医療費は会計までいくらかかるかはわかりません。2022年以降、75歳以上の医療費の自己負担が1割から2割に引き上げられる方針のなか、歳を重ねてもがんなどの大病にかかった場合にどのくらい治療費がかかるのかも想像がつきません。そこで、医療アドバイザー・御喜千代さんの著書『大切な人が入院・手術になったときの病気の値段がわかる本』(アスコム)から、病気の値段、保険の活用法、思わぬ出費、医療費をテーマに賢い病気との付き合い方のヒントを抜粋してご紹介します。
入院するだけで基本料が必要に
入院中は、主に看護師が患者の健康状態を24時間にわたってモニタリングし、体調が悪くなっていないか、治療の効果が表れているかなどをみてくれます。
こうした療養の費用に加え、入院をすることでベッド代も必要になりますし、入浴代もかかります。
こうした入院に伴う費用を、入院基本料として患者は支払わなければなりません。
入院基本料は入院1日あたりの基本料金で、点滴など医療的な処置にかかる費用や看護の費用、ベッド代などを含んだものになります。
ただし病棟の種類によって基本料は変わりますし、これから紹介するような差額ベッド代なども別途必要になります。
入院するだけでも、けっこうな支出になります。
それでは、どんな費用がかかってくるか、見ていきましょう。
入院中に使う金額は1日1万円以上!
がんの治療では、手術の傷を小さくしたり、副作用を軽くしたりといった低侵襲化が進み、以前に比べて患者の体への負担が軽くなっています。
その結果、入院期間も短くなり(治療によっては日帰りも)、化学療法は外来でできるようにもなりました。
放射線療法も基本的には通院で行われています。
それでもほとんどの手術では入院が必要で、また、化学療法も初回は入院して副作用の出方をみるという医療機関もいまだにあります。
がんが進行して自宅での療養がむずかしくなれば、長期的な入院も必要です。
もし入院が必要になった場合、1日あたりどれくらいの費用が必要になるでしょうか。
それを示したのが、生命保険文化センターの「生活保障に関する調査(令和元年度)」です。
これによると、入院したときに必要になる1日あたりの自己負担費用は、平均2万3300円で、最も多かったのは1万~1万5000円でした。
これには治療費や入院費(入院基本料)だけでなく、差額ベッド代、食事・生活療養費、テレビ代、交通費、衣類や日用品の費用などが含まれていますが、思いのほか、たくさんのお金がかかることがわかります。
入院中の食事代は自己負担!
入院中に別途かかる費用の一つが、食事代です。
1日3回、ベッドまで運ばれてくる食事は基本的に自己負担で、受けた治療の内容や慢性疾患の状態、嚥下(飲み込み)の状態などによって、味付けや食材(切り方)、ボリュームは異なりますが、全国一律で1食あたり460円になっています。
住民税非課税の人など、条件によってはこれより安くなりますが、反対に、嚥下の悪い人や、肝臓病、糖尿病の人は、特別食といって割増料金をとられることがあります。
1食460円ということは、1日あたりにすると1380円、ひと月あたりでみると、4万1400円(30日の場合)になります。
これは総務省統計局の家計調査(2018年)で公表されている、日本人の単身世帯の月平均(4万円)とほぼ同じです。
食事代は医療費には該当しないので、健康保険の1~3割負担の対象にはなりません。
また、のちほど説明する高額療養費制度を使うこともできません。
したがって、入院時の支払い計画には忘れずに食事代を入れておくことが肝心です。
食事に関しては、こういう考え方もできます。
入院しているときは体調が万全ではないことが多く、そういうときに健康状態まで考慮した食事が、この値段で提供されるのはありがたいという考え方です。
また、肝臓病や糖尿病などで食事制限が必要な人にとってみても、自分でカロリーを計算しながら食材を買ったり、料理をしたりする手間を考えれば、1食あたりの食費はそう高いものではないかもしれません。
《直近の入院時の1日あたりの自己負担費用》
【全体】平均:2万3300円
人数(人):368
5000円未満(%):10.6
5000~7000円未満(%):7.6
7000~1万円未満(%):11.1
1万~1万5000円未満(%):24.2
1万5000~2万円未満(%):9.0
2万~3万円未満(%):12.8
