孤独は、恋の終わりの総仕上げ
「私自身、彼のことを嫌いになったわけじゃないし、彼もすごく引き止めたから、なかなか気持ちの整理もつかなくて。やはりすんなりとはいかず、半年ぐらいは揉めました。15年以上も付き合って来たんですから仕方ないですよね」
男には意地という名の未練が残り、女には愛の残像としての情が残る。
「でも、話し合いを重ねて、最終的にはお互い納得して、お別れすることができました。そのことに後悔はありません。むしろ、いい経験をさせてもらったと彼には感謝しています」
恋愛の価値は別れ方で決まる。着地に失敗すれば、共に過ごして来たすべての時間が台無しになってしまう。
彼が大人の決断を下してくれてよかった。
今、あなたはどんな気持ちでいる?
「まだひとりに慣れないっていうか。今までみたいに彼の存在が常にあって、そのためのスケジュールを組む必要もなくなって、自由だなって思うんですけど、自由って孤独と背中合わせなんですね」
それでいいのである。孤独は、恋の終わりの総仕上げである。
「彼に一生懸命でしたから長かったという感覚はないんですけど、確実に年は取りました。鏡を見ると、私もすっかり老けちゃったなって」
43歳。まだまだ老ける年ではない。平均寿命の半分しか生きていない。
「そうですね、逆算したらまだすごく時間はあるんですよね。これから前を向いて生きて行こうと思います。もちろん新たな恋愛も含めて」
最後、彼女はようやく笑みを浮かべた。
*
どんな恋愛も、「別れの理由」はひとつに行き着く
彼女の恋愛を「所詮は不倫でしょ、まるで純愛みたいに語らないで」と切り捨てる人もいるだろう。「女としていちばんいい時期を、そんなおじさんのために無駄にしてもったいない」と残念がる人もいるだろう。「たとえ不倫でも、人生でそこまで愛せる人に出会えたのは素晴らしい経験だと思う」と評する人もいるかもしれない。
何事においても側面があるのである。
同時に、今手にしている幸福も、嘆いている不幸も、ずっと同じ姿ではいられない。いつでも、いくらでも、時に残酷なほど、姿を変えてゆく。
彼女自身、あれほど好きだった男に別れを告げる時が来るなど、想像してもいなかったに違いない。しかし、それはやって来た。
そのきっかけが、立場が逆転したところにあるというのが、何だか妙に切ない。
同時に、彼女は別れの理由を、信用をなくすのが怖かったから、というふうに言っていたが、私にはどうにも綺麗事に聞こえてしまう。
結局のところはこうではないのか。
長い間、すがりついていたのは彼女の方だった。彼のことが好きでどうしても離れられなかった。その関係性がこの恋愛のバランスを保っていた。ところが思いがけず彼の方からすがってくるようになり、そんな彼に今まで感じなかった老いを見たことで、これから先、更に老いてゆく彼の姿というものがリアルに想像できて、別れることを選んだ......。