日本で4月からライドシェアが都市部の一部で始まります。以前は禁止されていましたが、コロナ禍を経てタクシー不足が深刻化していることが理由です。始めはタクシー会社が安全面や事故の補償を担保する形で導入し、将来的には更なる展開が期待されます。今回はライドシェアに詳しい、専修大学経済学部の中村吉明先生に詳しくお聞きしました。
※この記事は月刊誌『毎日が発見』2024年3月号に掲載の情報です。
自家用車を使って有料で乗客を送迎
「ライドシェア」とは、一般の人の自家用車に有料で乗せてもらうことで、タクシーのように目的地へ行くことができるサービスのことです。
これまでは「白タク」と言われ禁止されていましたが、4月から都市部の一部で、解禁されることが決まっています。
利用する際はスマートフォンのアプリで申し込みなどを行います。
便利な交通手段として世界各国で導入が進んできました。
ライドシェアに詳しい中村吉明先生は「日本でも10年ほど前からライドシェア導入についての議論は行われていましたが、すぐに必要ではなかったため立ち消えになっていました。ところがコロナ禍の外出制限で、需要が少なくなったタクシー運転手が退職によって激減。さらにコロナ禍が落ち着き外国人観光客の数も増加し、タクシーの需要と供給のバランスが崩れタクシー不足が深刻化してきました。そこで政府は議論を再開し、まずは4月から都市部の一部で解禁することになったのです」と、話します。
アメリカや中国のようにライドシェアが一般的な交通手段になっている国の多くでは、運転手は個人事業主として仲介業者のアプリに登録して活動しています。
「もし日本でいきなり同じ仕組みを導入するなら、安全面や事故が起きたときの補償について不安に思う利用者もいるでしょう。そのため、4月から始まる日本のライドシェアでは、まずはタクシー会社がライドシェアの運行を管理して、安全面や事故の補償などはタクシー会社が責任を負うことになっています」と、中村先生。
ただ、4月の一部解禁はさしあたっての施策のようです。
「今後は、まず4月に都市部の一部で解禁され、その2カ月後の6月から解禁後の状況を踏まえて再度政府で議論が交わされることになっています。4月以降の様子を見ながら、『都市部以外のどの地域で導入できるのか』『海外のようにタクシー会社以外の事業者の参入を許可できるのか』などの検討を進めていくものと見られます。解禁というよりは、『4月に実証実験が開始する』のほうが実態に近いですね」(中村先生)
4月から、国内のどこでライドシェアを利用できるのでしょうか。
「一部解禁される都市については、国が指定するわけではなく、基本的にはタクシーが不足する地域等で実施することになります」と、中村先生。
現時点では東京や神奈川などの一部都市が導入を検討しています。
どのような仕組み?
4月から都市部の一部で解禁されるライドシェアの大きな特徴の一つは、タクシーに必要な普通二種免許を持たない普通免許のみの運転手による自家用車に、タクシーのように乗車できるようになることです。ただ、海外のライドシェアとは違いがあるようです。
「アメリカや中国などの国では、ライドシェアのアプリで仲介するのはタクシー会社ではない別の仲介業者ですが、日本で4月から始まるライドシェアではタクシー会社がライドシェアの運行管理を行います。つまり、安全面の管理や事故の補償などについては、運転手個人ではなくタクシー会社が責任を負う形になります。ここが海外のライドシェアとの大きな違いになります」(中村先生)
料金は、タクシーと同程度。「まずは朝や夕のタクシーが不足する時間帯に限り、ライドシェアがそれを補う形の運行になります」と、中村先生は話しています。
都市部だけではなく地方にも広がっていく?
公共交通での移動が不便な地方でのライドシェアの解禁には、まだ時間がかかるのでしょうか。
「実は、そのような『公共交通空白地域』と呼ばれる場所の中では、以前からライドシェアのような制度の導入が可能になっています」と、中村先生。
すでに国内では、下記で紹介しているような事例があるそうです。
ライドシェアが今後国内で広がるために検討が必要なのは、主に下で紹介しているような点です。
検討を経て、うまく制度が導入されれば、日常の足として生活の利便性が高まるかもしれませんね。
地方ではライドシェアがすでに導入済み!?
鉄道やバス、タクシーなどの移動サービスが十分ではない国内の地方の一部では、実は以前から「自家用有償旅客運送」という、ライドシェアのような制度が導入されています。
「京都府の京丹後市でNPO法人が運営する『ささえ合い交通』などがよく知られています。まさにライドシェアのように配車アプリを使う仕組みなのですが、スマホが苦手な方でも利用しやすいように、配車アプリ操作の代行ボランティアがいたり、現金払いが可能だったりという工夫がされています」(中村先生)
ライドシェアは日本で定着していく?
(1)海外との違いは?
「ライドシェアが広がりを見せている海外の国の中には、そもそもタクシーへの信頼度が低いという国があります。そういう国では、タクシーの料金メーターを改造されて不当に高い料金を請求されたり、あるいはタクシー運転手を装った強盗による被害に遭ったり、ということが起こり得ます。そのため、スマートフォンのアプリを使用することで明朗会計となるライドシェアに人気が集まるのです」(中村先生)
このあたりの事情は、タクシーへの信頼度が高い日本とは異なるようです。
(2)乗客の安全・安心はどうなる?
ライドシェアの懸念点の一つとして、安全・安心をどのように保証するのか、という点が挙げられます。4月からの解禁時には、ライドシェアの自家用車はタクシー会社による運行管理が行われますが、いずれはライドシェアの運転手が安全面や事故の補償などの責任を個人で負う時代がやってくるかもしれません。そうなると、不安に感じる人もいるのではないでしょうか。
「ただこれは、仲介業者側がまとめて保険に加入するのか、運転手個人が個別に加入するのかについては議論が必要ですが、いずれにしろ保険に加入しなければライドシェアの運転手として活動できない仕組みを作ってしまえば、解決できる問題だと考えています」と、中村先生。
(3)料金は今後どのように変わる?
4月から始まるライドシェアでは、料金はタクシーでもライドシェアでも同一です。ならば、日本では「同じ料金ならタクシーに乗ったほうが安心」と考える人が多く、ライドシェアがあまり広がらない結果になるのではないでしょうか?
中村先生は「そのためにも、『ダイナミックプライシング』の導入が必要です」と指摘。
ダイナミックプライシングとは、利用者の多い時間帯では料金が高く、利用者が少ない時間帯では料金が安くなる料金制度です。「もし導入すれば、例えば利用者の多い雨の日にはライドシェアの運転手になりたがる人が増えるでしょうし、ライドシェアの運転手が増えればタクシーとの競争、あるいはライドシェア間での競争が促進され、料金が下がることにもつながっていきます。すると、ライドシェアもさらに広がりを見せるのではないでしょうか」(中村先生)
※この記事は2月6日時点の情報を基にしています。
構成・取材・文/仁井慎治 イラスト/やまだやすこ