毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今回は「真骨頂のような名場面」について。あなたはどのように観ましたか?
【前回】朝ドラ史に残る「至上のラブシーン」...極限までセリフを省いた脚本と圧巻の演技・演出力
※本記事にはネタバレが含まれています。

髙石あかり主演の朝ドラ『ばけばけ』の後半戦スタートとなる第14週「カゾク、ナル、イイデスカ?」冒頭では、ヘブン(トミー・バストウ)が錦織(吉沢亮)と共に大好きな古事記の舞台のひとつ・出雲を旅する。そこにヘブンから電報で呼びつけられたトキ(髙石)が登場。
ヘブンはトキと錦織に「ダイジ、ハナシ」あると言う。まもなく日本滞在記が完成すると告げたヘブンは、滞在記の協力者・トキと錦織にこれまでの感謝を伝える。前週、思いが通じ合ったトキとヘブンだが、一番肝心なところ――滞在記が完成したらヘブンが日本を去るのかの結論は、持ち越しだった。錦織に改めて問われたヘブンは言う。
「イテモ、イイデスカ? マツエ、イル、イタイ」
「なして?」喜びと驚きの入り混じった涙で聞くトキに向かって、ヘブンは緊張した様子で、しかし溢れる思いを伝える。
「トナリ、ズット、トナリ、イカ......イ、イサセラレ...(ごにょごにょ)」
「イサセテ?」とトキの助け舟にのって無事言い切る。
「イサセテ......クダサイ」
トキとヘブンは自然と手を重ね、泣き、笑い合っている。トキはヘブンの答えが怖くて自分では聞けないものの、答えは「わかる言葉で聞きたい」からと錦織に日本語で聞いてくれるよう頼んだ。にもかかわらず、気づけば2人の世界で、錦織は戸惑い、目を泳がせ、一瞬で事態を察して、ちょっと照れくさそうに、しかし満足げに茶を飲む。
会話の主体がヘブン×錦織から、ヘブン×トキに自然に入れ替わり、気づけばやはり"蚊帳の外"になる錦織。3人の繊細な芝居とカメラワークのみでその絶妙な3人の距離感と心の動きを表現し、美しいラブシーンに笑いも添える『ばけばけ』の真骨頂のような一場面だ。
その後、トキとヘブンは出雲大社で錦織立会いのもと永遠の愛を誓う。このクライマックスがなんと週初日。ここから今週は「結婚」の諸事情、家の問題、「家族」の問題に移行していく。
ヘブンはもっと広い家に引っ越したいと言う。トキはもう女中ではなく、夫婦なのだから、一緒に暮らすのは当然だ。しかし、トキはそこで初めて肝心なことに気づく。彼女はヘブンに急に呼びつけられて出雲に行き、そのまま夫婦になっただけに、家族に何も話していない。ヘブンは家族に伝えることは一番大切だと言い、すぐに松野家に報告に行こうと言うが、トキは渋る。
「イジン、ダメ? ヘブン、ナイ?」
ヘブンは不満げだが、まずは自分が話すと言うトキの言葉を聞き、いったん引き下がる。"異人"との結婚にはかなりのハードルがあった時代。まして祖父・勘右衛門(小日向文世)は大の"異人"嫌いだ。さらに、トキは大変な事態に気づく。これまで毎月20円支払われていたのはヘブンの「女中」だったからで、夫婦になると給金が支払われなくなる。
トキはなにげなく雑談のような顔で母・フミ(池脇千鶴)に突飛な質問をする。
「母上は父上からお金もらったことある?」
そんな夫婦どこにもないと家族に笑われ、ヘブンとの結婚を言い出せなくなるトキ。幼い頃から借金返済のために女工として働き、後に実母・タエ(北川景子)を救うためにラシャメン(異人の女中)覚悟でヘブンの女中になり、妻になったら今度は「家事」という"無償労働"の問題が発生するとは。
