【ちむどんどん】これこそ現実? 比嘉家の「幸せを諦めない」裏にある"他者の根負け"

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「幸せを諦めない比嘉家」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

【前回】母の過去を知り...ここからが本編スタート!? 15週目で繋がった第2話の「涙」

【ちむどんどん】これこそ現実? 比嘉家の「幸せを諦めない」裏にある"他者の根負け" pixta_88154337_S.jpg

本土復帰前の沖縄本島・やんばる地域で生まれ育ったヒロインと家族の50年間の歩みを描くNHK連続テレビ小説『ちむどんどん』第16週。

今週のテーマは「諦めない」。

暢子(黒島結菜)と和彦(宮沢氷魚)は結婚の約束をするが、和彦の母・重子(鈴木保奈美)から「住む世界が違う」という理由で結婚を認めないと言われる。

それでも暢子は諦めず、鶴見のあまゆに招き、手料理を食べてもらおうとしたり、毎日手作りの弁当を届け続けたりする。

同じ頃、沖縄では良子(川口春奈)が仕事を続けながらも石川家の嫁として認められるまで諦めないと言う。

歌子(上白石萌歌)もまた、三線を習い始めるが、上手く弾けず、周りの順番を待たせ、迷惑をかけるが、それでも諦めない。

比嘉家の人々のすごいところは、自分が「幸せを諦めない」ために、他者が根負けし、諦めてくれることで、結果的にその要求が通るところ。

今回は暢子が和彦にも諦めないでと言い、母に手紙を書くことを提案。

その手紙を読んだことで重子が涙し、とうとう暢子の弁当を食べる。

一方、優柔不断な博夫(山田裕貴)も珍しく諦めず、熱心に親類に訴え、良子が嫁として認められることに。

どちらも頼りないパートナーが頑張ったことは良いことだが、そもそも周りに合わせたり、他者の気持ちを汲んだりしていては、幸せなんてつかめないというシビアな現実を突きつけているのだろうか。

そんな中、いつでもすぐに働くことを諦めるのが賢秀(竜星涼)だ。

妹の結婚の御祝儀を捻出するため、ギャンブルするのは平常運転だが、驚いたのは、重子のために作った暢子の料理を食べてしまったこと。

「ニーニー、食べないで!」と暢子やあまゆの人々に必死で止められながらも、料理に食らいつく賢秀の姿を見るうち、子ども時代、優子(仲間由紀恵)が苦労して運動会のために入手してくれた賢秀の体操服と良子の運動靴を、賢秀が豚小屋に置き忘れたことで、アベベがズタボロにしてしまった事件がふと蘇る。

周囲の制止もお構いなしで料理を貪り食う賢秀は、動物のよう。

もしかして何もわからず目の前にあるからという理由で、夢中で服や靴で遊んだアベベの魂が、賢秀に取り憑いていないだろうか。

もう一つ、「諦めない」の裏テーマに思えたのが「自尊心」だ。

暢子にフラレて、誰とも顔を合わせたくなかったという智(前田公輝)は、歌子に会いに行き、それを話す。

自尊心を傷つけられた智は、無意識にしろ、自分を常に受け入れてくれる歌子に癒しを求めたはすだ。

また、和彦と暢子では、家柄と学歴が釣り合わないと言う重子のこだわりも、自尊心からに見える。

なぜなら、重子は亡き夫(戸次重幸)について「愛情なんてなかった。最初から最後まで。あの人は私のことを世間知らずの女だと見下していた。ろくに電車にも乗れず、物の値段も知らず、家事もできない女だとバカにしてた」と語っていたから。

世間知らずのお嬢様の重子の場合、おそらく自尊心の源が家柄や教養だったのだろう。

それを見下す夫と、子育てに全力を注いできた自分の生き方を全否定する息子と......。

お手伝いの波子(円城寺あや)に「和彦は良い子だった?」と尋ねたのは、おそらく自身の「作品」を肯定して欲しいから。

しかし、「愛情かけて世話をして、自分の命より大切だと思って尽くしても、大人になるところっと忘れる」「母親なんて虚しい人生ね」とこぼすが、家事の大部分はお手伝いの波子が担ってきたはず。

とはいえ、重子の良いところは「おそばにいたから充実した人生になった」と波子に言われると、すぐに「ごめんなさい、どうかしてました」と謝ることができること。

様々な人のエゴやプライドがぶつかり合う16週だった。

文/田幸和歌子

 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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