3万~4万円未満(%):8.7
4万円以上(%):16.0
【1年以内】平均:2万6200円
人数(人):135
5000円未満(%):10.4
5000~7000円未満(%):8.1
7000~1万円未満(%):9.6
1万~1万5000円未満(%):20.7
1万5000~2万円未満(%):8.9
2万~3万円未満(%):12.6
3万~4万円未満(%):11.9
4万円以上(%):17.8
【1年超~3年以内】平均:2万400円
人数(人):129
5000円未満(%):8.5
5000~7000円未満(%):10.1
7000~1万円未満(%):14.0
1万~1万5000円未満(%):25.6
1万5000~2万円未満(%):10.9
2万~3万円未満(%):8.5
3万~4万円未満(%):7.0
4万円以上(%):15.5
【3年超~5年以内】平均:2万2500円
人数(人):99
5000円未満(%):13.1
5000~7000円未満(%):4.0
7000~1万円未満(%):10.1
1万~1万5000円未満(%):27.3
1万5000~2万円未満(%):6.1
2万~3万円未満(%):19.2
3万~4万円未満(%):7.1
4万円以上(%):13.1
※治療費・食事代・差額ベッド代に加え、交通費(見舞いに来る家族の交通費も含む)や衣類、日用品などを含む。高額療養費制度を利用した場合は利用後の金額。
生命保険文化センター「令和元年度 生活保障に関する調査」より
65歳以上では居住費がかかることも!
65歳以上の人が慢性疾患などで長期療養型の病床や病院(医療療養病床)に入院した場合は、食費に居住費分370円を加えた生活療養費という名目での支払いとなります。
居住費分とは、水道光熱費のことで、「自宅などで療養してもかかる水道光熱費は、負担していただく」というわけです。
65歳で線引きされるのは、介護保険との公平性の面からです。
医療療養病棟は、介護保険施設と同様に「住まい」としての機能があるとみなし、介護保険で自己負担となる食費・居住費が、医療保険においても自己負担化されています。
入院時の生活療養費とは?
【食事代以外で入院中にかかる費用】
入院中は食事だけでなく、さまざまな場面で費用がかかります。
具体的には、差額ベッド代や、テレビや冷蔵庫の使用料、患者の交通費、家族が見舞いに来たときの交通費のほか、入院生活に必要な日用品や衣類(パジャマや下着など)なども、新たに購入するとなれば、それだけお金もかかります。
では、どんな費用がかかってくるのか、細かく見ていきましょう。
【差額ベッド代が生じる場合は全額負担】
入院する際、あるいは入院費を支払う際に、よく耳にするのが差額ベッド代でしょう。
これは、希望して個室に入院したり、人数が少ない病室(1~4人部屋)に入室したりしたときにかかる追加費用のことで、正式には特別療養環境室料といいます。
厚生労働省中央社会保険医療協議会(中医協)の「主な選定療養に係る報告状況」によると、全体の2割強で差額ベッド代が請求されています。
これは医療費に含まれないため、費用は健康保険の適用外となり、全額自己負担となります。
医療機関が患者に差額ベッド代を請求するためには、次に示すようにいくつかの条件があります(細かい決まりはないため、医療機関によって若干、条件の範囲が異なります)。
① 4床以下の病室
② 病室の面積が1人あたり6・4㎡(4畳程度)以上
③ ベッドごとにプライバシーが確保できる設備がある
④ 私物の収納設備、照明器具、小机、イスがある
ちなみに、差額ベッド代の金額についても国による料金設定がなく、医療機関によってまちまちです。
下記に示した表は平均の金額を紹介していますが、個室(1人部屋)で1泊数十万円するという医療機関もあるようです。
《1日あたりの差額ベッド代(平均)》
病室の種類
1人部屋:7837円
2人部屋:3119円
3人部屋:2798円
4人部屋:2440円
厚生労働省中央社会保険医療協議会(中医協)「主な選定療養に係る報告状況」より(2017年7月1日現在)
そうでなくても個室に1週間入院すると、それだけで5万5000円ほどの新たな出費が生じます。
4人部屋でも1万7000円ほどになります。
そう考えると、短期入院であっても、個室、あるいは少人数の部屋を希望すれば、それなりの出費になります。
