毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今回は「松野家に距離を感じてしまった人々」について。あなたはどのように観ましたか?
【前回】凄まじい髙石あかりの芝居。本作の真骨頂のような名場面を振り返る
※本記事にはネタバレが含まれています。

髙石あかり主演の朝ドラ『ばけばけ』第15週「マツノケ、ヤリカタ。」では、トキ(髙石)とヘブンが司之介(岡部たかし)とフミ(池脇千鶴)を連れて"川のあっち側"に引っ越す。本作の語りを務める、庭の池に住む蛇と蛙との"同居"もここからスタートだ。
広々とした武家屋敷にはしゃぐ松野家だが、トキが言葉も文化も生活リズムも違う4人がうまくやれるかと問うと、ヘブンは「ニホンノヤリカタ、マツノケノヤリカタ、ヤル、ニホン、スキ、シル、マナブ」と宣言。なんとも不吉だ。なぜなら、意気込みは良いが、日常をずっと共に過ごす「家族」となると、無理はそう続かないからだ。
さて、「家族」になったことで、早速浮上するのが"呼び方"の問題。ヘブンが、家族なのに「先生」と呼ばれるのは気になると言うと、司之介はすんなり呼び捨てにし、フミは二人称として「さん」呼び+外の人間に対しては身内として「ヘブン」と呼び捨てする使い分けをスムーズに取り入れる。そんな中、妻・トキだけが名前で呼ぶことに「そげな親しげな......」とテレてしまい、"先生"呼びをなかなか脱することができない。
いよいよ4人の生活がスタート。朝は全員で朝陽に、出雲大社の方に向かって手を打ち、4人の初めての朝餉には、張り切りすぎてたくさんの料理が並ぶ。トキの得意料理のしじみ汁に、幼い頃からのクセ「あ~(吐息)」への司之介の口うるさい注意も「マツノケノヤリカタ」だ。一方、いつも魚の小骨をトキにとってもらっていたヘブンだったが、トキはもう女中ではないからと、自分でとると言う。
「ニホン、ヤリカタ、イク。ガンバリマス」
ヘブンが前向きな発言をするたび、ハラハラする。なぜなら、思ったことをそのまま口にし、「ジゴク! ジゴク!」を繰り返してこそヘブンだから。笑顔で前向き発言ばかりするなんて別人、まるである種の王道朝ドラヒロインのようではないか。しかも、ヘブンが日本の「ヤリカタ」に懸命に合わせる一方で、西洋式の「イッテキマス」の頬へのキスは、ここは日本だからとトキに拒絶される。
そんなヘブンのやせ我慢を可視化するのが、記者・梶谷(岩崎う大)の記事だ。ヘブンのことを、正座もする、魚の小骨もとる、日本大好き、日本人より日本人のようと書いた記事に喜んだ知事・江藤(佐野史郎)は、ヘブンを早速訪ねてくる。かつてヘブンに思いを寄せていた娘・リヨ(北香那)からの引っ越し祝いの下駄持参で。
さらに、松江市民も続々祝いにやって来る。ありがたい神社を訪れる参拝客のような人々の相手を毎日20人近くこなすヘブンは、さすがに疲れた様子。そんな中、ヘブンの帰宅が遅くなる。トキは倒れているのではないかと心配し、探し回るが、帰宅したヘブンは、錦織(吉沢亮)と授業や教育の話で熱くなったと説明する。
さらに翌日、ヘブンはまたしても錦織と熱い議論があるから夕餉は要らないと言い出かけていく。引っ越しで勤務地の中学校が遠くなったため、人力車で通うようになっていたヘブンだったが、トキは彼を乗せたはずの車夫・永見(大西信満)を街中で見かけ、不審に思う。尋ねると永見は「不器用ですけん、黙ることしかできません。山橋薬舗にいるとしか」と"不器用"にも、いきなり暴露。しかし、トキが山橋薬舗を訪ねると、ヘブンの姿はない。
ヘブンはその夜、口元に紅色をつけて帰宅。さらに彼が土産のパイナップルをフミに渡すと、司之介は余計なことを言う。
「やましいことがあると土産を買うてくる、これは世界共通なのかもしれんの」
トキが不安を感じつつも、1人パイナップルに向かってキスの練習をする中、ヘブンの部屋からは吐息やうめき声が聞こえていた。
