私たちの社会の年金制度はどこへ向かっているのでしょうか。10月からは消費税も増税されます。限られた年金の中で、心に豊かさを感じて暮らすにはどうすればいいのでしょうか。社会保険労務士、年金アドバイザーの清水典子さんに、年金の「繰り下げ受給」ついてお聞きしました。
年金を増やせる繰下げ受給は何歳までがお得?
老齢基礎年金と老齢厚生年金は原則65 歳から受け取ることが可能です。ただし、本人が希望すれば、その時期を早めたり遅らせたりできます。早く受け取ることを「繰上げ受給」、66歳以降に受け取ることを「繰下げ受給」といいます。繰上げ受給をすると年金額は少なくなり、繰下げ受給をすれば年金額は増えます。
老齢基礎年金の場合、65歳から受け取る年金額を100%とすると、60歳から受け取る場合には70%の金額になります。2019年度の老齢基礎年金は満額で78万100円ですから、60歳から繰上げ受給をする場合は54万6,070円です。月額にすると2万円程度の減額になります。いったん繰上げ受給を開始すると、変更ができません。減額された年金額が生涯続くことになりますので注意が必要です。
一方、繰下げ受給の場合はどうでしょうか。例えば70歳で繰下げ受給をすると65歳受給開始と比較し、年金額は42%アップします。月額にすると約2万7,000円の増額ですから、老後資金を増やす効果は大きいといえます。
ただし、70歳受給開始にすると、69歳までの生活費は、自分で確保しなければなりません。
では、何歳から受け取るのが有利でしょうか。
繰下げ受給で得をする年齢を計算したのが下の図です。
※2019年度の老齢基礎年金の受給額をもとに計算。70歳から受給開始すると年金額は32万7642円増額され年110万7742円となることがわかります。一方で69歳まで受け取らなかった年金の合計額は78万100円×5年で390万500円。この金額を32万7642円で割ると11.9年となるので70歳+約12歳=約82歳以上長生きすれば、総受取額は繰下げしない場合より多くなります。
例えば、66歳に繰下げた場合には78歳以上の長生き、70 歳に繰下げた場合には、82歳以上の長生きで受取額の総額が繰下げしない場合よりも多くなります。その年齢以上、長生きすればするほど得することになります。厚生労働省の簡易生命表(2017年)によると、65歳の人の平均余命は男性19.57年(約85歳)、女性24.43年(約89歳)です。平均余命から考えると、70歳まで繰下げた方が得する可能性は高いといえます。
相談は「ねんきんダイヤル」(0570-05-1165)または各地域の年金事務所へ
取材・文/向山 勇