<この体験記を書いた人>
ペンネーム:ウジさん
性別:男性
年齢:60
プロフィール:この夏で91歳になる父は元銀行員。体もまだまだ元気ですが、それ以上に頭がしっかりしているのが大の自慢です。
関東圏にある実家に一人住まいしている父は、2022年の8月で91歳になります。
兄(63歳)が近くのマンションに住んでいるので、万一の場合を含めて任せている状態です。
父は、いまだに身の回りのことなどは自分でやっているので、その点は安心しています。
父は、大学から実家を離れた私との折り合いはよくなく、この夏の帰省も「コロナがまだ心配だから」とあっさり拒否されました。
私の母は、昨年6月に膵臓がんで89歳で亡くなりました。
母が亡くなった時も、父は葬儀や墓まですべてを自分で取り仕切りました。
兄にも私にも一切頼ることはなく、唯一私に頼んだのは母の知り合いに挨拶して回るときの運転手だけでした。
昨年のお盆は初盆だったわけですが、その手配なども全て自分でこなしました。
ところが、今年の盆も帰省しようと兄と連絡を取り合っていたとき、兄がこんなことを言い出しました。
「親父もしっかりしてるけど、最近ちょっと自信を失いかけてるみたいでさ...」
あの絶対的自信家の父が自信を失いかけている? 詳しく聞いてみたのですが...。
「...5月頃かな? 母さんの3回忌だから法事をしなきゃって言い出して。母さんは去年が初盆だから3回忌は来年じゃない? って言ったのさ。そしたらすっかり口ごもっちゃって...」
「ちょっとした勘違いだろ? 黙り込むほどのことじゃないと思うけど...」
「まあ、1年勘違いしただけなんだけどさ、前にあったことを思い出したんじゃないかな? すっかり落ち込んじゃって...」
「前にあったことって? どういうこと?」
「...ああ、その、うん...お前には言うなって言われてたんだけど...そのちょっと前に銀行から振込をしようとしたときにな...」
通信販売の支払いを窓口でしようとしたとき、金額を一桁間違って記入して、不審に思った窓口の方に質されたとのこと。
「俺ともあろうものが、よりによって金額を間違えるなんて、ってすごい落ち込んでてさ、申し訳ないけど笑っちゃったんよ」
父は元銀行員で、金銭や貯蓄などについては絶対の自信を持っていました。
銀行員人生で一度たりとも金額の訂正をしたことがない、という自慢話は子どもの頃からよく聞かされていたものです。
「まだまだ頭はしっかりしているって自他ともに認めてただけに、最大の自信だった銀行の手続きで間違えたもんだから、かなり不安になったみたいでさ」
「それからは脳トレパズルの本とか買ってきてやってるみたいなんだよ。もちろん俺の前では絶対その姿は見せないけどね」
父が自信を失っている姿について聞いたのは初めてでした。
一生懸命、脳トレパズルに取り組んでいる姿を想像して、つい電話口で吹き出してしまいました。
「あ、言うまでもないけど...」
「分かってるって! 知らないふりしとくよ」
そう言って電話を切りました。
正直大したことではないと思いますが、数字は絶対に間違えないと豪語していただけに、父の落胆は想像がつきます。
まあ、今までなかったことなので、今後は少し兄との連絡頻度を上げようと思いました。
「また、迷惑がられるだろうけど...」
とりあえず父に近況報告の電話を入れることにしました。
これからは少しこまめに電話してみようと思っています。
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