そして後日。ご機嫌に人力車に乗るヘブンを見かけたトキは、彼が山橋薬舗に入る様子を目撃し、"現行犯"で店主(柄本時生)を追及する。店主はごまかすが、襟元に怪しげな紅色が......。そこで、店主をパイナップルで殴ったトキが強行突破すると、部屋の奥にはナイフとフォークで食事するヘブンがいた。
そんなに私や母の料理が嫌かとトキに問われたヘブンは「ニホンノヤリカタ、マツノケノヤリカタ、ダイスキデス」と言いつつ、「チョットツカレタ」と本音を漏らす。
新聞に出てからと言うもの、みんなが家に来て、「正座上手」「宝」と口々に言う。しかし、「タカラジャナイ。セイザ、イタイ。タイザイキ(滞在記)、カク、ナクナリマシタ」
だったら「正座、ジゴク。小骨、ジゴク」とちゃんと言ってくれとトキが言うと、ヘブンは「イエナイ。ヤットデキタ、カゾク」。
父に捨てられたヘブンにとって、結婚以上に「家族」は重要な意味を持つのだろう。その「嘘」への思いは、自分の産みの親と育ての親のこと、さらに松野家の借金返済と、松野家と雨清水家の両家を養っていたことをヘブンに話せなかったトキだからこそ理解できることだ。
トキは言う。「嘘をつかれるのは1番嫌です」「家族だけん言えんのもわかります。でも、家族だからやっぱり言ってごしなさい」と。
2人は互いに謝り、仲直りし、共に西洋料理を楽しむ。実はヘブンの口元の紅は西洋料理に使う調味料・ケチャップだったことがわかる。
翌朝、ヘブンが出勤する際、トキは真顔で近づき、目を逸らしつつ、自分の頬を指で示す。テレた様子で目をそらす錦織と「まさか......」と狼狽える司之介をよそに、トキの両頬にキスするヘブン。そこで自然に、しかし初めてトキは言う。
「行ってらっしゃい。ヘブンさん」
そして、ヘブンには引っ越し祝いと引っ越しお礼として、義父母と妻の手作りのデスクがプレゼントされたのだった。
ところで今週、互いの文化の小さな衝突が描かれた一方、切なかったのは、松野家との間に距離を感じてしまう人々の描写。
川の向こうに行くトキを見送るサワ(円井わん)となみ(さとうほなみ)。トキの幸せを祝福する気持ちには嘘はない。一方で、寂しげに川の向こうを見るのも、隠すことのできない本音だ。
引っ越し祝いに小菊の花束を作り、トキを訪ねたサワは、立派なお屋敷の玄関先に飾られた立派な花に心が折れ、手にした小菊を庭に放る。「会いたかったー!」と歓迎するトキは何も変わっていない。でも、美味しいお菓子と立派な屋敷、立派なお花に囲まれ、「島根の宝」と呼ばれる人物と一緒になったトキに、距離を感じてしまう。
そこに息を切らしてやってきたのは、銭太郎(前原瑞樹)。毎月借金取りにやって来て、ときには饅頭に勝手に手を伸ばすなど、くつろぎ、松野家が多めに返済したときには、憎まれ口をたたきつつも無理をしていないか心配していた心優しい男だが、フミに100円を返されると、激怒。
「100円なんて返されたら、わしはどげしたらええんか、こらー!」「ヘブンの野郎!おぼえちょれ!」
「借金」でつながってきた松野家との関係が、部外者・ヘブンの登場で断ち切られるような寂しさだろうか。一方、100円返済と聞き、月4円で小学校教師として働くサワは顔を曇らせ、「ごめんなさい、なんだかもう、ごめんなさい......」「別世界だった」と言って去ってしまう。
実際、友人が結婚や出産など、ライフステージが変わったことで、遠くなった気がしてしまうのは女性あるあるの悩みだ。一方、親しかった友人同士の道が分かれ、経済格差で距離を感じるのは、男女ともにしばしばあること。悲しいのは、どちらも本当は変わったわけではないのに、同じ場所にいる側が取り残される寂しさを感じたり、卑屈になったりして、むしろ距離を作ってしまうこと。
トキとヘブンは小さな衝突を経て、互いの理解を深め、夫婦に、家族になっていく一方、周囲との関係性の変化が今後どのように描かれるかにも注目したい。
文/田幸和歌子




