「変わってしまった親のことが受け入れられない」柴田理恵が介護のプロと語る、介護で直面するショックの回避法

「変わってしまった親のことが受け入れられない」柴田理恵が介護のプロと語る、介護で直面するショックの回避法 柴田理恵さん、川内潤さん
撮影:津田聡

川内:そうなんです。親が介護状態になると、たとえば、自分が幼少期に家族でテレビを見たり、食事したりしたダイニングテーブルに、洗面器や入れ歯の洗浄剤が載ったりします。それを見た子どもの中には、お客様が来たら恥ずかしいというのとは別に、自分の大切な思い出がよからぬ形で上塗りされた気がして、大きな喪失感にかられる人もいるんです。「お母さん、ここで家族みんなの誕生日祝いをしたよね?」と。でも、そんなことはもはやどうでもいいんですよ、ご本人の生活からしたら。入れ歯はテーブルの上にあってすぐにカチャッとはめられることが大事なんです。それを家族の価値観だけで軌道修正をかけちゃうと、親は自分にとって快適な生活ができなくなってしまう。

柴田:それに気づかないと、なんでこんなところに入れ歯が置いてあるんだよ、とイラついて、つい洗面台に持っていってしまったりする。親の都合も考えずに。

川内:それは結局、変わってしまった親のことが受け入れられないからなんです。でも実は、親は変わったのではなくて、本来の姿が顔を出しただけかもしれない。人はしばしば本来の自分を隠して生きています。

柴田:親は子どもにすべてをさらけ出して生きてるわけではないですからね。

川内:私だってそう。自分はたいして勉強しなかったくせに、平気で子どもには「勉強しろよ」と言ったりするわけですよ。「学校へはちゃんと行かないとダメだぞ」と講釈たれたり。自分は相当さぼってたくせに(笑)。親なんてそんなものですよ。

柴田:だらしなくなったように見えるけど、本来そういう人だったのかもね、と思えたら、ショックも少なくて済みそうです。

川内:おっしゃる通りで、親の意外な素顔を見たとき、「変わってしまった」と思うか、「新たな一面を知れてよかった」と思うか、その違いはとても大きいです。

柴田:変わってしまったと思ったら、なかなか現実を受け入れられない。

川内:そうなんです。そして「(父・母は)そんな人じゃない。もっとちゃんとできるはず」と、子どもの考える理想の生活態度を親に押しつけてしまうわけです。

 

NPO法人となりのかいご代表理事 代表理事 川内潤さん
1980年生まれ。上智大学文学部社会福祉学科卒業。老人ホーム紹介事業、外資系コンサル会社、在宅・施設介護職員を経て、2008年に市民団体「となりのかいご」設立。14年に「となりのかいご」をNPO法人化、代表理事に就任。厚労省「令和2年度仕事と介護の両立支援カリキュラム事業」委員、厚労省「令和4・5年中小企業育児・介護休業等推進支援事業」検討委員。介護を理由に家族の関係が崩れてしまうことなく最期までその人らしく自然に過ごせる社会を目指し、日々奮闘中。著書に『もし明日、親が倒れても仕事を辞めずにすむ方法』(ポプラ社)、共著に『親不孝介護 距離を取るからうまくいく』(日経BP)などがある。


柴田理恵(しばた・りえ)
女優。1959年、富山県に生まれる。1984年に劇団「ワハハ本舗」を旗揚げ。舞台やドラマ、映画など女優として幅広い作品に出演しながら、バラエティ番組で見せる豪快でチャーミングな喜怒哀楽ぶりや、優しさにあふれる人柄で老若男女を問わず人気を集めている。
また、こうした活躍の裏で2017年に母が倒れてからは、富山に住む母を東京から介護する「遠距離介護」を開始。近年は自身の体験をメディアでも発信している。
著書には、『柴田理恵のきもの好日』(平凡社)、『台風かあちゃん――いつまでもあると思うな親とカネ』(潮出版社)などのほか、絵本に『おかあさんありがとう』(ニコモ)がある。

※本記事は柴田理恵著の書籍『遠距離介護の幸せなカタチ――要介護の母を持つ私が専門家とたどり着いたみんなが笑顔になる方法』(祥伝社)から一部抜粋・編集しました。

この記事に関連する「暮らし」のキーワード

PAGE TOP