【ブギウギ】娘の誕生、愛助の死。残酷すぎる運命を演じきった女優・趣里の「無言の演技」

【先週】気になる描写の「意図」を考察すると...朝ドラ視聴者を置き去りにしない「アレンジ力」がすごい

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「無言の演技」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

【ブギウギ】娘の誕生、愛助の死。残酷すぎる運命を演じきった女優・趣里の「無言の演技」 pixta_88252131_M.jpg

趣里主演のNHK連続テレビ小説(通称「朝ドラ」)『ブギウギ』の第18週「あんたと一緒に生きるで」が放送された。

前週からの流れを受けてのスズ子(趣里)の妊娠出産と、愛助(水上恒司)の病状がどうなるか。

結婚が認められない切なさ。療養のため大阪に戻った愛助とスズ子はお互いの手紙で気持ちを確かめ合う。しかし、便箋の手紙からハガキによる簡素なものになっていくことを気にするスズ子。日ごとに衰弱し、病状が落ち着いたら東京に行って観劇したいという望みもかなわない愛助。会うこともできず不安が募るスズ子に、病状はあまりかんばしくないと告白する山下(近藤芳正)。

「ボン(愛助)は、そんな姿を福来さんに見せたないんです」
山下の言葉に愛助の気持ち理解し、さらに麻里(市川実日子)との会話で心を落ち着かせる。

一方、歌手としてのスズ子には「ジャズカルメン」の開幕がせまる。医師の太鼓判をもらい「ジャズカルメン」の稽古を続けるが、ゴシップ記者にスクープされスズ子の妊娠は公の知るところとなる。人気歌手が未婚の母に、親は誰なのか、世間の耳目も集まるなか「ジャズカルメン」の幕が開く。

愛助を思う気持ちがスズ子の大きな支えとなり、開き直ったかのように明るく華やかなカルメンを演じきり、妊娠ゴシップなんのその、舞台は大盛況となる。

それにしても、ドラマ内で描かれるステージパフォーマンスは毎回見応え十分、今回の「ジャズカルメン」はさらに、もう一人の命が宿ったパフォーマンスとしてより一層の力を感じさせた。

そんな「ジャズカルメン」開演前の楽屋に、今回もまた唐突にヌッと現れ、
「お化けみたいな化粧してるくせに」
「妊婦がどんな踊りしてるのか見に来てあげたのよ」

憎まれ口をたたきながらもスズ子を気に掛ける見事なツンデレぶりをみせるりつ子(菊地凛子)。スズ子もこのやりとりでいつもの気持ちを取り戻すことができる。

りつ子のややコミック的なキャラクターの異質さは、コテコテで軽めのスズ子、そして周囲の人物の中でスパイスとして今回も効果的だ。そしてりつ子には実は10歳になる子供がいたという衝撃の告白が! 子供の父親は生まれる前に消えてしまったという。子供を母に預けてしまっていること、それが唯一の後ろめたさだとりつ子は語る。似た境遇を経験した先輩でもあった。今後もライバルであり最も理解し合える存在としてりつ子は重要な役柄となっていくのだろう。

そして、ついに陣痛が始まる。いよいよ出産である。重くなるシーンのためか、ある意味こういうときには"部外者"でありただ待つしかできない男性陣、坂口(黒田有)と山下の演技が大袈裟にあわてふためいたり、出産の報を受け激しく抱き合ったりなど、コミカルさが強調されているところは少々過剰な印象もある。

ともあれ、「ボンに教えたらな!」と喜びの電話をかける坂口。しかし、電話の途中で言葉は途切れるーー。

新しい生命が誕生するとともに、ひとつの生命が消えていった。愛助はこの世を去った。

愛助の死に、呆然としたままのスズ子の無言の表情、セリフ無しで気持ちが込められた演技は、きっと女優・趣里の代表作の代表シーンとして後に語られることだろう。

ようやく口を開くが、大切な人はみんな早くいなくなってしまうと嘆くスズ子。大和礼子(蒼井優)、弟の六郎(黒崎煌代)、そして育ての母・ツヤ(水川あさみ)......そして一番"大切な人"との別れ。「......ウチも死にたい」そう口にしたスズ子に山下は泣きながら叫ぶ。

「あんたは、ボンのぶんまで生きなあかんのです!」
次に死ぬといったら「どつきまっせ!」と訴える。

そんなスズ子は愛助が残した手紙を開く。そこには明るく微笑む最後となった思い出の湖畔旅行の二人の写真も同封されていた。

スズ子への感謝の思いが綴られていた手紙には、愛助の強い願いがこう書かれていた。
「つらいことがあったら歌ってください」

スズ子の「生」とは、ずっと歌うことだった。歌、そして新しくやってきた生命とともに生きていく。手紙には、赤ちゃんの名前の案が綴られていた。女の子だったら、愛にあふれた子になるようにとつけられた愛助の愛をもらい「愛子」にしてほしいと。

愛子に向かい、「あんたと一緒に生きるで!」、サブタイトルと同じセリフで決意を告げるスズ子。このセリフ通り、愛子と生きていくという意味ではあるが、週の中盤までは「あんた」は愛助を意味したものでもあった気がする。実際に愛子の出産と愛助の死はタイミング的には少し異なるが、ふたりの"愛"は入れ替わりに現れ去るという、ある意味「定番」的な演出でドラマチックに印象づけられた。

ここしばらくのストーリー展開は思ったよりもゆっくりとしたテンポ、言い方を変えればじっくりと愛助との離れ離れではあるが最後の時間が描かれたといえる。ここからまた新たに大きくストーリーが動きはじめる。次週のサブタイトルは「東京ブギウギ」。そう、ついにスズ子は代名詞ともなる「ブギ」の世界に、羽鳥とともにいよいよ飛び出していく。

文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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