トランプ大統領「再選の可能性」って...? 大人女性が知っておきたい「アメリカ大統領選挙」の争点

いよいよ近づいてきた、アメリカの大統領選挙。私たち大人女性も、選挙の争点や、二人の候補の考え方の違いをわかりやすく知っておきたい...、ということで、早稲田大学社会科学部教授の中林美恵子(なかばやし・みえこ)先生にお聞きしました。

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アメリカ大統領選挙の争点はどこにあるのでしょうか?

今年の11月3日に行われるアメリカ大統領選が、すぐそこまで近づいてきています。

共和党からは2期目を目指して再選を狙う現職のドナルド・トランプ大統領、民主党からは前副大統領のジョー・バイデン氏がそれぞれ大統領候補となり、下の図の流れに沿って大統領選を戦います。


アメリカ大統領選の流れと両候補の経歴

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ポイント
アメリカ大統領選は、全米50州と首都に振り分けられた、大統領を選ぶ権限を持つ「選挙人」による間接選挙。「選挙人」はあらかじめどの大統領候補に投票するか誓約していて、一般の有権者は11月3日に行われる一般投票で、この「選挙人」を選ぶ。そのため事実上、一般投票で大統領選の雌雄が決する。

共和党大統領候補:ドナルド・トランプ大統領

1946年生まれ。家業の不動産業を継ぎ、事業を拡大した後、2016年のアメリカ大統領選に進出。共和党大統領候補として民主党のヒラリー・クリントン大統領候補を破り、第45代大統領に就任した。

民主党大統領候補:ジョー・バイデン前副大統領

1942年生まれ。米国上院議員として30年以上活躍した、民主党の「重鎮」。2004年、08年に2度アメリカ大統領選に挑戦するも撤退。09年から8年間、バラク・オバマ前大統領の民主党政権下で副大統領を務めた。


今年の初めごろまではアメリカの景気も好調で、トランプ大統領の再選はほぼ確実視されていました。

しかし、「この2月から全世界に広がった新型コロナウイルス感染症以降潮目が変わり、いまでは支持率がバイデン氏を下回ります」と、中林先生は指摘します。

その理由は、コロナ対策でのトランプ政権の失策です。

アメリカでは、7月30日の時点で死者は15万人以上。

これはベトナム戦争での米軍兵士の死者の倍以上もの数字です。

ただ、コロナが猛威を振るい始めた3月に、トランプ大統領が国家非常事態宣言を出し、自らを「戦時下の大統領」と定義付けた際は、支持率は上昇したのです。

アメリカでは伝統的に、戦う姿勢を見せることは支持につながります。

湾岸戦争やイラク戦争のときも同様でした。

その効果を狙ったとみられます。

「ところが、その後がよくありませんでした。『消毒薬を注射する研究をしてはどうか』というような根拠に欠ける発言を行い、感染を食い止めることができなかったのです」と、中林先生。

バイデン氏はこの失策を徹底的に批判して、大統領選を優位に進めています。

コロナ対策も含め、上の3点がいまアメリカ国民の関心事として、大統領選の争点になっています。

この5月にミネソタ州で起こった、白人警官が黒人男性を不適切に拘束して死亡させた事件を発端とした人種差別問題を除いては、景気や雇用の悪化などもコロナを起因とする問題です。

コロナ対策を失敗したと国民から見なされているトランプ政権に逆風が吹くのもやむなし、という状況ですが、「ただこの先、万が一コロナの拡大が収まり、選挙当日まで再流行しない、というようなことがあれば、トランプ大統領の支持率が回復していくことも考えられます」と、中林先生。

一方、日本にとっては中国に対する政策がどのように変わるのか、という点も関心が強いでしょう。

「トランプ大統領が勝った場合は、これまで同様表面的に過激なものになり、貿易交渉でも右往左往させられるでしょう」と、中林先生。

一方バイデン氏は中国に融和的ともいわれますが、覇権争いや人権問題などもあり、米中対立は簡単には解消されないとみられます。

「ただ、今回注目すべきはそこではありません」と、中林先生。

「私たちにとって大切なのは、米国内の景気対策です」。

アメリカの景気の冷え込みは、輸出産業など日本の景気にも影響するからです。

「日本では多くの企業が中国に営業拠点や工場を置いていて、経済的には中国との関係は後戻りできないところまで来ています。

いずれの陣営が勝とうが、日本にとって中国との関係が劇的に変わることは考えにくい。

それよりも今回の大統領選では、米国内の景気対策が日本国内の景気に直に影響する問題になるでしょう」(中林先生)一般投票まで残り約2カ月。

どちらが勝つのか、日本にとっても大きな問題です。

アメリカ大統領選の争点と両候補の考え

【トランプ大統領】

①景気、雇用問題について

景気回復が最優先!
経済が回らなければ、雇用も回復しない。法人税を引き下げるなどの手はすでに打った。企業による経済活動の再活性化を急ぎ、景気の回復を最優先で解決しなければならない。

②新型コロナウイルス感染症対策について

今後は経済優先で!
すでに十分な検査は行っていて、これ以上できる対策はほぼ見当たらない。感染拡大時にいったん経済を止めてしまったのが失敗だったので、これからは経済政策を優先すべき。

③人種差別問題について

白人層の支持を強固に!
人種差別問題について議論しても、結局黒人の票は共和党には流れてこない。それよりも、共和党と自分の支持基盤である白人の票を守りながら上乗せの票を獲得していく。

【バイデン氏】

①景気、雇用問題について

雇用回復が最優先!
企業の活動再開よりも、労働者の生活を優先して守っていかなければならない。そのためには国家が財政資金を投入することも必要だし、それによる財政赤字を恐れてはいけない。

②新型コロナウイルス感染症対策について

経済活動再開には慎重!
コロナが拡大したのはトランプ政権の失策。この状況下での経済活動の再開には慎重にならなければならない。企業を助ける前に、雇用されている労働者やその健康を守るべき。

③人種差別問題について

人種差別は是正すべき!
アメリカの人種や性差別の状況は正していかなければならない。副大統領には女性を、と考えている。米国内の黒人の9割は民主党支持といわれている。その票をつかみたい。

※この記事は8月4日時点の情報を基にしています。

取材・文/仁井慎治

 

<教えてくれた人>
早稲田大学社会科学部教授
中林美恵子(なかばやし・みえこ)先生
埼玉県出身。大阪大学大学院国際公共政策研究科博士後期課程修了。1992年に米国永住権を得て、米国で国家公務員として連邦議会上院予算委員会で約10年間勤務。帰国後、衆議院議員などを経て、現職。

この記事は『毎日が発見』2020年9月号に掲載の情報です。

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