「年金は所得代替率の5割になる」この意味、わかりますか?社会保障と資産形成のリテラシーを高める「老後のお金の哲学」

定年退職の後や年金受給の時期など、考えなければならないことが山ほどある「老後の暮らし」。哲学者・小川仁志さんは、これから訪れる「人生100年の時代」を楽しむには「時代に合わせて自分を変える必要がある」と言います。そんな小川さんの著書『人生100年時代の覚悟の決め方』(方丈社)から、老後を楽しく生きるためのヒントをご紹介。そろそろ「自分らしく生きること」について考えてみませんか?

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国民は政府の愚行の共犯者

社会保障の話をしましょう。

資産形成に関する金融庁のまとめた報告書が話題になりました。

老後資金が2000万円不足するというショッキングな表現が国会で取り上げられ、メディアを通じて一気に広まったからです。

たしかにそこだけ捉えると、いかにも人生100年時代に起こりそうな、信憑性のある問題点の指摘だといえます。

もちろん、これは平均的な生活を送る人が、平均的な年金収入のみで生活するとした場合の試算であって、あくまで一つのシミュレーションにすぎません。

おそらくそんな人はあまりいないでしょうから、実は例外的なサンプルだといっても過言ではありません。

数字というのはつくづくいい加減なものです。

ただ、常識的に考えても、お金をめぐっては国家も個人も今まで通りの発想でやっていけないことはたしかです。

今でさえ長期債務を抱え、かつ高齢化していく社会の中で、政府は税収の確保に手をこまねいています。

社会保障に回すお金は増える一方なのに、財源がないのです。

そもそも選挙のたびに新しい社会保障手当を創設しますが、一度お金を出すことにすると、そう簡単にはやめられません。

にもかかわらず、財源の目途もなく近視眼的にバラマキを行うのがこれまでの政治のやり方でした。

国民も今日明日の生活に困っている人たちが多いので、そうした政策を支持することで、結果的に政府の愚行の共犯者になってきたのです。

あらゆるピンチはチャンスに転換可能

しかし、人生100年時代の到来を目前に控え、もはやそのような姿勢ではいられません。

国民は自分の首を絞めることになりかねないからです。

ではどうすればいいのか?

政府は正直に、国民に対してある程度の自助を促すメッセージを発信する必要があるでしょう。

と同時に、国民も資産形成についてのリテラシーを高め、できるだけ早いうちから長期的な老後資金の計画を立てるべきです。

すでに公的年金は、所得代替率が今後5割になるといわれています。

つまり、現役時代の所得に対して半分しか年金が得られないということです。

政府は公的年金の水準が下がることをもっと明言しなければなりません。

これは脅すということではなく、正確に事実を伝えるということです。

そうすれば、国民はいやがうえにも資産運用や金融包摂、そして資産管理などにもっと関心を持つようになるはずです。

こうした問題はいかにも危機のように聞こえるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。

あらゆるピンチはチャンスに転換可能です。

いずれも新たなビジネスチャンスにすることができます。

たとえば資産管理。

今、団塊の世代が高齢化し、2025年に75歳以上の人口が急増するといわれます。

いわゆる「2025年問題」です。

そうすると、必然的に資産管理をできない人の数も増えてくるでしょう。

認知症の人はどうやって資産管理すればいいのか。

そういった仕組みについてはまだまだ発展途上です。

したがって、人生100年時代の資産管理のあり方を新たなビジネスチャンスとして捉えれば、社会にとっても個人にとっても決してマイナスにはならないはずです。

大事なことは、この危機をイノベーションのチャンスと捉えられるかどうかです。

社会保障は超越的デザインの発想で制度設計を

その点で参考になるのが、MIT(マサチューセッツ工科大学)のエイジラボで所長を務めるジョセフ・F・カフリンの著書『人生100年時代の経済』(NTT出版)です。

カフリンは、まず高齢者像自体の転換を提案しています。

私たちが高齢者に抱くイメージはみんな同じで、それは「強欲で困窮したシニアたち」だと指摘します。

しかし、こうした決めつけは間違いだというのです。

そもそも年をとったらこう生きるべきと型にはめることはできないと。

そのうえでこれまで世の中を変えてきたベビーブーマーの世代に着目し、ちょうど高齢者となった彼らのニーズを満たせるような商品やサービスを開発すべきだというのです。

なぜなら、この世代は若い頃のように自分たちをワクワクさせてくれるプロダクトを求めるのであって、ベージュやグレーの地味な色づかいや、熱意の感じられないサービスは受け入れてくれないからです。

たしかに私たちは、これまで高齢者のステレオタイプを作り上げ、あまりにもそれにとらわれすぎていた感があるように思います。

その固定観念から抜け出さない限り、今後幅広い年齢にわたって高齢者と呼ばれる人たちの多様なニーズをビジネスチャンスに変えることはできないでしょう。

そうして高齢者のイメージを正確に捉えなおすことができれば、社会保障のあり方も自ずと変わってくるはずなのです。

すべての高齢者が、助けを求める困窮した弱い存在ではないはずです。

社会保障について考えるとき、つい私たちは、何人の若者で一人の高齢者を支えるかという計算をしてしまいますが、その計算自体が意味をなさない可能性だってあるのです。

逆にお金もなく弱い存在としての若者だってたくさんいます。

もう年代で福祉を分ける発想はやめたほうがいいのかもしれません。

その点で、カフリンがプロダクトについて提唱している「超越的デザイン」という発想は、社会保障にも当てはめることができるかもしれません。

超越的デザインとは、顧客を半人前扱いするのではなく、楽しく容易にプロダクトを使いこなせるようにする発想です。

まさに人口動態の年齢区分にとらわれることなく、最新で最高の解決策をもたらすものといえます。

ステレオタイプな高齢者や若者といった対象を前提に政策を考えるのは、もう時代遅れなのです。

たとえば、私たちの身近にあるプロダクトでいうと、スマホはまさに超越的デザインの賜物です。

たしかに、表示を拡大することも音声入力することもできるので、今や誰にとっても楽々使えるプロダクトの代表といえます。

そこで、社会保障もこの超越的デザインの発想に基づいて制度設計してみてはどうかと思うのです。

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117-H1.jpg哲学者が語る20の人生訓や新時代への考え方など、人生を豊かにしてくれる言葉が全5章にわたってつづられています

 

小川仁志(おがわ・ひとし)
1970年京都府生まれ。哲学者・山口大学国際総合科学部教授。京都大学法学部卒、名古屋市立大学大学院博士後期課程修了。大学で新しいグローバル教育を牽引するかたわら、「哲学カフェ」を主宰する。NHK・Eテレ「世界の哲学者に人生相談」に指南役として出演。最近はビジネス向けの哲学研修も多く手掛けている。

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『人生100年時代の覚悟の決め方』

(小川仁志/方丈社)

現在40歳の人の平均余命は残り44年。人生もう1回分あるのが今の時代です。これまでの価値観や方法は通用しないかもしれません。時代の変化に合わせて、自分を変えて、老後や余生を自然体で生きれるように。これからの人生を準備するための一冊です。

※この記事は『人生100年時代の覚悟の決め方』(小川仁志/方丈社)からの抜粋です。

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