SNSの普及が、新たなストレス源になっている――。「世界が尊敬する100人」に選ばれた禅僧・枡野俊明住職はそう指摘します。SNSに振り回されず、穏やかに生きるためには、どうすればよいのでしょうか。そこで、住職の新刊『何を言われても「平気な人」になれる禅思考』(扶桑社)より、繊細な人が傷つかずに暮らすためのエッセンスを連載形式でお届けします。
呼吸を調えると、怒りが消えていく
現代のような高度情報化社会では、世の中の進行速度が速く、情報がとっかえひっかえ、際限なく、もたらされています。そのなかで人はたえまなく、情報から刺激を受けつづけています。
いってみれば、常に〝ピリピリ〟した感覚があるのです。
それが、心の潤(うるお)いを失わせ、カサカサさせている、といってもいいのではないでしょうか。ちょっとしたことにも怒りを感じてしまう理由がそんなところにもある、とわたしは思っています。
みなさんも、日常生活のなかでイラッときたり、カッとしたり、ということが少なくないかもしれませんね。
怒りをどのように抑えるか(アンガーマネジメント)に注目が集まっていることも、それを物語っています。
怒りが湧いたときの禅の処方箋は、やはり、呼吸です。
丹田呼吸を数回繰り返す。それが怒りを静める最良の方法です。怒りについて、わたしがよく引くのがこんな喩(たと)えです。
イラッとくる、カッとするということは、湖の静かな水面に小石を投じたのと同じ状態です。
水面には波紋ができ、広がっていきます。この波紋が怒り。さて、波紋を抑えようとして、湖に手を入れたらどうなるでしょう。
さらに新たな波紋ができて、水面は静まるどころか、いっそう波立つことになるのではありませんか?
なにもせず、じっと待っていれば、やがて波紋は消え、水面はまた静かな状態に戻ります。
怒りも、「ここで怒っちゃいけない、冷静にならなければ......」と考えると、かえって燃えさかることになったりします。じっと待つことで、心は平静な状態に戻っていくのです。
「平常心是道」(びょうじょうしんこれどう)
悟りは厳しい修行の先にあるのではない。いつも穏やかな心、平静な心でいることが、そのまま悟りなのだ、という意味の禅語です。怒ったときも、この平常心にいかに早く立ち戻っていくか。そこが大切になります。
立ち戻るためには、先ほどもいったように〝じっと待つこと〟ですが、その態勢をつくってくれるのが丹田呼吸なのです。深い呼吸に集中することで、「間(ま)」が生まれます。待つ時間ができるのです。
修行を積んだ禅僧には、いつも穏やかでめったなことで怒ったりしない、というイメージがあるようですし、実際そういう方が多いのですが、それは、いつでも丹田呼吸ができていて、〝じっと待つ〟心得が身についているからかもしれません。
わたしが親しくさせていただいている板橋興宗(こうしゅう)禅師は、曹洞宗大本山總持寺の貫首をつとめられた方ですが、いつだったか、こんなお話をしてくださいました。
「わたしもカッとすることはあるよ。そのときは、まず、呼吸だ。そして、心で〝呪文〟を唱える。わたしは『ありがとさん、ありがとさん、ありがとさん』と三度唱えることにしているが、それで怒りはきれいさっぱり消える」
これは、ぜひ、覚えておいていただきたい禅のアンガーマネジメント法です。呼吸に加えて、自分の心を静めてくれる言葉を呪文として唱える。文字どおり、「静かに、静かに、静かに」でもいいですし、「怒らない、怒らない、怒らない」でもいい。そう、そう、「平気、平気、平気」というのもいい感じですね。
怒りでわれを失う、という言葉もあるくらいですから、自分を失うほど、激しく心を揺さぶられるのが怒りということでしょう。そうだとすると、平気でいるうえで、いちばん課題となるのは、怒り対策ということになりそうです。
みなさんが、いま手に入れた〝呼吸+呪文〟方式、忘れないでくださいね。
〝呼吸+呪文〟で「怒り」から「平気」に立ち戻る
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5つの章にわたって、「繊細な人が傷つかないための41の教え」を掲載。SNSでも実生活でも「何を言われても平気な人」になるためのヒントが満載です。