一方で、個室には個室の利点もあります。
たとえば、4人部屋、6人部屋では同室の患者のいびきや歯ぎしり、咳込む音で眠れない、見舞客の会話が気になるといった問題は、個室に入ることで解決できます。
周囲への音漏れも気にしなくてよいので、イヤフォンをつけないでテレビを視聴することも可能です。
多少の追加料金を払ってでも、個室や少人数の部屋にしたいと希望する患者や家族がいるのは、こういった理由があるからなのです。
もちろん、大部屋にもそれなりの良さはあります。
その一つが患者同士でコミュニケーションがとれるという点です。
たわいのないおしゃべりや情報交換をすることで、つらい入院期間を乗り越えられることもあるようです。
差額ベッド代が不要なケース
ぜひ知っておきたいのは、差額ベッド代を支払う必要があるのは、患者自身が希望した場合、あるいは入室に同意した場合に限られるということです。
つまり、6人部屋のベッドが満床のためとか、治療上の必要がある(たとえば、感染症でほかの人にうつす恐れがある、など)ためといった、医療機関側の事情や入院患者の病気の状況などで、4人部屋や個室を利用することについてはこの限りではなく、差額ベッド代は発生しません。
このことをわかっていないと、気づかずに退院時に差額ベッド代を支払ってしまうことになるので、事前にしっかり確認しておくようにしましょう。
《差額ベッド代を求められないケース》
1.患者側に同意書による同意の確認を行っていない場合(同意書に室料の記載がない、患者の署名がないなど、内容が不十分である場合を含む)
2.治療上の必要により差額ベッド室に入院した場合(救急患者など病状が重篤なため安静を必要とする例、免疫力が低下し、感染症に罹患するおそれのある例、集中治療が必要な例、身体的・精神的苦痛を緩和する必要のある終末期など)
3.病棟管理の必要性などから差額ベッド室に入院させ、実質的に患者の選択によらない場合(MRSAなどへの感染のため院内感染を防止するため入院させる例)
ICU(集中治療室)に入ったときは?
命に関わるような重い急性疾患を発症した患者や、大きな病気の手術を受けた患者が一時的に入るのが、ICU(集中治療室)です。
人工呼吸器や人工心肺といった救命や生命維持のための装置が備え付けられており、専門医や専門の看護師らが24時間体制で患者の状態を管理します。
基本的には、家族などは立ち入り禁止です。
当然のことながら、ICUは患者の希望で入るわけではありませんが、特定入院料として1日あたり14万円弱(7日間以内)~12万円強(8日~14日以内)かかります。
これは一般的な入院の10倍ぐらいの金額になります。
手厚い医療を受けるためには、これくらいコストがかかるということです。
特定入院料は健康保険の適用となるため、患者負担は1~3割ですみます。
また、高額療養費の給付の対象にもなっているので、実際の支払いは限度額までになります。
テレビの利用料は?
スマートフォンが普及した今も、入院生活にはテレビが欠かせないという人も多いと思います。
最近の医療機関にはベッドごとにテレビが設置されていて、利用料を支払えば簡単に見ることができます。
支払い方法には、日額とテレビカード方式があります。
また、差額ベッドの部屋はテレビの利用料が差額室料に含まれる場合が多くあります。
日額方式、テレビカード方式のいずれも、特徴や注意点があります。
知らないで選ぶと思わぬ出費となりますので気を付けましょう。
まず、日額方式ですが、申し込んだ後は視聴しても、しなくても料金が発生します。
ずっとテレビをつけている、見たいテレビ番組が多いという人には向いている方式です。
一方、カード方式の場合は、テレビをつけっぱなしにしているとどんどん加算されていきます。
見る番組が決まっている人や、読書などテレビの視聴以外に空き時間を使える人は、こちらのほうがよいでしょう。
なお、個室でない病室にいる場合は、テレビの視聴にはイヤフォン(コード付きのもの)が必要です。
自宅にあればそれを利用するのがお得です。
最近は、無線通信のWi-Fiが設置されている医療機関が増えています。
その場合は、そのWi-Fiを利用してスマートフォンでテレビを見ることもできます。
医療機関が設定したWi-FiのIDとパスワードを入れる必要があるので、入院時に受付などで聞いてみるといいでしょう。
入院生活に必要な費用は?
