介護のプロが「一人っ子の遠距離介護はラッキー」だという理由。親と離れて暮らす一人っ子がほっとする言葉

介護のプロが「一人っ子の遠距離介護はラッキー」だという理由。親と離れて暮らす一人っ子がほっとする言葉 柴田理恵さん、川内潤さん
撮影:津田聡

川内:おっしゃる通りです。その意味では、親と離れて暮らしている場合は、引き取ったり、帰ったりしなければ、自然と物理的な距離がとれます。

柴田:でも、あれはどうなんですか、見守りカメラ。一人暮らしをしている親が心配だからと家につける方がいらっしゃるじゃないですか。最近はCMでもよく見るし。

川内:あー、監視カメラですね(苦笑)。あれはやめたほうがいいです。一緒に暮らしているのとほとんど変わらなくなっちゃいますから。むしろ実際には離れて暮らしているので、かえって不安が募ったり、ストレスを溜め込んだりしかねません。

柴田:あぁ、そうか......。

川内:そもそも柴田さんは、自分の家に監視カメラをつけられて四六時中録画されて嬉しいですか? それも子どもに。

柴田:安心と思う人もいるかもしれませんが、私はちょっと......。

川内:ですから、そうしたIT機器の利用も含めて、離れて暮らす親とは距離をとったほうがいいです。

柴田:なるほど。

川内:よく、「一人っ子で遠距離介護は大変じゃないですか?」と聞かれるんですが、そういう方はたいてい頻繁に実家へ帰ったり、一人で何もかもやったりすることを前提にしているんですよね。でも、頻繁に帰れば親孝行の罠に落ちるだけだし、兄弟がいれば、いろいろ意見のすり合わせが必要な場面も出てきます。

その点、一人っ子なら親の介護をどうするか自分一人で決められます。意思決定のプロセスがシンプルなのは一人っ子の利点です。

柴田:一人っ子だとほかに頼れる兄弟がいればいいのにと思うんですよ。でも、兄弟がいたらいたで面倒なこともあるわけですよね。

川内:ですから、親と離れて暮らす一人っ子で遠距離介護を考えている方には、いつも「わざわざ帰らなければ親孝行の罠に落ちることもないし、自分だけで介護方針も決められる。あとは介護のプロにお任せすればいいんですから、大変どころか、むしろラッキーだと思いますよ」と、お伝えすることにしているんです。するとみなさん、憑(つ)き物(もの)がとれたように、ほっとした表情をされます。

柴田:それでいいんだと安心するんでしょうね。

 

NPO法人となりのかいご代表理事 代表理事 川内潤さん
1980年生まれ。上智大学文学部社会福祉学科卒業。老人ホーム紹介事業、外資系コンサル会社、在宅・施設介護職員を経て、2008年に市民団体「となりのかいご」設立。14年に「となりのかいご」をNPO法人化、代表理事に就任。厚労省「令和2年度仕事と介護の両立支援カリキュラム事業」委員、厚労省「令和4・5年中小企業育児・介護休業等推進支援事業」検討委員。介護を理由に家族の関係が崩れてしまうことなく最期までその人らしく自然に過ごせる社会を目指し、日々奮闘中。著書に『もし明日、親が倒れても仕事を辞めずにすむ方法』(ポプラ社)、共著に『親不孝介護 距離を取るからうまくいく』(日経BP)などがある。


柴田理恵(しばた・りえ)
女優。1959年、富山県に生まれる。1984年に劇団「ワハハ本舗」を旗揚げ。舞台やドラマ、映画など女優として幅広い作品に出演しながら、バラエティ番組で見せる豪快でチャーミングな喜怒哀楽ぶりや、優しさにあふれる人柄で老若男女を問わず人気を集めている。
また、こうした活躍の裏で2017年に母が倒れてからは、富山に住む母を東京から介護する「遠距離介護」を開始。近年は自身の体験をメディアでも発信している。
著書には、『柴田理恵のきもの好日』(平凡社)、『台風かあちゃん――いつまでもあると思うな親とカネ』(潮出版社)などのほか、絵本に『おかあさんありがとう』(ニコモ)がある。

※本記事は柴田理恵著の書籍『遠距離介護の幸せなカタチ――要介護の母を持つ私が専門家とたどり着いたみんなが笑顔になる方法』(祥伝社)から一部抜粋・編集しました。

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