多くの人にとって人生で一番大きな買い物である「家」。老後の過ごしやすさなど、いろいろ考えて建てたのに、しばらく暮らすと不便な部分がチラホラ...。その理由の一つは「間取りのプランニング不足にある」と現役工務店社長・窪寺伸浩さんは言います。今回は、『いい住まいは「間取り」と「素材」で決まる』(あさ出版)から、「家と人生の関係、理想の間取り」について連載形式でお届けします。
「間取り」プランナーが真の要望を引き出す
「間取り」のプランナーは、著名なる設計者である必要はありません。逆に「自分は自分は......」という我(エゴ)をなくして設計することが大切です。
なぜでしょう?
「住まい」をつくるには、「住む人」の要望がなくてはなりません。しかし、住む人は「住まい」を建てるにあたって、いろいろな勉強をされます。住宅雑誌を見て、あのデザインがいい。この素材を使ってほしい。あるいは休日ごとに、住宅展示場を歩いて、各ハウスメーカーの仕様を見て回ったりしています。さらに、さまざまな専門書を読んで工法の良否も学んでいます。
それらの行為は悪いことではありません。しかし、知識や情報ばかり詰め込んでいても、ほんとうに良い「住まい」はできません。できないばかりか、住む人の本質的要求、つまり「幸福になりたい」「幸福な家庭生活を営みたい」ということを逆にわからなくしてしまう場合もあるのです。
住む人が「間取り」プランナーに希望することは、そのようにして詰め込んだ知識や情報が一緒くたになったものであることが多いのです。
1回や2回の「間取り」プランの打ち合わせでは、真の要求は出てきません。10数回から20回の打ち合わせによって、ようやく「住まい」を求める真の要望が出てくるのです。この10数回に及ぶ「間取り」プランの中で、夫婦、親子の要望のぶつかり合いがあります。このぶつかり合いがなければ、住宅ができあがってから不満が爆発することになるからです。
「間取り」プランの中心は、あくまで「住む人」です。プランナーは、潜在的要求、真の要望を引き出す役割です。
だから、プランナーは建築のプロとしてのアドバイスはあっても、プランナーの押しつけがあってはならないのです。住み手の真の要望を引き出すため、プランナーは我(エゴ)をなくし、夫婦、親子、家族同士の各々の欲求、要望を整理して「幸福な家庭をつくりたい」という、真の要望に導いていくのです。
後悔しないために「間取り」プランに時間をかける
「間取り」プランづくりには、10数回から20回以上の打ち合わせが必要です。そういうと、「そんな時間はない」「面倒くさい。嫌だなあ」とおっしゃる方がいます。たしかに、プランづくりというのは、家族が多ければ多いほど「ああでもない、こうでもない」と結論が出ないことが多いのも事実です。
図面上でのプランの変更は、消しゴムと鉛筆さえあれば可能です。しかし、いったん建ててしまった「住まい」の中で、部屋の「間取り」を変えることは大変お金もかかりますし難事業です。
「住まい」を建ててしまってから、ああすれば良かった、この方が良かったと後悔することは愚かなことです。
建てた工事会社、施工会社ばかりを恨んでも仕方ありません。たとえそれが建て売り住宅であっても、規格プランが数種類しかなくとも、その施工会社と設計を選んだのは、まさに自分自身なのですから。
「間取り」プランの打ち合わせは、すべて対面式でやるのではありません。遠隔地のお客様とは、ファックスやメールでプランを送らせていただく。建て主さんにチェックしていただき、それに基づいて、また新しいプランをつくり提案する。
約20種類のプランは、似たようなものもあり、全然違うものもあります。プランAとBの違いは「トイレの窓一つの位置をどうするかだけ」といったものもあります。とにかく、細かく可能性を追求するのです。
冨田辰雄(著者の師)は「安らぎのプラン集」として12巻5300パターンを公にしました。それとてすべてを網羅しているのではありません。住む人の要望、家族構成、そして敷地の環境を加味する必要があります。あなたの敷地の中で、幸福を生む「住まい」を追究するのが「間取り」プランナーの使命です。
冨田は、その「間取り」プランを実践的にできる人々を養成するため、昭和56年(1981年)にホーミースタディグループを設立しました。
「間取り」のプランナーは一級建築士である必要はありません。「住まい」の目的を知り、人生の体験を豊富にした素直な人ならば、誰でもなれるのです。「間取り」の具体的な相談については、マルトミホームをはじめ、ホーミースタディグループにぜひご相談ください。
それでは、ここから間取りについての基本的な考え方をご紹介してまいりましょう。
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