入院生活では、パジャマなどの病衣やカーディガン、着替えの下着などの衣類、履きもの、タオル、歯ブラシ、コップなどの生活用品、歯磨き粉、ティッシュペーパー、ウェットティッシュ、洗顔石けん、ボディソープ、シャンプー、リンスなどの消耗品が必要になります。
こうした日用品は、家にあるものを使えるのであれば新たな出費にはなりませんし、そうでなくても100円ショップなどで揃えれば、コストを抑えることができます。
しかし最近は、感染症防止の観点から、医療機関で入院セットとして販売しているものや、指定したものを使うよう指示されることもあり、その場合は割高になります。
病衣はレンタルができるところもありますが、もちろんレンタル料がかかります(1日あたり数百円程度)。
さらに、水やお茶などの飲み物も病院から提供されませんので、基本的には患者側が自分で用意しなければなりません。
こうした飲料代もかかってきます。
衣類の洗濯は、都度、家族が持ち帰って洗えるようであれば特に費用はかかりませんが、施設内のコインランドリーを使う場合は洗濯代がかかってきます。
《コインランドリーの値段例》
洗濯1回:200円
乾燥30分:100円
※1回利用すれば、400~500円
※洗剤や柔軟剤などは料金に含まれません。
お見舞いをいただいた方には快気祝いを
入院中にお見舞いに来てくれた友人や知人、親族に、退院後に改めてお礼を送る慣習があります。
やはりそういうときは、病気のときに気にかけてくれた方へのありがとうの気持ちを込めたいものです。
一般的に、完治した場合は「快気祝い」を、療養が続く場合は「御見舞御礼」として送ります。
病気の内容や回復の状況などによって変わってきますが、お返しの時期は退院から10日以内が望ましいとされています。
快気祝いや御見舞御礼の金額は、見舞いの品の半額から3分の1、手作りの品には2000~5000円が相場となっています。
送り忘れることのないよう、お見舞いに来てくれた人のリストと見舞い品は、メモしておくようにしましょう。
またこのときにかかる費用も、事前に見積もっておくようにしましょう。
贈るものとしては、菓子(クッキーなど)や石けん、タオルなどの消耗品がよいようです。
カタログギフトを贈るという方法もあります。
商品券は、現金と同じような扱いにみられる場合があるので、あまりおすすめできません。
できれば寝具類も避けましょう。
シーツやパジャマは病気が残ることを連想させてしまい適しません。
花を贈る人もいるようですが、鉢が後に残りますし、「根付く」という連想をすることもありますので、避けたほうがいいでしょう。
プリザーブドフラワーもお見舞いにはいいかもしれませんが、鉢同様、後に残ってしまいますので、快気祝いや御見舞御礼では利用しないようです。
フラワーアレンジメントや花束などは残らないのでいいでしょう。
生花は花粉などにアレルギーがある人もいるので、慎重に選んでください。
何よりお見舞いのお返しを送る上で一番大切なのは、「元気になりました」「心配してくれてありがとう」という気持ちを伝えることです。
《お見舞いお返し品の例と値段》
紅茶:1500円
クッキーや石けん:3000円
タオル:4000~5000円
※オンラインストアや百貨店の快気祝い用のギフトで多い価格帯。
がんや糖尿病など大病にかかる医療費を2つのシチュエーションにわけて表記し、詳しく説明されています。