<この体験記を書いた人>
ペンネーム:文月奈津
性別:女
年齢:64
プロフィール:長男が2021年の暮れに結婚し、主人と次男の3人暮らし。この夏憧れだったステンドグラスの教室に行きます。
2019年の6月、66歳の主人が定年後の再就職先の会社を突然リストラになり、私がしばらく働くことになりました。
私はそれまで、自宅から1時間前後の通勤時間を要する場所で働いてきました。
ですが62歳になったのだから、今度は自宅近くの自転車で通える場所で勤めたいと思った私。
そこで、飲食は未経験でしたが、近所にある大好きな回転寿司店に目星を付けました。
でも、飲食のアルバイト経験が長い次男(20代前半)から「かあさんには無理。飲食は甘くないよ。第一、かあさん右や左にすばやく動けるの」と言われてしまいました。
(そりゃあ、反復横跳びは昔から苦手だわよ。でも、のり巻きだってたまに作るし、料理は何年もしてきているよ)
そんなことを心の中でつぶやきつつも、思い切って回転寿司店に応募したら、即採用となったのです。
その時の面接で担当は洗い場と告げられた私は思わず「えっ」と言ってしまうと改めて希望を聞かれ、「軍艦」と答えたところ副店長は「無理だよ」とバッサリ。
結局、軍艦とデザートを作る担当になったのですが、この副店長の判断は正しかったとすぐに思い知らされることになりました。
食品を扱う仕事だけに手洗いは2回行います。
2回目は管理者の監視の下で行わなくてはなりません。
私はトイレが近いので、仕事前にトイレに行っているのもかかわらず、作業場が冷えているためすぐにトイレに行きたくなってしまいます。
「トイレに行っていいでしょうか?」
大きな声で言って誰かが返事をしてくれないと行けないルールなのですが、これも苦痛でした。
仕事もできないのに、トイレばかり行ってと気が引けました。
さらに不器用な私は、実際の仕事でも四苦八苦。
専用の機械のスイッチを押すと海苔が巻かれた軍艦が出てくるのですが、この機械、ときどき形が崩れた使いものにならない軍艦を出してくるのです。
さらに上にのせるネタの重さがそれぞれ違うので、覚えるために重さをノートに写し、軍艦の完成図のイラストも書きました。
とびこや甘エビ、かに味噌などを買い込み、自宅で軍艦を作ってはかりで実際の重さを確かめる練習をしました。
そして私にとって一番の強敵はデザートです。
私は、クリームの絞り出しが下手で、家で練習しても、生クリームを添えるデザートのできばえが良くありません。
さらに困ったのは、アイスクリーム。
サーバー(アイスをすくう専用の大きいスプーンのようなもの)がうまく使えず、カチカチになっているアイスクリームがつかめないのです。
教えてくれた先輩は、「さっとできないと溶けてしまう」とすぐに代わってくれました。
このままでは迷惑をかけてしまうと思い、私はネットでアイスクリームサーバーを買って練習することにしました。
しかし、届くはずのサーバーが来ないうちに次の出勤日が来てしまい、アイスクリームの盛り合わせを作って冷凍庫にしまう例の作業が回ってきました。
サーバーですくったアイスクリームはすでにやわらかくなっていて、2つ3つ作っただけで溶け始めます。
急いでやっているのですが、進まないは溶けてしまうはで散々です。
その日の先輩は代わってくれず、最後まで私が作業している様子を見て、溶けて形のくずれたアイスクリームをそのまま冷凍庫に持って行ってしまいました。
いくら、冷凍したって丸いきれいな形になるわけではありません。
私はこのとき、この仕事は無理なのだと観念しました。
退職を申し出るため制服を返しに行ったら、面接時の副店長がいました。
私は「申し訳ありませんでした」と謝り、「難かしかったですか」との副店長の言葉にただうなずいたのでした。
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