【らんまん】藤丸の物語から見えた主人公の「共感力」。天才学者・万太郎が「孤独」にならない理由

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「主人公の超人ぶり」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

【先週】「天才」な主人公を取り巻く様々な思い...「描く部分」と「描かない部分」の絶妙な塩梅に感嘆

【らんまん】藤丸の物語から見えた主人公の「共感力」。天才学者・万太郎が「孤独」にならない理由 pixta_83878873_M.jpg

長田育恵作・神木隆之介主演のNHK連続テレビ小説『らんまん』の第16週「コオロギラン」が放送された。

東京編の万太郎(神木)の友で、視聴者の癒しになってきた波多野(前原滉)&藤丸(前原瑞樹)のW前原コンビ。そんな2人が、万太郎と大窪(今野浩喜)が新種「ヤマトグサ」を植物学雑誌で発表したこと、田邊教授(要潤)が留学中の伊藤孝光(落合モトキ)にトガクシソウの命名権争いで敗れたことを機に、厳しさが加速する植物学の道で袂を分かつ展開になる。

学者の世界の厳しさに心が折れそうになった藤丸は、万太郎に会いに長屋を訪れ、丈之助(山脇辰哉)やゆう(山谷花純)らと話をする中、「息の仕方もわからなくなる」と苦しい心情を吐露する。微妙に会話泥棒的な丈之助も、自身の体験と重ね合わせて熱い説教をぶちかますゆうも、良い具合に"井戸端"感がある。この井戸端を心地良く感じるか、それとも万太郎に相談に来たのに、長屋の人々に聞かれ、アドバイスされることをしんどく感じるかは、人それぞれ。

実は学者の世界の厳しさを目の当たりにした波多野と藤丸のスタンスの違いは、心の強さというより、価値観の違いやコミュニケーションの違い、脳の構造の違いによるものという気がする。

ウサギに癒しを求め、牛鍋屋でワイワイしていたのが楽しかった藤丸にとって、生き馬の目を抜くような厳しい学者の世界は馴染めないものがあるのだろう。だからこそ、年齢も性別もごった煮で共通点のない長屋の井戸端トークにしっくり馴染み、「苦しい」「助けて」を言語化できる強さが藤丸にはある。

そんな藤丸の苦悩を聞いた万太郎は、大学を離れ、自分の「特性」を見つけるように言う。そして、誰とも競い合わなくて済む、人とカブらない、「最初の一人」になる道を見つけることを勧めるのだ。途轍もないことをサラリと言う万太郎の超人ぶりは、あまりに突き抜けていて、相手に劣等感を与えるよりも、一歩踏み出すために必要な根拠のない自信やエネルギーを与えてくれる気がする。そこで藤丸は休学し、植物採集をする槙野万太郎を観察することを決意する。

一方、藤丸が去った「戦場」で生きることを選んだ波多野は、寂しい思いを抱えつつも、新たに「戦友」を得る。それは、万太郎のように精密な植物画を描くよう田邊にムチャブリされた画工・野宮(亀田佳明)だ。例えば受粉のように、肉眼では見えないけれど、命をつかさどる仕組み・命の源を見たいと考える波多野は、苦悩する野宮に、顕微鏡を教えるから、自分の「手」になって描いて欲しいと提案する。それは、肉眼で見えない世界、万太郎にも見ることのできない世界だ。

自分の一生を懸けても見たいという波多野と、そのロマンに共鳴する野宮のタッグがここで誕生する。それぞれに異なる葛藤や苦悩を抱えつつも、それぞれの「特性」を生かして共通の目標に歩み始めた二人。同じ「目的」を持つことで成立するコミュニケーション・関係性である。

言ってみれば、藤丸のコミュニケーションが「共感型」だとしたら、波多野や植物学教室の多くの面々は「問題解決型」に見える。波多野には長屋の人々の前で悩みを吐露することはできない気がするし、藤丸には野宮と手を組み、共闘するという発想は出ないだろう。

そして、そのあたりのバランスが奇跡的に優れているのがハイブリッド型の万太郎かもしれない。万太郎は藤丸の苦しみを本人の口から聞くまで考えてみたこともなかった。おそらく厳しい競争の世界は、万太郎にとってはワクワクするものだろう。なんなら、田邊教授の不運に胸を痛めつつも、本音では海外に行ってまで自分の名で発表する植物の命名への執着を見せる伊藤に共感できる部分もある気がする。

本来たった一人で独自の道をまっしぐらに突き進む「問題解決型」の万太郎が「共感力」「対話力」を得たのは、これまで出会って来た人々により育まれていった経験則によるところではないか。

寿恵子(浜辺美波)の妊娠~出産の経過を、植物採集の旅先から子の名前を考えて送る丁寧な植物画を添えた手紙と共に描く一方で、価値観の違いやコミュニケーションの違いなどをビジネス的な側面から描いて見せた今週。

万太郎の植物採集のパートナーが妊娠・出産で離脱する間、それを補う存在の登場を、藤丸の物語を柱にして描く、技巧に優れた週だった。

文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

PAGE TOP