「プライベートでも仕事でも、あんなにかっこよかった彼も、やはり年齢って人を変えるんだなって思いました」
がっかりした?
「いえ、それはなかったですけど」
実際、彼は言葉通り、あなたと人生をやり直すつもりになったのだろうか。つまり妻と別れて、あなたと一緒になると。
「一緒になりたいとは言っていましたけど、その頃、彼のお父さんの病気が発覚して、奥さんの勤める病院に入院したんです。介護のことなんかもあったようで、やはりそれはできないことだとわかっていたと思います」
恋や愛だけでは測れない現実
自分たちも年をとるが、親も老いてゆく。
恋や愛だけでは測れない現実が押し寄せてくる。
「その時はそれがきっかけとは思っていなかったんですけど、今思えば、そうだったのかもしれません。実はその頃、別れを意識することがあったんです」
ぜひ、聞かせて。
「私が付き合い始めた時の彼と同い年の40歳になった時、事務所にあの時の私と同じ26歳の女の子が入って来たんです。その子を見たらあまりに若くて、びっくりしてしまいました。あの頃、自分はもう大人だと思っていましたけど、そうじゃなかったんだなって、ふと思ったんです」
時間は、過ぎてからこそ重みがわかる。
「その時、もういいのかなって。もう十分じゃないかなって気がしました」
愛という多面体の中の、別の面が見えてしまったのね。
「そんな時、何気なくテレビを観ていたら、ワイドショーが芸能人の不倫を取り上げていたんです。その俳優は莫大な金額を慰謝料として請求されていました。もちろん、妻は不倫相手にも慰謝料を請求できることは知っていましたけど、自分には関係ないように思っていました。だって彼の家庭を壊そうなんて全く思っていなかったから。でも、その時、自分も訴えられてもおかしくないってことに気づいたんです。遅すぎますよね」
確かに遅すぎる。彼女は彼の妻にとって、民事的にまごうかたなき加害者である。15年に及ぶ不倫となれば、かなりの慰謝料を請求される可能性がある。
「それだけじゃないんです。テレビの向こうで、その俳優はうなだれて言ってました。失ったのはお金だけじゃない、周りの信頼も、築き上げて来た仕事もすべて失ったって。それを聞いて、居ても立っても居られない気持ちになりました。弁理士は信用が最も大切な仕事です。万が一バレたら、私もすべてを失うかもしれないって」
現実が迫ったわけだ。
「はい、そういうことです。それで別れを決心しました」
しかし、そこまで長く付き合った彼と、うまく別れられるのだろうか。