<この体験記を書いた人>
ペンネーム:ウジさん
性別:男
年齢:59
プロフィール:娘に見合い話が出るようになって自分の年齢を思い知るとともに、思い出が蘇ってきました。
「ねえ、あなたはどう思う?」
そう言いながら妻(56)が、封筒から出した小さな写真を見せてきました。
真面目そうな青年が写っています。
「...どうって?」
「だから、娘さんにどうですか、って渡されたからさ...」
「え? って、見合い? いまどき?」
「確かにね、あの子も興味はないと思うんだけどねえ...」
「俺たちの頃は見合いも多かったけどなあ」
「私たちも半分見合いみたいなもんでしょ?」
「まあね、その前も見合いもどきだったし...」
「え? それ何?」
妻には話していない、忌まわしい思い出が蘇りました。
30年ほど前、まだ20代後半だった私は、職場の上司(当時40代)から見合いを勧められました。
「知り合いの娘さんなんだけど、義理もあってね...会ってみるだけでも...」
そう言われ、断り切れずにお会いしました。
相手の女性は当時23歳で、会ってみるとかわいらしいタイプの女性でした。
ろくに話もしなかったのですが、数日後「今度は2人だけでお会いしたいです」と電話がかかってきました。
何が気に入られたのかさっぱり分かりませんでしたが、遊園地で会う約束をさせられてしまいました。
決して嫌いなタイプではないので、わたしも少しその気になってデートとなりました。
「お待たせしました」
そう言って現れた彼女は、当時としては珍しい立派なカメラを持ってきていました。
「すごいカメラですね」
「...ちゃんと残しておきたくて」
はにかむ彼女の真意に、この時の私は気づいていませんでした。
乗り物に乗ったり食事をしたりと、私はデートを楽しみました。
彼女は言葉通りカメラでいろいろ撮影していましたが、やたらとツーショットの写真を撮るように通りすがりの方に頼むのです。
「私が撮りますよ」
「いいんです。2人の写真じゃないと...」
そう言葉を濁したのも、浮かれていた私には「2人の」と言う言葉だけが響いていました。
すっかりうまくいったと思っていた私でしたが、しばらくして「もうお会いできません」と連絡を受けました。
突然のことで訳が分からず、理由を知りたくて自宅に電話をしても、電話口にも出てもらえない有様でした。
特に気分を害するようなことをした覚えはなく、なぜ気に入られ、そしてなぜ嫌われたか理由は思い当たりませんでした。
不思議に思っていると、件の上司が声をかけてきました。
「ウジさん、最近、変な男に付きまとわれたりしてないか?」
「は? どういう意味ですか? 別に何もありませんが...」
「そうか、いや、すまなかった。実はな...」
そう言った上司が事の次第を明かしてくれました。
彼女には元カレがいて、しつこく結婚を迫られたのですが、素行に問題もあるため断る理由を探していたのだそうです。
そこで「結婚の決まった相手がいる」と元カレに告げ、その証拠写真を撮るために見合いを口実に偽の婚約者に仕立て上げられたというわけでした。
「写真を見せられて、その男は去っては行ったんだが、何せいろいろある男だから、結婚相手を探し出してなんてことがあるかもって先方が心配してらしてね」
偽の婚約者を説明もなく演じさせておいて、勝手な心配をするものだとは思いましたが、幸いその後も不審な男は現れませんでした。
「...ねえ、どうする? 一応あの子にも伝えてみる?」
妻の声で我に返りました。
「...いや、いいんじゃないか。紹介してくださった方には悪いけど、まだ仕事を始めたばかりだしな...」
「そうね、好きな人ぐらいいるかもしれないし」
「そういうこと。見合いは最後の手段ということにしておこう」
私はそう言って写真を封筒に戻しました。
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