新型コロナウイルスに便乗するものも出てくるなど、進化し続ける「詐欺」の手口。そんな詐欺や悪徳商法に詳しいルポライター・多田文明さんの著書『だまされた!「だましのプロ」の心理戦術を見抜く本』(方丈社)から、現代の詐欺から身を守る方法を抜粋してお届けします。
「芸能人の死」に便乗する卑劣な詐欺メールの舞台ウラ
もし今も「取られるお金なんてないから、だまされることはない」と思っていれば、まちがいなくカモられる。
おそらくみなさんのところにさまざまな迷惑メールがやって来て、日々削除の処理をするのに困っているに違いない。
とくに「遺産として1億円を差し上げます」といった「お金をあなたにあげますよ」というメールが多い。
私のもとに「夜分すみません。肺ガンになりました(ステージ4)」というタイトルでメールが来た。
〈突然の発表となりますが、私、肺がんになってしまいました。「ステージ4まで進行している」と告知されました。5年後の生存率はわずか4.3%との事です。まだ、生きる事を諦めてはいません〉
深刻な言葉がつづられていた。
ただし、後半はいつもの文面であった。
〈しかし、万が一を考え、このたび『10億円の現預金』の大部分を希望される方に財産分与する決意をいたしました。受け取りを希望される方は、今すぐ以下よりエントリーしてください〉
財産分与のエントリーなどと言って、悪質な出会い系サイトに登録させようとする手段だ。
実はちょうどこのころ、歌舞伎役者の市川海老蔵さんの妻、小林麻央さんの乳がんによる闘病生活が話題となり、その後、死去のニュースが流れた。
それに便乗した悪質なメールである。
私はこれまでに、この手のメールの誘いにたびたび乗ってみている。
相手に「お金が欲しい」と連絡を取ると、「現金を受け取るには、まず手数料を払ってください」と言われる。
それで1万円ほどをサイトでのポイント購入の形で払うも、後日連絡があり、「あなたはお金を受け取る審査に落ちました」などと言われて金は受け取れない。
愕然としているところへ、さらに「もっと手数料を払えば、受け取り権利が得られます」というメールが届く。
再び金を払うも、またもや審査に落ちてしまう。
これが延々と繰り返される。
つまり、金をだまし取られることはあっても、現金をもらえることは絶対にないのだ。
当然のことながら、お金持ちならこんな話に関心を示さない。
こうした話に乗ってしまうのは「お金に困っている、お金が欲しいと思っている人」なのだ。
つまり、この詐欺メールはさほど金を持っていない人からでも、手元にある数千円、数万円だけでもだまし取ろうとするものなのだ。
警察庁の発表した特殊詐欺の統計を見ても、それがうかがえる。
平成26年以降、年々被害金額は減っているのに被害件数は増えている。
つまり、1件あたりの金額が下がっている。
このことから、詐欺師たちは金をたんまり持っている人だけでなく、それほど持っていない人からも広く浅く金を搾取しようとする傾向が見えてくる。
金を持っている人から金を取る。
これは誰にでも考えつくことだ。
詐欺師たちの考えは、その逆をいく。
金がないからこそ、相手をだませると考える。
ゆえに、今は「私はお金を持っていないからだまされない」という考えは、捨てたほうがいい。
不況と言われる時代が長く続いたために、多額の貯金を持っている人は少なくなり、逆に金をさほど持っていない人のほうが大多数になっている。
詐欺師の側も十分にそれがわかっていて、浅く広く金を集める手法にもシフトチェンジしているのだ。
詐欺をする側の手口や心理、現状、そして「電話の切り方」など身を守る術が全7章にわたって網羅