょこっとズボラな老後のすすめ』『繊細な人の仕事・人間関係がうまくいく方法』(以上、三笠書房)など

※本記事は保坂 隆著の書籍『楽しく賢くムダ知らず 「ひとり老後」のお金の知恵袋』(明日香出版社)から一部抜粋・編集しました。

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