【ブギウギ】見事なオープニング回収に驚き...最終週で明かされた「ヒロインの願い」と「本当の引退理由」

【先週】「美空ひばりは登場するのか?」視聴者が気にしていた「因縁の相手」の巧みなキャラ設定

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「師弟愛」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

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趣里主演の朝ドラ『ブギウギ』の第26週「世紀のうた 心のうた」が放送された。

最終週を飾ったのは、スズ子(趣里)と羽鳥(草彅剛)の「師弟愛」だ。

『オールスター男女歌合戦』を終えたスズ子(趣里)は、歌手引退の決意を固め、作曲家・羽鳥善一(草彅剛)のもとに向かう。スズ子と二人三脚で歩んできた羽鳥は猛反対し、引退するのであれば絶縁するとまで言う。また、スズ子の突然の引退宣言にショックを受けたマネージャー・タケシ(三浦りょう太)は家を出て行ってしまうが、スズ子の決意は揺るがない。

羽鳥と絶縁状態になってしまったことが引っかかりつつも、スズ子は引退会見をする。そんなスズ子は茨田りつ子(菊地凛子)に、羽鳥は妻・麻里(市川実和子)に背中を押され、話し合いを持つ。

朝ドラでは恒例の「立ち聞き」システムが、本作の後半ではゲス記者・鮫島(みのすけ)の「のぞき見&隠し撮り」という新たなシステムによって転がって行った。そんな鮫島は引退会見でもスズ子に意地悪な質問をぶつけつつ、引退について寂しくなると言い、最後に帽子をとって拍手を送る。誰よりスズ子に粘着してきた鮫島は、「アンチは一番のファン」を地で行くキャラだった。

あれだけ盗み撮りされ、記事にされながらも、懲りずに誰と会うときも人目を気にせず同じ喫茶店を使うのも、大雑把なスズ子らしいところかもしれない(スズ子のモデル・笠置シヅ子はすごく繊細な人だったことが、羽鳥のモデル・服部良一の寄稿などからわかっているが)。

今週の最大の見所は、最終回のラストステージでの生歌、その直前の木曜放送分で、改めて向き合ったスズ子と羽鳥の10分半の対話だろう。

スズ子が引退し、自分のもとからいなくなってしまうことが怖くて仕方なかったこと、"ブギ=福来スズ子"になってしまったことでスズ子に嫉妬していたことを打ち明ける羽鳥。出会ったばかりの頃にはスズ子の長いつけまつ毛を面白がり、様々なムチャブリをしては、その都度食らいつき、想像・期待を超えてくるスズ子にズキズキワクワクしていた。そんな羽鳥が膝を突き合わせ、テレ隠しでごまかすこともなく、真摯に語った「羽鳥善一という作曲家を作ってくれたのは、まぎれもなく君です。深く感謝します。今まで本当にありがとう。ありがとうございました」 という言葉、深く頭を下げ続ける姿勢に胸を打たれる。

ズキズキワクワクすることが大好きで、何かとぶっとんだ理解不能の天才変人でありつつ、人としての真っ当さを持ち合わせた羽鳥善一という人物の魅力は、草彅剛だから表現しえたものだろう。

そして、羽鳥の本心を聞いたスズ子は、苦境の度に羽鳥に何度も救ってもらったと言い、引退の本当の理由を伝える。「ワテを一番輝かせてくれはるんが先生ですねん」「先生とワテは、人形遣いと人形みたいな関係やと思ってます」、それを否定する羽鳥に、スズ子はこう続ける。

「先生にとって歌い手は歌の一部やと。それでよろしいんです。それがよろしいんです、ワテは。ワテはいつまでも先生の最高の人形でおりたかったんです」

羽鳥にとって最高の人形でいられなくなったと涙を流しながら語るスズ子に、驚き、呆れ、笑い、テレや愛おしさが入り混じった表情で「まったく......え? なんてこった......君はそんなことで歌手を?」と泣き笑いする羽鳥。

一部では「怖い」「不気味」と言われ続けたからくり人形のオープニングは、羽鳥のもとで歌う最高の人形・福来スズ子だったのか......と、その仕掛けと、二人の熱演に感動しつつ、ふと我に返る。

「人形遣いに操られてきた最高の人形」を私たちはずっと観てきたのか。女性にそうした生き方を全く望まない羽鳥の人間性に救われているものの、「誰かの最高の人形としてその一部になる」女性の生き方を20232024年朝ドラで観ることになるとは。

とはいえモデル・笠置自身は自伝で自身を「ヌカ味噌くさい」と評していただけに、ヌカ味噌くさく「義理と人情」を重んじる古風な女性の物語だったのだろう。

ちなみに、個人的に今週好きだったのは、引退宣言後に自宅で憩うカオスなシーン。

スズ子は自分が歌手をやめる日が来るとは思っていなかったと言い、「それ以上に思うてもなかったんは、大好きな歌をやめるいうときに、ワテの周りにいるのがあんたらやったいうことや」「なんや変な感じやねん。なんでワテのこんな大事な日に一緒におるのがアンタらやねんって思うのに、アンタら以外は考えられへん」

この「アンタら」という十把一絡げの中に、歌手活動を一番近くで支えてきたマネージャー、さらに愛娘・愛子まで含んでしまう、スズ子の大雑把さよ。愛娘を誘拐しようとした犯人と息子と愛娘を同列に扱うスズ子の神経の太さよ。「なんでアンタらやねん」と聞きたいのは、愛子のほうだろう。でも、そんな母の大雑把さを愛子は愛しているのだろう。

ありがとうございましたと言うスズ子に、一同がありがとうございましたと返し、頭を下げるが、愛子だけは言わず、頭を下げず、ニッと笑ってみせる姿にさもありなんと思った。

趣里のパフォーマンスと草彅の芝居がまぎれもなく本作の表看板。しかし、大雑把なところをツッコミながら見守るのも、本作の裏の楽しみだったかもしれない。

文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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