【ブギウギ】脚本×演出がしっくりこない...? さまざまな思惑のなか、脚本家の強い思いを感じた「草彅剛のセリフ」

【先週】モデルの人生が濃厚すぎて...史実に基づく朝ドラの「難しさ」と、今週も光った「あの子」の演技

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「いろいろな人の思惑」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

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趣里主演の朝ドラ『ブギウギ』第24週「ものごっついええ子や」が放送された。

今週は、羽鳥善一(草彅剛)の作曲二千曲ビッグパーティーあり、愛子(このか)の8歳の誕生日パーティーと誘拐未遂事件あり、スズ子(趣里)の育児の悩み、母と子の確執ありと、盛りだくさんの内容だった。

羽鳥のパーティーでスズ子と茨田りつ子(菊地凛子)は歌と余興を頼まれるが、羽鳥をビックリさせたいと言うりつ子に、スズ子がラインダンスを提案。あのりつ子様がスズ子にドヤされながらも仏頂面で練習する姿は愛おしく、サプライズに楽しくなってダンスに乱入する羽鳥はいかにも天才&変人・羽鳥らしい。『ブギウギ』を支えるこの3人の安心感は今週も健在だ。

一方、8歳になった愛子のためにスズ子は誕生日パーティーを開いた。それは、愛子に友達を作るためだったが、実は愛子は有名人の子として学校でいじめられていた。そうした事情をスズ子に言えず、反抗的な態度をとる愛子と、愛子を溺愛し、心配するあまり、学校へ行け、友達を作れと言うスズ子との溝は深まるばかり。

そんな中、愛子に一(井上一輝)という唯一の友達ができたが、ある日、スズ子の家に3万円払わなければ愛子を誘拐するという電話がかかって来る。

翌朝、愛子に学校を休むように言うスズ子に、愛子は友達と遊ぶ約束があるから、どうしても学校に行きたいと反発。その後、男(水澤紳吾)から再び電話があり、マネージャーのタケシ(三浦りょう太)は高橋(内藤剛志)ら刑事が張り込む中、指定された場所に向かう。犯人はつかまった。しかし、その犯人は男手一つで息子を育ててきたが、病気で働けなくなったため犯行に及んだことがわかる。しかも、その息子は愛子が唯一友達になった一で、父親が逮捕され、一は親戚に預けられるため、転校することに。そうした事情を知ると、愛子は「マミーのせい」とスズ子に八つ当たりする。

しかし、スズ子が高橋に頼み、一を連れて来てもらったことで、愛子は一に約束を守れなかったことを謝り、「また会おね」と約束することができた。スズ子はその様子を見て、愛子が人を気遣うことのできる子に育っていると感じ、母と子の愛情を再確認する。

ところで、今週は史実に基づいた愛娘の誘拐未遂事件を軸にしつつ、いろいろな人の思惑が見える週でもあった。

各種記事で制作統括・福岡利武氏が語っているコメントによると、誘拐事件を書きたいと言ったのは脚本・足立紳氏だった。「容疑者の男がどんな思いで犯行に及んだのかをしっかり描きつつも、刑事役については全力で楽しもうと考え、浮かんだのが内藤さんでした」(ENCOUNT3月13日記事より)というコメントからは、「全力で楽しもうと考え」たのも、「浮かんだ」のが誰かもわからないが、おそらく内藤の起用は足立氏の意向というよりプロデューサーや演出家の意向が強かったに違いない。

また、唐突に「必ずホシをあげる」と内藤剛志が言い出しそうな民放刑事ドラマテイストが入ってくる"遊び心"(必ずしも良い意味ではない)も、シリアス展開の中の吉本新喜劇のようなドタバタ感も、おそらく足立氏というより、演出家の好みなのだろう。

と思ったら、今週は愛助が療養のため大阪に帰る前にスズ子と箱根旅行するくだりを、木陰からひょっこり顔を出すラブラブカップルの図や抱擁を思い出してデレるスズ子の回想で描いた二見大輔氏の演出だった。

逆に、スズ子の「砂糖漬けの育児」はモデルとなった笠置自身の溺愛育児がベースになっているものの、親の愛情ゆえの過干渉ぶりと、子離れの難しさと大切さはおそらく足立氏自身の思いによるものだろう。

子育ての中で母娘の確執が描かれるのは、窮屈な印象になりがちな、朝ドラの終盤あるある展開だ。しかし、自分の歌を人に楽しんでもらい、辛いことがあっても束の間忘れてもらいたいと思っていたが、犯人のような人を救えない無力感を覚えたというスズ子と、それを受けて言った以下の羽鳥の言葉にこそ、足立氏のエンタメに関わる者の苦しみや愛情が込められている気がする。

「こんな僕でもね、ときに思うことがあるよ。まずは自分が楽しいからやってるんだけども、もちろんたくさんの人に楽しんでもらいたいし、束の間でも日常から離れてもらいたい。でも、所詮は余裕のある人間が作って、余裕のある人間たちだけが楽しんでいるんじゃないか、そんな風に思ってしまうことが僕にもあるんだ」

ドラマチックすぎるほどの史実がベースにあり、脚本家の思いがあり、演出家やプロデューサーの狙いがあり、それらが別々の色味でしっくり混ざり合わないまま形になった印象の今週。個人的には足立脚本×二見演出はあまり相性が良くない気がしているが、各週で脚本×演出による明確なトーンの違いを楽しめるのも朝ドラならではなのかもしれない。

文/田幸和歌子

 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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