ディープな街にある「スナック えむ」店主、霊感ゼロのアラフォー作家、えむ。「お礼に一杯奢るから」を謡い文句に、ホラートークをしてくれるお客さまを待つ。今宵は、社会人1年目のイケメン男子、裕樹君(22)の話「毎週来る霊」。
※実際に身の周りで起きた実体験エピソードに基づき構成しています。
【前編】ガチャ...夜中に訪れた「大柄な男」をよく見ると/今宵もリアルホラーで乾杯「毎週来る霊」
【韓流スター風の社会人、裕樹君(22)の話】
無断で自宅に侵入した男が居間に入ってきました。
「そ、それ以上近づくなっ...!」
僕は、たまたま近くに置いてあったトレーニング用の鉄アレイを両手で持つと、精いっぱい威嚇しました。
しかし男は、「お邪魔します」
そう言って、当たり前のように居間の奥まで入ってくると、僕の横を通り過ぎて寝室へ入っていくんです。
と言ってもこの男、「足がない」。
宙に浮いて「スーッ」と移動している感じで。
(完璧に幽霊じゃん...)
その夜は寝室に入れるわけもなく、眠ることもできずに一晩中、居間でテレビを大音量でかけながら過ごしました。
それからです。
その男は毎週、決まった曜日の決まった時間に訪ねて来るようになりました。
玄関の鍵を閉めていてもお構いなしに開けて入ってくるんです。
そして毎回、「お邪魔します」と言って、スーッと寝室へ消えていくんです。
すぐに引っ越す余裕もなかったので、その日だけ家に帰らないようにしていましたが、毎週知らない男の幽霊が訪ねて来る部屋に住んでいられるわけがありません。
けれど引っ越す前に、あの男は一体何者なのかをどうしても知りたかった僕は、大家のおばあさんに聞いてみたんです。
最初は何も知らないと、とぼけた調子のおばあさんでしたが、僕のことをすごく気に入ってくれていたみたいで、「本当に引っ越しちゃうのかい...」と寂しそうな顔をして教えてくれました。
僕の住んでいた部屋で事故が起きたことは一度もないのですが、いつ頃からか「男が訪ねて来る」と言われるようになり、なかなか借り手がつかなくなったんだそうです。
おばあさんが言うには、だいぶ前に住んでいた住人の友人が、ちょくちょく泊まりに来ていたそうで、おばあさんとも仲良くしていたんだとか。
けれどある日、こちらに向かう途中、事故で亡くなってしまったんだそうです。
「きっと自分が死んだことに気づいてないのかもしれないね...」
おばあさん自身は、男の姿を見たことはないんだとか。
「特に危害を加える霊じゃないみたいだから、大丈夫だと思うんだけどねえ...」
確かに何もしないし、律儀に「お邪魔します」とあいさつまでしてくれる幽霊かもしれませんが、毎週尋ねてこられるのはたまったもんじゃありません。
それさえなければ快適だったし、おばあさんもいい人だったけど、僕は泣く泣くその部屋を引っ越すことにしました。
※ ※ ※
「じゃあまだ、その男は尋ねてきてるってことよね?」
「多分...来てるんじゃないかと思います」
「大家さん、お祓いでもして成仏させてあげたらいいのに」
「僕も言ったんですが『それもかわいそうな気がする』と言ってて...やさしい人なんですよね...」
「成仏できないほうがかわいそうな気がするんだけど...っていうか、鉄アレイを持って威嚇って......かわいい~」
「そ、そこは流してくださいよ~!」
「しかし...イケメンよね」
「あの、僕の話、ちゃんと聞いてました?」
「もちろん。いいネタをありがとう」
私は裕樹君のグラスに、並々と焼酎を注ぐ。
「えっ! こんなに飲めないですよ、僕」
「ゆっくり飲んでいったらいいじゃない。夜は長いんだし」
「はあ...ありがとうございます」
「今宵は眼福でした。今後も私の老眼改善のご協力をお願いします」
「......」
自分のプライベート空間に、誰か...しかも幽霊がいるなんて、確かにたまったもんじゃないわよね。
私も今度引っ越す時は、慎重に物件選びをしなくちゃ。
ま、霊感ゼロだから、いても気づかないだろうけど...。
【今宵もリアルホラーで乾杯シリーズ】
・この絵、何かがおかしい...絵の中にいるはずの女の子が/「呪われた絵」
・怖い、引きずり込まれる! 夢で見た「黒い影」の正体は/「悪夢の道」
・誰もいないはずなのに...! 背後から奇妙な「音」が/「祓っちゃだめ!」
・え「命に危険」がある遊び、続けます?/「こっく●さん」
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