しかし、大きな問題の一つ「異人との結婚」については、最大のハードルと思われた勘右衛門が「好いちょるなら仕方ないじゃろう。おじょのそげな気持ちを、もうわしは止めるつもりはない」と肯定。しかもトキの決断に背中を押されるように「猪突猛進」とつぶやき、思いを寄せていたタツ(朝加真由美)にプロポーズし、成功。トキ、そして勘右衛門と、奇しくも松野家に2つの幸せが訪れる。
しかし、1つ目の問題は解消したものの、トキはお金の問題を言い出せないまま。そんな中、三之丞(板垣李光人)がトキを訪れる。トキはヘブンと一緒になったため、給金がもらえず、今後はお金が渡せなくなると説明。そこにヘブンが現れ、「ダレ?」といぶかし気に聞くが、トキは複雑な事情を説明できず、「三之丞さまは三之丞さまです」(錦織の余計な通訳「三之丞イズ三之丞」)と煙に巻こうとしたことで、ヘブンはますます「ダレ? ムカシノオトコ?」と激怒。
その後、松野家の借金のことや、トキが産みの親(松野家)と育ての親(雨清水家)を養っていることなどを錦織が説明。2人の結婚パーティが行われるが、その場でもやはり雨清水家は"建前"として「親戚」と説明されると、ヘブンは顔を曇らせ、言う。
「カゾク、ナル、デキナイ」「ウソ、キライ。ミンナ、ウソツキ」
錦織から事情を全て聞いたヘブンは、それら全てを隠し続けるトキを「ウソツキ」となじる。
そこでトキは涙ながらに全てを告白。トキが嘘をついたのは"建前"のためではなく、ヘブンに「お金のために一緒になったと思われたくなかったから」だった。それを見た三之丞も涙ながらに母・タエに告白する。自分が社長ではなく、トキにお金をもらっていたこと、「嘘つきで恥晒しでダメな息子です。申し訳ございません」と。
実はタエは司之介(岡部たかし)のうっかり発言により、三之丞の嘘をすでに知っていたが、知らないフリをしていた。そして、三之丞の嘘は自分の期待に応えようと必死だったためだろうと言う。タエと三之丞の告白の間、その背景にいるフミの不安そうで切なげな表情にピントが合っているのが、実に『ばけばけ』らしい。
ふと気づき、「よその話を...」と詫びるタエにフミは言う。
「よそではございません」
そして、タエをヘブンに「おトキのもう1人の母親なのです」「みんな家族なのです」と紹介。すると、ヘブンは自分が母と早く別れたこと、母が大好きだったことを語り、そんな母が2人なのは「ウレシイデス、ハッピーデス。オフミママサン、オタエママサン」と呼ぶ。しかし、これで一件落着、感動......で終わらないのが、やはり本作だ。
そのやり取りを見ていたトキは強い声で「ダメ! ズルい!」と言う。そして、急に感情が溢れ出し、子どものように泣きじゃくるのだ。
「私だってぇ! ずっと言いたかった。母上って......」
"建前"のもとにタエに対し親戚の顔をし続けるしかなかったトキ。その思いに気づいたヘブンが「ドウゾ」と勧めても、今さら「無理無理......」と言うトキに、フミが粋な提案をする。
「なら、ママさんはどう? ママさんなら言えるんだない?」
決壊したように低い唸り声のような泣き声をあげ、そこから幼い子のように慟哭する髙石あかりの芝居が凄まじい。それを見て急に涙をこらえられなくなるタエ・北川景子の涙も実に自然だ。
そして、気が抜けて倒れる三之丞に、謎の"ダメ同盟"的認定で「わかりますよ」と共感する司之介がこんな提案をする。「叫びませんか。こげなときは叫ぶのが一番。ダラくそがーと」
そこから全員が縁側で叫ぶ。
「ダラくそが~!」
何の役にも立ってなさそうな者が、実は人間関係の潤滑油になっていることを、本作はときどきこうして示してくれる。そして、同じ温度ではないものの、周りを見ながら両手に拳を握りしめ、体を前傾させて、自分なりの「ダラくそがー」で共鳴する、ちょっと蚊帳の外の錦織はやっぱり愛おしい。
これまで幾度も最終回のような美しい金曜が描かれてきたが、今週は中でもピークとも言える金曜だった。
文/田幸和歌子




