老後2000万円不足の問題を耳にして、すぐに貯蓄や投資を始めようとした人、ちょっと待って!何となく始めてしまうと、大きな失敗につながります。そこで、2万3000人の家計を再生したファイナンシャルプランナー・横山光昭さんの著書『となりの家(うち)のざんねんなお金の話』(あさ出版)から、実際にあったお金の失敗エピソードを連載形式でお届け。動き出す前に、まずはお金の正しい知識を学びましょう。
奨学金破産が急増中
文部科学省などの調査によると、大学入学初年度にかかる入学金や授業料などの合計は国立大学で約84万円、私立大学では約133万円。
卒業までの合計になると、国立大学で約243万円、私立文系で約397万円、私立理系で約540万円に上りますから、かなりの負担となります。
一方で、親の収入はバブル崩壊後、長らく上がっていませんから、仕送り額の減少傾向はとどまりません。そのため2人に1人はなんらかの奨学金を借りているというのが現状です。
そのようななか、近年、奨学金の返済滞納が社会問題となり、奨学金を運営している日本学生支援機構をはじめとする各機関は厳しい回収に乗り出しました。
実際に、滞納1~3ヶ月ほどで本人や保証人へ電話による督促や通知がなされた後、債権回収専門会社による取り立てや、個人情報の信用情報機関への登録といった措置が取られることもあります。
なかには、月の返済額が10万円にのぼって返せず延滞、取り立てで追い込まれて「奨学金破産」に陥る若者も急増しています。
●近藤さん(54歳/男性)の場合......
「借りた奨学金をいつまで私たちが支払わなければならないのでしょうか。子どもたちに相談しても、今は払えないというばかりで。これでは老後の生活が不安でなりません」
50代も半ばにさしかかってきた会社員の近藤さんは、3人の子どもに惜しみなく塾や習い事をさせて育ててきましたが、2人目の子どもが大学に進学した頃から家計が苦しくなり始めて仕送りができなくなり、2人目と3人目の子どもには奨学金を利用させました。
現在、3人の子どもは皆独立。会社員として働いていますが、まだ働き始めたばかりで給料は安く、「奨学金を返済してもらえないか」と泣きつかれ、2人分で月に合計4万3000円ほど返済しています。
近藤さんの収入は手取りで35万円ですから、どうにか返済できないこともないのですが、貯蓄に回すお金はなく、一向に増えません。年齢的にも老後資金が心配になり、「どうにかならないでしょうか」と家計相談に来たわけです。
子どもに払わせるしかない?
「借りたものだから返すのは当然」
「借りる時点でもっと慎重になるべき」
といった声もありますが、大学に入学するだけで一所懸命の学生に、大学卒業後どんな職業に就き給料をいくらもらえるのか見通せというのも酷な話ではあります。
こうした現状ですから、親が子どもに代わって返済するケースが増えているのですが、親にも貯蓄がなく苦しんでいる家庭も少なくないわけです。
また最近では、「老後は子どもの世話になりたくない」と考える人も増えてきました。
しかし、奨学金の返済によって老後資金が枯渇し、結果、子どもの世話にならざるを得ないといった家庭も増えています。
そうなりたくなければ、老後資金を早い段階から貯めておく必要があったのですが、子どもの将来に期待し、教育費をかけ過ぎてしまっていたために、気づいたときにはすでに遅しということになりやすいのです。
そういう意味では、収入がたいして増えないことを前提として、将来かかる子どもたちの費用を早い段階から見通し、資金計画を立てておく必要があります。
しかし、近藤さんの家庭のように、老後が迫ってきていてはそれも難しいでしょう。
となると、むだ遣いをやめて家計を見直すとともに、やはり子どもたちに奨学金を返済させるしかありません。
今は給料が安いでしょうから、しばらくの間は親と子どもの〝ツインカム〟で返済し、将来、子どもたちの給料が増えてきたら全額返済してもらうというのが現実的ではないでしょうか。
昔、消費者金融のコマーシャルには、最後に必ず「ご利用は計画的に」というコメントがありました。奨学金の利用も同じで、「ご利用は計画的に」が理想です。
【ここがざんねん】今の家計ばかり見てやりくりしていると、老後資金が枯渇しかねません。特にお子さんを抱えるご家庭は、将来かかる費用を早い段階から見通し、資金計画を立てましょう。
習慣、資金計画、投資の3テーマで、絶対NGなお金の扱い方を実例から学べます。最終章にはプロが教える「お金を増やす」13のステップも