【先週】2つの才能が出会い、衝突し、共鳴する...ヒロインと羽鳥(草彅剛)のセッションにワクワクが止まらない!
毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「違和感の正体」について。あなたはどのように観ましたか?
※本記事にはネタバレが含まれています。
足立紳・櫻井剛脚本×趣里主演のNHK連続テレビ小説(通称「朝ドラ」)『ブギウギ』の第7週「義理と恋とワテ」が放送された。
今週はスズ子と(趣里)と秋山(伊原六花)の恋とそれぞれの進路が描かれる。
梅丸楽劇団の旗揚げから1年、人気者となったスズ子と秋山のもとにUSKの林部長(橋本じゅん)が訪れ、どちらか一方が大阪に戻って欲しいと懇願される。しかし、秋山はダンサーの中山(小栗基裕)と良い仲になっており、スズ子は作曲家・羽鳥善一(草彅剛)から作詞家・藤村薫(宮本亞門)を紹介され、新曲作りが進んでいた。
そんな中、スズ子は恋心を抱いている松永大星(新納慎也)に内緒の話があると呼び出される。その話は梅丸のライバル・日宝に一緒に移籍しないかという引き抜きだった。日宝が提示した条件は、梅丸の給料1.5倍。しかし、スズ子の引き抜きの話を聞いた羽鳥は、大反対。一方、秋山は中山にプロポーズされるが、中山に娘役への転向を勧められ、そうすればもっともっと輝けるはずだと言われ、違和感を抱く。
スズ子の引き抜き話は梅丸に伝わってしまい、大熊社長(升毅)が激怒、辛島部長(安井順平)に責められ、スズ子はそこで自分が大変なことをしてしまったことを悟る。日宝の交渉が進まないよう軟禁されたスズ子は、辛島の目を盗んで抜け出し、松永に会いに行く。そこで自分の思いを伝えるが、松永にはアメリカに残してきたパートナーがいると知り、失恋。
ひとしきり泣いて帰宅すると、羽鳥と藤村が新曲作りに励んでいた。音楽に夢中の2人を見るうち、顔がほころぶスズ子。2人から新曲「センチメンタル・ダイナ」が披露されるが、自分には歌う資格がないとスズ子は言う。そこから日宝の引き抜き話を断ったスズ子は、辛島部長に謝罪。羽鳥のとりなしもあって、引き続き梅丸で活動することに。一方、中山からのプロポーズを断った秋山は、大阪へ戻る。
正直、かねてよりスズ子の恋心の理由がわからないというのは、SNSで多くの視聴者が指摘してきたことだった。秋山が中山との愛を育む間、スズ子は「おでこにチュー」のみで進展はなし。いかにも恋に奥手で鈍感な朝ドラヒロインらしいが、「はい、チョコレート、あーん」の餌付けとデコチュー+少しのアドバイスで、いつ恋に落ちたのか。それすらわかっていないのが、スズ子の恋の未熟さなのだろうが......。
加えて、松永はUSKにいたスズ子と秋山を「発掘」した以外、「チョコレート、あーん」とお茶を飲むシーンくらいしかないため、日頃何の仕事をしている人なのかわからない。SNSや様々な記事で文字情報を追いかけている人はともかく、ドラマ単体で情報を摂取している視聴者にとっては、作曲家・羽鳥が演出家も兼ねているように見え、松永が演出家だと知らない人もいるのではないか。
一方、秋山の方は、恋心と、自分のやりたいこと・自分自身の尊厳とを天秤にかけ、後者を自分自身が選び取るという、ストレートで現代的なメッセージを込められたわかりやすい物語になっていた。おそらく秋山の恋物語の方に共感する視聴者は多かったことだろう。
また、今週一部視聴者をモヤモヤさせたのが、母・ツヤ(水川あさみ)の病状と共に、スズ子が仕送りをしているのか否かというお金の問題が描かれていないこと。
なぜ仕送りの描写を1コマでも入れなかったのか。
仕送りはしているはずだし(史実では仕送りしていた)、大阪にいた頃は給料を家に入れていたわけだし、母が病院に行かず、富くじを父が買っているという話を弟の手紙で知ったくだりも、母親がスズ子から届く封書を大事そうに箱だか缶だかにしまう程度の1カットをさりげなくはさむだけで「あれが仕送りだったのかな」くらいには想像できることだろう。そして、仕送りしていてもなお、ご近所の「熱々さん」では手に負えない病気を患うと、この時代には検査や手術を必要とする医療費が高額過ぎたとか、何かしらの事情はあるのだろうが。
そして、この問題には、おそらくスズ子が引き抜きをきっかけに、自分自身の「価値」を知るまでは会社側に薄給で搾取されていたという背景があるのではないか。
最初は、今週のサブタイトルにある「義理」は、スズ子が感じるべき「義理と人情」という温かい意味だと思っていた。しかし、実はWミーニングとして雇用側が「育ててやった」という「義理」で縛り、搾取し続けるエンターテインメントの闇を指してもいたのだろうか。何しろ「育ててもらった恩義」に縛られ、自分の価値に気づかない・気づいていても主張できないタレントは多く、正当な要求をしたとたんに途端に攻撃される、冷遇される、干されるというのは、現代でもよくあること。
もし、これらお金の問題があえての説明不足だとしたら、『ブギウギ』は輝かしいエンタメの裏テーマとして、現代まで続くエンタメの様々な問題を描く意欲的なドラマに見えてくる。