2016年9月、医師から「肺がんステージ4」という突然の告知を受けた刀根 健さん。当時50歳の彼が「絶対に生き残る」と決意し、あらゆる治療法を試してもがき続ける姿に......感動と賛否が巻き起こった話題の著書『僕は、死なない。』(SBクリエイティブ)。21章(全38章)までの「連日配信」が大好評だったことから、今回はなんと31章までの「続きのエピソード」を14日間連続で特別公開します!
入院4日目
午前中はMRIの撮影だった。
CTよりも詳細に僕の脳を調べる。
この結果によって放射線治療のやり方を決めるのだという。
頭部MRI撮影の特徴はなんといってもその音だ。
まるで耳の外で光線銃を撃ち合って宇宙戦争をやってるような音が聞こえた。
午後、その結果を聞きに放射線治療室の担当医師の診察室へ向かった。
放射線治療室は病院でも一番深い地下3階にあった。
エレベーターもわざわざ乗り継がないと行けないようなつくりになっていた。
最悪の放射線事故を想定してのことらしい。
がらんと人のいない待合スペースにテレビの音がうるさく響いていた。
「刀根さん」
受付の女性が僕を呼んだ。
「こちらです」
診察室に入ると、いい感じに力の抜けた医師が椅子に座っていた。
「放射線科の斉藤と申します」
少し関西弁の混じった斉藤先生は、ハリウッド映画に出てくる不思議なものを発明する科学者みたいな雰囲気があった。
「えっとね、前の病院で撮ったCTだけじゃ刀根さんの頭の中がよくわからなかったので、午前中にMRIを撮影させてもらいました。で、当然MRIのほうが精度よく撮れてるんだけど、腫瘍はこれですね」
斉藤先生は画面を指差した。
「CTだけだと腫れている大きさしかわからなかったんだけどね、MRIで撮ると腫瘍の大きさもわかるんですよ」
「ああ、これですね」
僕の脳の中に明らかに色の濃くなっているところがあった。
まるで梅干しみたいだな、と思った。
「大きさは大体3センチくらいかな。腫れているところも含めると、おおよそ5センチ。まあ、そこそこの大きさです。決して小さくない。どちらかというと、大きい部類です」
「へえーそうなんですね」
でっかい梅干しだな。
淡々と話を聞いている僕を見て、斉藤先生は不思議そうな顔をした。
「で、治療なんですが、この大きさだとガンマーナイフは使えない。大きすぎてね。ガンマーナイフはもっと小さいヤツにしか使えないんです。で、残された方法はというと」
「はい、残された方法は?」
「定位照射という方法か、全脳照射という方法になります」
「はい」
「でね、腫瘍のある左側じゃなくって、右側にも白いところがあるよね」
斉藤先生はそう言うと、PC画面に違う写真を映し、白くなっている部分を指差した。
「ええ、そこですね」
「僕はこれも怪しいと思ってるんだけど、画像診断医の所見では髄膜腫と判定されてますね。これが転移による腫瘍だったら、全脳照射といって脳全体に放射線を当てる方法だったんだけど、これが髄膜腫との診断なので、皆でいろいろ検討した結果、刀根さんの治療方法は定位照射でいくということになりました。よろしいですか?」
「はい、わかりました」
「定位照射とは、頭を固定して、様々な角度から放射線を当てる方法です。今日はこっち、次はこっち、みたいに」
斉藤先生は、頭の上を手のひらの場所を変えながら説明した。
「で、刀根さんの場合は、全部で5回予定しています。1回7グレイ、全部で5回、ですから合計35グレイを脳に照射することになります。時間は1回15分くらいかな」
「そんなに短いんですか?」
「ええ、あまり多くやると危険ですから。1日の照射量が決められてるんですよ。少しずつ、日をおいて角度を変えて、行なうんですよ。これに詳しく書いてありますので、よく読んでおいてください。それと、脳腫瘍に放射線は効きますから、これはきっとうまくいきますよ」
斉藤先生は手元にあるプリントを渡してくれた。
そこには僕の脳腫瘍の大きさや位置、治療の方法などが詳しく書いてあった。
「ありがとうございます」
「あ、それからこれも」
僕の脳腫瘍のMRI画像をA4プリントに印刷して渡してくれた。
脳の中にでっかい梅干しが写っていた。
個人的にはほしくなかったけど、まあいいか。
僕は受け取った。
「治療は週明けの19日から行ないます。治療開始の15分前くらいには外の待合に来てください。治療後にふらふらしたり、気分が悪くなったりすることがありますから、そのときは車椅子を用意させますので、看護師に言ってくださいね」
「わかりました」
「それからね、毛は抜けますからね」
「え、抜けるんですか?」
「ええ、抜けます」
ま、いいか、毛ぐらい。