【ばけばけ】「持てる側」になったトキ(髙石あかり)の一方で...「正しい努力」を続けるサワ(円井わん)への共感と願い

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今回は「サワへの共感と願い」について。あなたはどのように観ましたか?

【前回】"家族"になっていくトキとヘブン。一方、切なく描かれた「残された3人」の姿

※本記事にはネタバレが含まれています。

【ばけばけ】「持てる側」になったトキ(髙石あかり)の一方で...「正しい努力」を続けるサワ(円井わん)への共感と願い pixta_42959454_M.jpg

髙石あかり主演の朝ドラ『ばけばけ』第16週「カワ、ノ、ムコウ。」が放送された。

大変なとき・しんどいときこそ笑う、ふざける本作。予告では夫婦となったトキ(髙石)とヘブン(トミー・バストウ)が「テテポポ、カカポポ」と山バトの真似をして往来を歩くシーンが、ある種のバカップルのコント的に映し出されていたが......。

ヘブンの日本滞在記がついに完成。錦織(吉沢亮)を招き、松野家では山橋(柄本時生)の西洋料理による完成祝いパーティーが開かれる。そこに記者・梶谷(岩崎う大)が現れ、ヘブンと松野家の日常を記事にしたいと密着取材を申し込み、一家は困惑しつつも了承。「ヘブン先生日録」として連載が始まる。

パーティーの西洋料理を見ただけで「夕餉は西洋料理が定番」と大幅に「盛る」のはもはや捏造だが、料理の感想を求められたトキの言葉「牛のステーキはステキな味でございます」に内心「もらった! これで見出しが立つ!」と思ってしまったり、別の切り口を毎日無理やり探そうとしたり、隙間に箸が落ちてとれないという日常のどうでもいい話を「アリ(どうでもよすぎて逆に面白い)」と感じたりするのは、記者という人種のいやらしさであり職業病で、耳が痛い物書きは多いだろう。

そんな記事の影響で、松野家は一躍、時の人となる。町に買い物に出ると人が群がり、トキがヘブンに英語を教えてもらう様が記事に書かれると、英語を喋ってくれと言われ、トキもフミ(池脇千鶴)も変装をして出歩くまでに。

しかし、有名になったり、金持ちや人気者になったりすると、群がる人間が多い一方で、大事な人が離れていくのもこの世のうらめしさ。

なみ(さとうほなみ)はトキを「すっかりあっち側の人間だわ」と言い、女が生きていくには身売りか男と一緒になるしかないと繰り返す。それに対し、サワ(円井わん)は自分は違うと言い、試験に合格して正式な教師になる、それで「自分の力で!」「男を頼らず」川の向こうに行くと宣言。

しかし、試験勉強に集中すべく、弁護士志望の者や土木技師志望の者らが集う「白鳥倶楽部」を訪ねると、男達も皆、ヘブンとトキの話で持ちきりだった。しかも、サワが正式な教師を志望していると知るや、ヘブンのようになりたいのか→つまり、おトキさんになりたいってことかと無神経に言い放ち、サワは強く否定し、その場を去る。

さらに、サワには病気の母がいて、ヤングケアラーだったことも発覚する。

一方、なみにはいよいよ常連客・福間(ヒロウエノ)から身請けの話が来るが、遊郭での生活しか知らないため、怖くなったと言い、躊躇する。そしてサワに「(私は)ここにおると思う」「一緒におろう。傷を舐め合って生きてこう」と言うと、サワは強く拒絶。川のこっち側同士でも、やはり分断が起こってしまう。西日を浴びながら、川のむこうを見る2人が切ない。

そんな中、白鳥倶楽部で勉強しているサワの姿を見かけたからと、トキが訪ねてくる。
「それで? 私、今、勉強しちょるんだけど」

不安や焦り、苛立ちからくるサワのトゲのある言い方がしんどい。しかし、白鳥倶楽部にいる男達が有名人・トキに群がり、サワと話ができず。

そんなときに、サワは自分もじきにここを出る、正式の教師になって、「誰の力も借りず、誰にも頼らず」と言い放つ。トキは「頑張って。またね」と言うのが精一杯だった。

そしてその後、なみが身請けすることになる。若い子が他にもいるのになぜ私を?となみが福間に問うと、福間はなみがここにいる誰より悲しく見えたからと言う。一瞬カチンとくる返答だが、福間は「ホントは惚れちょる」と本音を吐露。かくして、知らない世界への怖さを感じつつも、川の向こうに行くことを決めたのだった。

ここでまた「おなごが生きていくには身請けか男と一緒になるか」を繰り返すなみを、サワは遮る。すると、なみは「あんたは違うもんね」と応じ、サワをハグしてこう言う。

「だども、無理に出んでもええと思うよ。そんときが来たら心が決めてくれるけん」

サワとの溝が深まり、落ち込むトキは川を越えてサワを訪ねるが、不在(ホントは居留守)で、母に言伝を聞かれると、何を言いに来たか忘れたと笑い、寂しげな顔で言う。

「ただ、応援しちょると」

今週は幸せになったトキ・ヘブン・松野家に対し、視聴者の多くの反応が冷たかった。一方、サワへの共感と応援の声が多く、トキ達家族よりもサワ達をもっと描いてほしいという声も散見された。「持てる側」に対して、世間の風当たりは強い。

実際、幼い頃、サワの真似をして一瞬教師になりたいと言ったトキだが、親の借金で小学校をやめ、やがて産みの親と育ての親の両家を養う苦労を経て、有名人と結ばれ、裕福になり幸せになった。

それに対し、幼い頃から教師を目指し、男の力を借りず自分の力で幸せになると言い続け、努力を続けてきたサワは、代用教員になっても暮らしが楽になることなく、仕事と試験勉強、親のケアに明け暮れている。

ただし、誇り高いサワは、無意識下に悪意なくトキやなみを自分より下だと思っていなかったか。

なみに「私達」とくくられるのを嫌がり、「傷舐め合って生きよう」と言われることに、誰より正しい努力をしてきたサワが不快感を覚える気持ちはわかる。

実際、努力してもしても一向に川のむこうが見えてこないサワの絶望感は想像するに余りあるものだ。しかし、だからと言ってトキはどうすれば良かったのか。

同じ場所にいたトキは、今はもう川のむこうから「頑張って」「応援しちょる」と言うようになった。その言葉の空疎な響きに絶望が深まるのも無理はない。

「正しい努力」が報われる世の中であってほしい。これは日々懸命に生きる人の誰もが願うことだろう。

一方で、「正しい努力」だけが認められるのではなく、誰かを犠牲にしたり傷つけたりするのでない限り、どんな方法であれ人は幸せになる権利があるし、ちゃんと幸せになることを否定しない自分でありたいし、否定されない世の中であってほしい。誰かを頼ることに後ろめたさを感じなくて良い世の中になってほしい。

トキとサワの分断は解消されぬまま、次週は校長の話が出てきた「大盤石」錦織と、代わりの英語教師候補として呼ばれた「半分弱」庄田多吉(濱正悟)の何やら因縁めいたものも描かれそうだ。

軽いトーンの一方で、重い重い問いを残す第16週だった。

文/田幸和歌子

 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

PAGE TOP