<この体験記を書いた人>
ペンネーム:向日葵
性別:女
年齢:51
プロフィール:12歳から23歳の3人の子ども&脳梗塞の夫と暮らす、ワーキングマザーです。
7年前に48歳で脳梗塞を発症し、55歳の現在も後遺症として右半身マヒと言語障害、それに「てんかん」がある55歳の夫は、てんかんで精神障害者福祉手帳を取得しています。この7年間はほとんど家に引きこもっていましたが、やっとやる気を出してくれ、夫と私は二人三脚で就職活動を開始。3度4度と何度もハローワークに通い、やっと良い就職先が見つかりました。
いろいろ親身になって相談に乗ってくださったハローワークの担当者の方。そして、「てんかん」で精神障害者福祉手帳を取得していることも承知の上でそれでもOKを出してくださった会社に、心からの感謝の気持ちでいっぱいでした。不自由な手で夫自ら履歴書を時間をかけて書き、面接も終えて、あとは初勤務の日を待つばかり。そんなとき、「スーツを買わなくちゃな」と妙に明るい笑顔で夫が言い出しました。
就職先の会社は大手食品会社で食品の製造をしていますが、夫は事務職での採用となりました。とはいっても右手のマヒでパソコン操作が難しいので、主な仕事は伝票の整理です。服装はスーツになります。もともとスーツは2着ほど持っていたのですが、「就職祝いに1着新しく買ってもいいかな」と夫の提案に頷きました。でも、ここからが大変だったのです。
夫は言い出したら即実行しないと気が済まないタイプ。本音を言えば私の夜勤の仕事の公休日にスーツを買いに行きたかったところですが、その日のうちに行くことに。まず、いつも衣料品を買っている自宅から15分ほど離れた場所にある総合衣料品店で紳士服コーナーにあるスーツを物色。値段は安いのですがデザインが気に入らず、そこではワイシャツを4枚購入。「家に2着あるから、ワイシャツは1着でいいんじゃない?」とやんわり枚数を減らそうと試みたものの、夫は「毎日変えるからあと4着必要だ」と言って譲らず、結局ワイシャツは4枚買うことになりました。
すっかり軽くなった財布を悲しい気持ちで握りしめながら、さらに20分離れた紳士服専門店に向かいました。専門店ならデザインは豊富です。きっと夫の気に入る品もあるはず。「でも予算がないからスーツは1着だけ」と心の中で自分に言い聞かせつつお店に到着後、まずはいちばん値段が安いコーナーに足を運びました。でも、案の定というか値段が安いものはそれなりの品質で、試着してみると値段が高いスーツの方が断然着やすかったようで、「これが良い」と夫が言ったスーツはどれも高価なものばかり。しかも、複数です。夫はなんと3着も高価なスーツを選んだのです。
「予算がないから最初のお給料を貰ってから買おう」と言いたいのが本音です。でも、夫のこんなうれしそうな晴れやかな表情は脳梗塞になって以来初めてのこと。どうしても言い出せず普段なら絶対使わないクレジットカードで支払いをすませました。なんだかんだと心の中で不平を言いつつも、どうしても夫に甘くなる自分に苦笑するしかありません。
ちなみに、現在初通勤から2カ月余り。夫は日替わりでスーツを着替え、毎朝張り切って仕事に向かっています。結果良ければすべてよし。我が家も、長いトンネルから一歩抜け出た気がします。
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