朝、犬との散歩中、神社の境内に集まってラジオ体操をする高齢者や、公園の遊具を上手に利用してストレッチをするシニアの姿をよく見かけます。皆さん色々な形で健康づくりやコミュニティに参加されているのだなぁと感心させられます。
そんなある日、いつものように早朝の散歩で公園にやってきました。大きな池に沿うように作られた公園には小川が流れ、うちの犬はそこでちゃぷちゃぷと水遊びをするのが好きなのです。その小川を眺めながら、20インチほどの小さめの自転車をとてもゆっくりと押しているお婆ちゃんの姿がありました。
小川は人工的に作られているので生き物らしきものはいません。まあ、苔が生えているくらいなものです。これまでに一度もお見掛けしたことがないお婆ちゃん。その横を通り過ぎるとき、「結構なお歳だな」と思ったのです。
「何を見てはるんやろう?」
「なんで自転車に乗らないんだろう?」
「もしかして具合でも悪いんかな?」
通り過ぎた時にちらりと見ると、自転車の前と後ろのカゴには郵便物がどっさり入っていました。
「変だな?」
「徘徊かも!」
犬は先にある広場に行きたくてぐいぐいとリードを引っ張ります。でも、どうしても気になってリードを戻してゆっくとお婆ちゃんに近づき「なんか泳いでますか?」と声をかけました。「なーんも泳いでへんよ」と、明るい声が返ってきてまずは安心。
「どっか行ってきはったん?」
「ちょっとな、欲しいもんあったさかいに、そこまで買物いってきた帰り」
300メートルくらい離れた場所にあるコンビニのことだと思いました。
よく行って帰ったこれたなと思うほど、足元は頼りなく見えます。
「へえ、そうなですね。えらいね。家は遠いんですか?」
「いや、そこ上がってまっすぐ行ったとこ」
「ほな、すぐそこですね。おひとりですか?」
「こないだまで近所に妹がおったけど、一人は危ないからって息子の家に引き取られた」
「ほんで近所のヘルパーさんに来てもらってる」
「朝早いから自分で買いにいこう思ってんけど、えらいわ」
「自転車には乗らはらへんの?」
「いやぁ、乗られへん。これは杖代わりや」
重い自転車に自分の体を預け、ハンドルでバランスを取りながら、ゆっくり手押し車のように押して買い物にでかけたのだと分かりました。
「いやぁ、それは危ないわ。大丈夫ですか?」
「慣れているから大丈夫。けどもう94歳やで。あかんわ」
「ええーっ。そんなには見えません。もっとお若いと思いました。」
「きゅうじゅうしにもなって一人や、ほんまになんもでけへん。しゃーないわ」と嘆きの口調。
そしてここで初めて「あんたどっから来たん?」と尋ねてくれました。
「近所ですけど、一人で帰れますか?」
「大丈夫や。慣れてるから。おおきに」としっかりとした口調で仰るので「お気をつけて」と別れました。
94歳、自分で身の周りのことをするのが困難そうに見受けられました。手をかして家までお送りする時間はありました。けれど、下手に介添えをして転倒させてしまっては何をしている事か分かりません。どうか無事に家まで帰れますようにと祈るしかありませんでした。
住んでいる地域では犬を飼っている人が多いと感じています。夕方の公園では輪になって立ち話をして、飼い主さんのコミュニティみたいなものがあるようにも思えます。ちょっとしたボランティア活動ではないですが、散歩中に気になる人を見つけたら、声をかける等の見守る活動が広がっていったらいいなと思いました。
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