【らんまん】残り2週、主人公の冒険はどこへ...奪われる植物への「憂い」と覚悟の「決別宣言」

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「主人公の最後の冒険」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

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長田育恵作・神木隆之介主演のNHK連続テレビ小説『らんまん』の第24週「ツチトリモチ」が放送された。

万太郎(神木)のところどころの白髪と、顔に浮かぶシミは、加齢に加え、植物採集で地べたを歩く日々の暮らしを感じさせる。回想シーンでは、溌剌とした表情・溢れ出すエネルギーを全身から漂わせており、その鮮やかな対比によって、槙野万太郎という人の人生、『らんまん』という物語がいよいよ最終段階に来ていることを嫌でも思い知らされる。

日本全国の植物を載せた図鑑が完成しようとする中、万太郎は版元が見つからず、図鑑が本当に人々から必要とされているのかどうか、自分をずっと信じ、支え続けてくれた寿恵子(浜辺美波)や助手・虎鉄(濱田龍臣)の思いに応えられるのかどうか、不安な思いに駆られていた。

寿恵子の店は繁盛し、竹雄(志尊淳)と綾(佐久間由衣)の屋台も5年が経過。ある日、農家大学教授の波多野(前原滉)のもとで酒の研究をする藤丸(前原瑞樹)がやって来る。

外国では、アルコールの発酵が清酒酵母によるものだと発表されており、農科大学にも醸造の教授が誕生するという。女が蔵に入ると酒が腐ると言われ、悔し涙を流した綾が、「科学」によって救われた。まるで冤罪が晴れたかのようで、いかに文明・学問が重要であるかを感じさせられる展開である。

一方、万太郎のもとには、南方熊楠という人物から、「新種在中」として学名まで自分でつけた標本が送られてくる。それは新種ではなかったが、「熱がうずまいちゅうのぉ」とワクワクした表情でつぶやく万太郎は、相変わらずで、同士を見つけたかのよう。

その標本の中には、120年周期で開花するハチクの花があった。120年に1度開花した後、竹林が一斉に枯れ、新しい竹林が再生する。「人の世に異変が起こるとき」と言われているとも言う。そして翌年2月には、日露戦争が勃発。渋谷の町に大練兵場が作られ、交通の要所となって賑わう中、寿恵子は大きな木の切り株に不安げに視線を落とす。戦争がもたらす繁栄と、破壊されるモノとの対比がわずかなカットで表現される見事な演出だ。

そんな中、植物学教室にも熊楠からの手紙が届く。万太郎も受け取っていると知ると、徳永(田中哲司)が深入りするなと釘を刺す。熊楠は神社合祀令で森の木が伐採されることで反対運動を進めていたが、大学は国には逆らえない。実は徳永はこれまでも何かと目立ち、批判にさらされる万太郎を庇って来たが、「これ以上は庇えない」と苦悩を見せる。

しかし、同じ頃、野宮(亀田佳明)から手紙が届く。野宮は熊楠と共同研究することを決めており、神社合祀令で森が全滅することを憂いて、その思いを万太郎に託そうとしていた。森の伐採が進み、反対運動も盛り上がる令和の現実ともリンクする展開である。

そんな中、寿恵子の店に、土佐出身という人物が訪れる。寿恵子にとっては初対面で、万太郎にとっては懐かしの人物を結び付けたのは、土佐のヤマモモ、つまみをどっさり一皿に盛った土佐の「皿鉢料理」。そして、寿恵子が夫について語った「雑草という植物はない。どんな植物にも名前がある。人がその名を知らないだけ」の言葉だ。

その人物は、かつて自由民権運動をしていて、万太郎を救った早川逸馬(宮野真守)だった。逸馬は万太郎が草花を追いかけ続け、図鑑を発売しようとしていることを知ると、資産家・永守徹(中川大志)を紹介する。

永守は叔父の莫大な資産を相続しており、この国を文明国にしたがっていた叔父の遺志を継ぎたいとして、万太郎の図鑑に出版社、標本に博物館を提供したいと申し出る。陸軍に行くため、それを「生きた証」にしたいという永守に、万太郎は感謝を伝えつつ、無事の戻りを待つ間、準備を進めると「先を照らす約束」で永守を送る。

一方、藤丸と竹雄、綾は新しく酒を造るために沼津に移住することに。波多野がうさぎ柄の手ぬぐいで作った巾着を餞別として藤丸に渡すと、藤丸は「ヘタだなぁ。語学の天才なのに。農科大学の教授様なのに。ヘタだなぁ」と嬉しそうに何度も言い、笑い合う。

みんなが旅立つ中、万太郎はある決意をしていた。万太郎は和歌山の神社で採集してきた神社の守り神「ツチトリモチ」と、書き取って来た神社の植物全部を大学に提出するという。神社合祀で森が伐採されつことで奪われる植物の名を全て伝え、失われるモノの大きさ・重さを伝えようとする万太郎。これは植物学教室との決別宣言でもあった。

その思いを聞いた竹雄は「いくつになっても子どもっぽうて」と呆れつつ、言う。
「そんでも金色の道を貫くためながじゃがろ」「いつでも強さと優しさが本気じゃった、そんな若じゃき、わしは愛したがじゃ」

最後の冒険について万太郎が伝えた相手が、最初の助手で、幼馴染で、万太郎の最大の理解者・竹雄というところも心憎い。

いよいよ残り2週。万太郎の最後の冒険はどこに着地するのか。

文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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