【ブギウギ】モデルの人生が濃厚すぎて...史実に基づく朝ドラの「難しさ」と、今週も光った「あの子」の演技

【先週】ちりとてちん、ゲゲゲ、らんまん...名作朝ドラにも見られた物語終盤の「重要な変化」に注目

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「盛りだくさんな一週間」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

【ブギウギ】モデルの人生が濃厚すぎて...史実に基づく朝ドラの「難しさ」と、今週も光った「あの子」の演技 pixta_91730904_M.jpg

趣里主演の朝ドラ『ブギウギ』第23週「マミーのマミーや」が放送された。

今週は、スズ子(趣里)のアメリカ公演、梅吉(柳葉敏郎)との別れ、実母・キヌ(中越典子)との再会と、様々なトピックが詰め込まれた盛り合わせセットのような週だった。

タケシ(三浦りょう太)がスズ子の新たなマネージャーとなって2カ月、家族のように馴染んできた頃、スズ子にアメリカ公演の話が舞い込む。羽鳥善一(草彅剛)は乗り気だが、スズ子は娘・愛子(小野美音)と4カ月も離れることを心配し、愛子も行かないでほしいと泣きじゃくる。

スズ子は悩んだ末、麻里(市川実和子)に相談。麻里に背中を押されて渡米を決意し、泣き叫ぶ愛子に、歌手としてもっともっと大きくなりたいのだと伝えて、思いを振り切るように家を出た。そこから4カ月のアメリカ公演は描かれず、あっさり帰国する。

このくだりは実に朝ドラらしい。

1つは今どきの朝ドラらしく、「親子の愛情」をしっかり描いた上で、同じ母親と言う立場の麻里から背中を押してもらったことで決意したというエクスキューズを立て、視聴者の反感を反らしている点。

もう1つはアメリカ公演を全く描かず、すっ飛ばす点。特に朝ドラは終盤になると、スケジュールが厳しくなる中、新たなセットを組む余裕などないため、ナレーションだけあるいは会話や電話だけなどで具体的な描写を省略するケースが多いだけに、このあっさりスルーは予想通り。

とはいえ、史実ではアメリカ公演直前にお金をマネージャーに使い込まれ、クビにし、美空ひばりに先にアメリカに行って自分の持ち歌を歌われそうになるという、当時の芸能界ならではのトラブルが凝縮されている箇所でもある。それだけに、当時の芸能界事情や人間関係のドロドロなどの密度の濃い物語を丸ごと捨ててしまったのはどうにももったいない印象がある。

そして、スズ子の出産時にも思い出されることがなく、存命か否かを多くの視聴者が気にしていた中、2月7日に唐突に再登場した梅吉が、再々登場する。

香川からの電報で、梅吉ががんを患い、危ない状態だと知ったスズ子は、愛子を連れて香川へ向かう。スズ子は叔父から、梅吉がいつもスズ子の自慢をしていたこと、梅吉が写真館を切り盛りし、繁盛していたことを聞く。

スズ子は最期のときが迫る梅吉の枕元で、自分が梅吉・ツヤ(水川あさみ)と血がつながっていないことを知っていたこと、それを言わずに育ててくれた二人への感謝を伝える。そして、梅吉も知らないふりをしてくれていたスズ子にありがとうと言い、「父ちゃんブギ」を歌い出す。

梅吉が亡くなり、葬儀で実母・キヌ(中越典子)と再会。「マミーの友達?」と聞く愛子にスズ子は「マミーのマミーや」。それを背中越しに聞いたキヌが涙を流すのだった。

なんとなく部分部分でふんわりした良い話に着地しがちだが、なぜ途中では梅吉の存在が丸ごと忘れ去られるなど、ブツ切りの物語になってしまうのか。そこには『ブギウギ』の難しさが象徴されているように思う。

なぜなら、モデルとなった笠置シヅ子の人生があまりに濃厚で、ドラマチックであるだけに、それを極力史実に忠実に盛り込もうとすると、ダイジェストで「あらすじ」を追うような、大味な展開になりがちなのだ。すると、タイ子(藤間爽子)など、親友だったはずなのに、途中で全く思い出されることもなかったオリジナルキャラクターが生まれてしまうこともある。

その一方、史実を忠実に再現すると、吉本興業、旧ジャニーズとの関係に触れなければならないため、ふんわりと美談に包み込む必要が出てくる。

なおかつ笠置シヅ子自伝を読むと、途中で父親が香川に帰った後は、その後全く登場しない。笠置自伝では、愛助(水上恒司)のモデルとなった吉本興業の御曹司・エイスケとの恋愛、出産、わが子への愛が後半のほとんどを占めるため、自伝をもとにプロットを考えていくと、父親が再登場する機会はなく、制作陣も途中でネットなどの声を拾い、「あ、そういえば梅吉」と思い出したのだろう。

濃厚な史実に加え、終盤に向けて思い出しておく、決着させておくべきオリジナルキャラやオリジナルエピソードがたくさんあるために、どうしてもブツ切りになってしまう『ブギウギ』。

そんな中、今週はひたすらに愛子の自然な演技と、リアルな描写が光っていた。

アメリカから帰った母にすぐに抱きつくのではなく、モジモジして戸惑いを見せたことも、病や死のニオイのする梅吉のところにいることを怖がり、外に行きたがることも、子どもの心情を深く理解し、繊細に描写している。

子どもの描写になると、途端にリアリティが増すのが『ブギウギ』の不思議。この繊細さがもう少し物語の他のパートにまで行き届いていたら、傑作になったのではないかと、勝手ながら悔しい思いになってしまうのだ。

文/田幸和歌子

 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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