ラッパーとして活動する一方、脳梗塞や腎不全など、いくつもの病気を経験してきたダースレイダーさん。現在は、クリニックで透析の準備から機器のセッティング、針刺し、片づけまでを自ら行うセルフ透析を続けています。その日々をつづった『セルフ透析はじめました』(KADOKAWA)を上梓した彼に、かつて病院から距離を置き体の異変を見過ごしていた当時の振り返りや、自分の体と向き合う大切さについて伺いました。

ダースレイダー氏
ダースレイダー氏


視界のぼやけ、肩の痛み、強い疲れ。見過ごしていた体の異変

2010年、33歳だったダースレイダーさんは、クラブでのイベントに出演する直前、脳梗塞で倒れました。突然、周囲が回り始め、声を出すことも立つこともできなくなったといいます。入院後の検査で糖尿病が判明し、左目の視力も失いました。その後、腎機能が悪化し、40歳の頃には「何もしなければ余命5年」と告げられました。

発症前から、体には変化が表れていました。
「後から振り返れば、視界がぼやけたり、左肩が異様に凝ったりしていました。とても疲れやすく、予定がない日はずっと寝ていたんです」
一方、ライブやレコーディングがある日は元気に動けたため、不調を病気のサインとは捉えていませんでした。仕事がない日にだるいのは、音楽をしていないから。音楽を続けていれば元気でいられる――。当時はそう考えていたといいます。

「でも、いま振り返ると逆でした。仕事をしているときはアドレナリンが出て、不調をごまかしていたんです。そのときは元気だから大丈夫だと思っていましたが、翌日にはまた疲れ切っている。その繰り返しでした」
父親の闘病を通じて抱いた病院への不信感も、受診を遠ざけたといいます。妻から勧められても耳を傾けず、10年以上、健康診断も受けていませんでした。具合が悪くても自己判断でやり過ごし、発症時には比較できる過去の検査データもなかったといいます。

過去の自分に伝えたいのは、「病院に行け。検査を受けろ」

では、当時の自分に声をかけるとしたら――。
「病院に行け。検査を受けろ、ですね」

体の痛みやだるさは、異変のサインになることがありますが、原因まで自分で判断できるとは限りません。ダースレイダーさんは脳梗塞の発症前、強い肩の痛みで整形外科を受診したものの、レントゲン検査では異常が見つかりませんでした。「肩が痛いから肩が悪い」とは限らないことを、のちに身をもって知ることになったのでした。

「自分の体のことは自分が分かっていると思いがちだけれど、体の中が実際にどうなっているかは、分からないことだらけです。採血や検査は、自分の状態をデータとして知るための一歩。定期的に受けていれば、数値の変化にも気づけます。健康なときのデータがあれば、不調が起きたときに比べることもできます」
検査を「悪いところを調べられるもの」と身構えるのではなく、「自分探しの一環として受けてみてほしい」と話します。

「どう生きたいか」を支えてくれる医師との出会い

入院中、医師やリハビリスタッフと接するなかで、医療への見方も変わったそうです。当時1歳だった長女をもう一度抱くことを目標に、リハビリへの意欲を引き出してくれたスタッフもいました。腎臓の治療では、本人がこれからどのように生きたいのかを聞いたうえで、治療法を提案する医師にも出会いました。

「治療が先にあって、そこに人を当てはめるのではなく、『こう生きたいなら、こうしていきましょう』という順番でした」
こうした経験を通じて、医師や看護師を、自分が望む人生を送るために支えてくれる存在だと考えるようになったといいます。

一方、医師との間に信頼関係を築くのが難しい場合は、必要に応じて別の医師に相談してもよいと考えているといいます。自身も、信頼していた医師の異動を経験し、患者側も状況に応じて医師や医療機関を選んでよいと気づきました。規模や知名度だけでなく、自分の希望に耳を傾け、暮らし方を一緒に考えてくれる相手かどうか。それも選ぶ視点の一つだと話します。

2駅分歩き、眠いときは眠る。自分の体との付き合い方

現在は、月水金の週3回、1回4時間の血液透析に加え、月2回以上、土曜日にも3時間の透析を受けています。いまでは、体に変化を感じたら早めに医療機関へ相談するようになったといいます。取材の少し前にも胃の不調が続き、クリニックの勧めで検査を受けたそうです。

透析中は、本を読んだり音楽を聴いたりする「インプットの時間」。ただし、眠くなったら無理をせず寝ると決めています。その日の体調に合わせて休むことも、自分の体と付き合っていくうえで大切にしていることの一つだと話します。

 透析を行うために必要な機器のセッティングも、自分で行っています
透析を行うために必要な機器のセッティングも、自分で行っています



 クリニックで透析中のダースレイダーさん。準備から針刺し、片づけまで、透析に必要な作業を自分で行う「セルフ透析」を実践しています
クリニックで透析中のダースレイダーさん。準備から針刺し、片づけまで、透析に必要な作業を自分で行う「セルフ透析」を実践しています




「透析のある日は、帰りに家の2駅手前で電車を降り、30分くらい歩くようにしています。クリニックの医師からも、血流を良くするために歩くよう、よく言われているので。暑い時期は、歩くだけでぐったりする日もありますが、できる範囲で続けています。エスカレーターやエレベーターもなるべく使わず、階段を上るなど、日常の中で体を動かすことを心がけています。そして、好きなものを食べて、しっかり透析する。それが僕の元気の秘訣です」




40代・50代は、仕事や家庭で担う役割が増え、自分の健康を後回しにしてしまいがちです。「まだ動けるから大丈夫」と考え、体の変化を見逃してしまうこともあるでしょう。しかし、自覚症状だけで体の状態を判断することはできません。定期的に健康診断を受け、不調があれば早めに医療機関へ相談する。必要な検査を受け、自分の体の状態を客観的に知る。そして、家族からの言葉にも耳を傾ける。自分らしい人生を長く楽しむために、まずは自分の体に目を向けることから始めてみませんか。

『セルフ透析はじめました』
(ダースレイダー/KADOKAWA)

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 著書『セルフ透析はじめました』(KADOKAWA)
著書『セルフ透析はじめました』(KADOKAWA)



【書籍情報】
『セルフ透析はじめました』(ダースレイダー)
発売日:2026年8月20日
定価:2,090円(税込)
判型:四六判/240P
ISBN:9784046080189
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322511000903/


■ダースレイダー
ミュージシャン、ラッパー。1977年パリ生まれ。東京大学を中退後、2000年にMICADELICでメジャーデビュー。MCバトル主催やインディーズレーベル設立で若手育成に尽力し、現在のフリースタイルブームの基礎をつくる。2010年に脳梗塞で倒れ左目を失明。その後も糖尿病や腎不全など複数の病気と闘い続けている。40代のときには腎機能の悪化により「余命5年」を宣告されたが、人工透析治療などを続けながら音楽やメディア活動を精力的に行う。
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YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCwdTBtmYtecKaOyQ1kaUsUw