【先週】脚本×演出がしっくりこない...? さまざまな思惑のなか、脚本家の強い思いを感じた「草彅剛のセリフ」
毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「新旧対決の描き方」について。あなたはどのように観ましたか?
※本記事にはネタバレが含まれています。
趣里主演の朝ドラ『ブギウギ』第25週「ズキズキするわ」では、福来スズ子(趣里)に迫る若い力の台頭と新旧対決が描かれる。
1965年、山下(近藤芳正)からのバトンを受け取り、先んじて新旧交代したタケシ(三浦りょう太)は芸能界にすっかり染まり、スズ子の仕事の交渉もこなしていた。いつもスズ子の家で飯を食らい、油を売り、愛子(このか)のお相手だけしているイメージだったタケシがマネージャーらしくなっていることに時の流れを感じる。
しかし、誘拐未遂犯の小田島(水澤紳吾)が息子・一(井上一輝)を連れて、スズ子に謝罪に来て、仕事を探していると知ったことから、スズ子は雇うことに。ツヤ(水川あさみ)譲りの"義理と人情"とはいうが、実際に芸能界で誘拐事件が多数あり、悲劇的結末を迎えたケースもあった史実を思うと、誘拐犯を雇用し、共に食卓を囲むスズ子家はなかなかカオスである。スズ子&愛子の他にタケシ、小田島親子、家政婦・大野(木野花)が並ぶ他人だらけの食卓を見ながら、誰が「住み込み」で誰が「通い」なのかわからず、混乱している声もSNSでは続出していた。
ともあれ、プライベートは楽しく混沌としている一方、スズ子の仕事は徐々に減っていた。
そんな中、スズ子に『オールスター男女歌合戦』にトリで出演する話が来るが、トリの直前に話題の新人歌手・水城アユミ(吉柳咲良)を歌わせたいと言われる。実は水城アユミは、USKのピアノ伴奏者だった股野義夫(森永悠希)と、スズ子の憧れで若くして亡くなった先輩・大和礼子(蒼井優)の娘だった。
『ブギウギ』が始まった当初から、スズ子のモデル・笠置シヅ子と因縁の関係があったとされる美空ひばりが登場するかどうかは、視聴者の関心事の一つだった。しかし、美空ひばりをモデルとしていると思われるアユミに、ひばりと「3人娘」で仲良しだった歌手・江利チエミ設定を加えてきたのは技アリだ。江利チエミもまた、笠置の歌マネをしていたし、何より父はバンド楽士のピアノ演奏家で、母親は東京少女歌劇団を経てスター女優となった谷崎歳子だった。しかも、母親は腎臓の病でチエミを産むときに医師に止められつつも、無理をおしてチエミを出産したことも、アユミの母・大和礼子(蒼井優)の難産→早逝の元ネタだったわけだ。
アユミはスズ子のファンだと言い、番組共演時に『ラッパと娘』を歌わせて欲しいと懇願する。スズ子は動揺し、羽鳥(草彅剛)に相談するが、羽鳥は、「君が歌ってこそ、あの歌は完成しているんだ。もっと大切にしてほしいね」と苛立ちを見せる。戦時中に音楽を制限され、静かな怒り・闘志を見せていた時とはまた異なる、悲しみや落胆・混乱・不安・怒りなどが入り混じった深い表情には、ゾクゾクする。それはスズ子と同様、自身も肌で感じる時代の変化、そして衰退の気配だった。改めて最終盤まで草彅の演技には痺れるばかりだ。
しかし、スズ子に加え、羽鳥までが迷うとき、頼もしいのはやっぱり茨田りつ子(菊地凛子)である。
りつ子は以前のスズ子ならアユミと並んで歌うことにワクワクしたはずだと言い、「何逃げてんのよ」とスズ子にハッパをかける。そこでスズ子は目を覚まし、ワクワクしてきたと言って、羽鳥の家に向かう。そのスズ子の思いに羽鳥も同意し、かくしてアユミとスズ子の新旧対決が実現するのだった。
史実では笠置は美空ひばりにも江利チエミにも、自分の歌を歌うことを禁じていた。しかし、本作はそうした因縁も、スズ子が若い力に刺激を受け、さらなる「ズキズキワクワク」を引き出す装置として組み込まれる。
強敵の出現にズキズキワクワクするスズ子は、SNSで「孫悟空」と言われていたが、こうした少年漫画的展開は『ブギウギ』の得意とするところだ。
それにしても、終盤の物語を転がす役割がだいたいゲス記者・鮫島(みのすけ)になろうとは、少々意外だった。スピンオフを作るなら、人気1位のりつ子様か、最下位の鮫島の物語になりそうなくらいだ。
いよいよ最終週。どんなズキズキワクワクを見せてくれるかに期待したい。